目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Chapter2 - Episode 20


こちらに飛んできた紫色の液体を横に跳び退く事で躱しながら、相手の姿をしっかりと見据えて宣言する。


「【ラクエウス】!」


瞬間、周囲に生成していた霧が複数の槍のように形状を変え、一斉に相手へと……薄汚いローブを纏った骸骨の魔術師へと襲い掛かる。

しかしながらそれがまともにダメージを与える事は無かった。

単純に防がれた、というわけではなく。どうやら遠距離攻撃や魔力……実体を伴わないタイプの攻撃には耐性を持っているようなのだ。


「やっぱり罠の方が効率はいい、か。よし、メウラ!」

「了解。【ゴーレマンシー】、【使役の金槌】」


私の声に、霧の範囲から出て周囲をゴーレムで固めていたメウラが返事を返す。

瞬間、ガキンという金属音と共に何か巨大なモノが出来上がっていく気配を背後に感じ……私は全力でその場から離脱する。

といっても、相手の……『死病蔓延る村』の劣化ボスである『病魔の術師』の足元に目を向けつつ、小さく【ラクエウス】の宣言を複数回行いながらではあるのだが。


選択している罠はトラバサミ。

そこまで巨大なものではないが、それでも人を掛けられるくらいには大きめのものだ。

それが複数個『病魔の術師』の足元に設置され……何かを感じ取ったらしき『病魔の術師』が逃げようとした所でそれらが骨の足に噛みついた。


「おっけ、捕まえた!」

「おりゃあぁああああ!!!」


メウラに対してそう言った瞬間、彼の叫ぶような声と共に巨大な……土で出来た金槌が振り下ろされる。

アレが彼の新しい攻撃魔術……【使役の金槌】。

詳しい詳細は聞いていないが、私が『蝕み罠の遺跡』に挑んでいる時に頑張って攻略していたダンジョンのボスから貰った素材で創った魔術らしく……その破壊力は私やフィッシュのような前衛の一撃よりも遥かに重い。


劣化ボスと金槌が接触すると同時、何かが光り、一瞬金槌の勢いが緩んだものの……その圧倒的な質量の前にはその何かも意味がなかったのか、そのまま劣化ボスは潰れていく。

少しして光の粒子が空へと昇っていくのが見えたため、HPを全て削りきることが出来たのだろう。


【『病魔術師の骨』×2、『病魔術師の頭蓋』、『病魔術師の粘液』を入手しました】


通知が流れ、きちんとボス戦が終わったことを告げられる。

これで何度目かの挑戦になるため、劣化ボスの素材も中々溜まってきていた。


「お疲れー、やっぱ火力出るねぇそれ」

「あぁ、お疲れ。代わりに場に出してるゴーレム達全部使うけどな」

「まぁ仕方ないでしょ。そうじゃなかったらもう1人軍隊と同じじゃん?」

「それもそうか。……等級強化で将来そうなりそうな気もするが」


強力な魔術には勿論デメリットが存在している。

私の【血液強化】に【貧血】や継続的にHP、MPを消費する効果が付いているように、メウラの【使役の金槌】には、場に召喚、生産した使役系のモブ達を全て消費しなければ発動出来ない、というデメリットが存在していた。

その分、消費した数によってダメージが増加するようだが……それでも、基本は後衛である彼にとってはかなりのデメリットにはなるだろう。

一撃を外した際には周りを守ってくれるゴーレム達も居ない状態で相手と相対しなければならないのだから。


「よし、そろそろ終わりにする?レベルあがった?」

「あぁ、19になった」

「はっや、私まだ17だよ」

「生産の方でも経験値貰えるからな。その差だ」

「へぇ、いいなぁ」


レベルも上がり、ある程度素材も集まったという事で。

私達は劣化ボスと戦えるエリアの近くに居るプレイヤー達に挨拶をした後にダンジョンから離脱した。

尚、ダンジョン内の敵性モブと戦う事になるかと思っていたのだが……入口からすぐ近くにそのエリアがあったため、戦う事なく終わってしまった。

暇がある時、必要になった時に取りにくればいいだろう。



その後用事があるというメウラと別れ、私は習得魔術一覧を見ながら『惑い霧の森』のボスエリアの境内で悩んでいた。

というのも、結構使用頻度の高い魔術の等級強化が出来そうな素材、敵性モブと出会う事が出来ていないからだ。

特に【衝撃伝達】。この魔術の等級強化は出来る限り早くしたいのだが……蹴りを主体に攻撃してくるようなモブなどイニティラビット以外に見た事がないのだ。

そもそもとして等級強化に必要な素材すら確かめていないため、何が要求されているのかを確かめる所からになるのだが。


ちなみに、場所については特に意味はない。適当に風に当たりたいなぁと思いながら歩いていたらここに辿り着いていただけだ。


「えぇい。とりあえず見てみて決めよう」


【衝撃伝達】の等級強化のアイコンをタッチしてみる。

すると、いつものように通知が流れ始める。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【衝撃伝達】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『霧熊の掌』、『霧霊狐の尻尾』が規定数必要となります……規定数確認】

【【衝撃伝達】の強化を開始します】


「……あれ?出来ちゃった」


意外にもそのままするっと始まってしまった等級強化に呆然としながら、私は出現した羽ペンを手に取った。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?