「とりあえず制限……他の奴と違って移動にも使ったりするからなぁ」
今まで等級強化を行ってきた2種の魔術は、その用途自体戦闘以外には使えない物だったため、制限自体もそこまで迷う事はなかった。
もう1種、魔術創造時についてきた【ラクエウス】に関してはこの場では除外しておく。
【衝撃伝達】、この魔術は蹴りに衝撃波が1回発生するという応用の利きやすい攻撃魔術。
だからこそ、方向性としてはその応用の利きやすい部分を損なわないように制限を掛けていきたいのだ。
……いや、私にとっては結構簡単に掛けられる可能性がある制限自体はもう見てるのか。
先程除外した【ラクエウス】。その制限内容である【霧のない場所では行使できない】。
これに関して、きちんと調べる必要があるのかもしれない。
思いついた事を試すため、羽ペンを持っていない方の手で『白霧の狐面』に触れ、出来る限り薄く……注視しなければ見えないほどに薄い霧を生成する。
「【ラクエウス】」
そして宿の部屋の床ではあるが、トラバサミを生成すべく魔術の宣言を行った。
結果として。周囲の霧が更に薄く……ほぼなくなるのと引き換えにいつもよりも少し小さいトラバサミが生成された。
つまりは、だ。
「出来る限り薄めた霧でも発動自体は出来るけど、その分性能は下がるってことか。いや、普段使いの移動用ならこれでも十分かな?」
羽ペンをくるくるとペン回しの要領で回しながら考える。
どうせ制限が等級強化の度に増えていくのならば、やはり最初は【ラクエウス】くらいの制限の方が後々楽なのではないだろうか。
しかしながら、他にも何か良い制限があるような気がしないでもない……と考え、小さく息を吐いた。
「迷ってても仕方ないか。とりあえずこれで」
【【追記の羽ペン】による制限の記入を確認しました】
【制限『霧のない場所では行使できない』】
【この制限で間違いはないですか?】
いつも通りの確認を承認し、羽ペンが光となって【白紙の魔導書】へと吸い込まれていくのをぼうっと見ていると。
突然、私の身体から白に近い薄い水色の光の粒子が飛び出してきた。
何かと思い身構えると、その光の粒子は徐々に1つとなり、本のような形に整形されていく。
そうして出来上がったのは、【白紙の魔導書】、【血術の魔導書】と似たような本。
しかしながらその本はすぐに他の本と共に光となって消えていった。
【承認確認しました】
【【衝撃伝達】の等級が『初級』から『中級』へと強化されます】
【等級強化を終了します】
【動作行使用のモーションを決めてください】
【強化により、新たな魔術体系が開放されました】
【【創魔】の体系追加、等級強化が開始されます】
【【創魔】の等級強化完了】
【中級に到達した魔術数が規定数に到達しました。プレイヤーの等級を『beginner』から『novie magi』へと変更します】
【機能が開放されました。詳しくはオンラインヘルプをご確認ください】
――――――――――
【
種別:霧術・攻撃
等級:中級
行使:発声、
制限:【霧のない場所では行使できない】
効果:自身の脚、もしくは拳、尾によって衝撃を与えた場所に対して魔力の衝撃波を発生させる
霧の濃さによって衝撃波の強さが変動する
ダメージ:{(自身の筋力の値)+(自身の精神力の値)}/2+(霧の濃さによるボーナス)
――――――――――
「待って待って待って、流石に追いきれないし頭が追いつかない」
取りあえず1つずつ処理していくのが良いだろう。
まずは……そう、私が行っていた等級強化の方から。
【動作行使】が追加されているため、とりあえず足を1回踏み鳴らすというモーションを登録しておく。
これで声に出さずとも魔術の行使が行えるようになったのと同時、霧がない場所では行使できないようになった。
それに加え、使った素材の影響か脚以外の場所でも衝撃波が発生するようになっている。
これに関しては単純に便利になったので良しとしよう。ほぼ飾りとなっている私の尻尾で攻撃出来る可能性も出てきたのだ。不意打ちには持ってこいだろう。
霧の濃さによって発生するボーナスに関しては……まぁそこまで気にしても仕方がない。
ダメージの計算式を見る限り、最低限のダメージは今までと同じように出るようだから、本当にボーナス程度のものと考えておいていいんじゃないだろうか。
続いて、等級強化の流れで追加されたと思われる【霧術】。
一応他の習得魔術を見てみると、【霧の羽を】と【ラクエウス】にも追加されていたため、霧関係の魔術は全てこの魔術体系に突っ込まれているのだろう。
新しく目の前に出現した魔導書はさながら【霧術の魔導書】とでもいうべき代物。
……これで普通の素材を使っても霧に関係する魔術が創れるってことかな。
【血術】と【霧術】。
この2つで創るか、それとも【白紙】でまた別の体系を目指すかで分かれそうだが、選択肢が増えたと思って素直に喜んでおこう。