「さてっと、強化も終わったし今日はどこに繰り出そうか……っと?」
【システムメッセージを受信しました】
私が今日は【荒野】のどこら辺を散歩しようかと考えていると、見慣れない通知が流れた。
メニューを開いてみれば、普段活用することがないメッセージの受信ボックスに1件のメッセージが入っているようで。
「……えぇっと?第1回公式イベントの開催のお知らせ……あー、そういえばイベントやってなかったなぁ」
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件名:【第1回公式イベント開催のお知らせ】
本文:創魔の術師の皆さま、ごきげんよう。
ダンジョンを攻略、【創魔】による魔術創造など、Arseareを楽しんでくれていて大変ありがたいです。
さて、今回は公式開催によるイベントを開催する予定である、ということをお知らせしようとメッセージを送らせていただきました。
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イベント名:【双魔研鑽の闘技場】
内容:希望者によるPvPイベント
予選、本戦と2段階に分かれており、予選ではバトルロイヤル、本戦では1対1のマンツーマン
詳しいルールは後日発表予定
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詳しい内容は後日、公式サイト及びシステムメッセージにてお送りいたします。
開催日は今日から約2週間後となるので、創りたい魔術、強化したいもの等、準備をしておくといいでしょう。
では、創魔の術師の皆さま。良き魔術生活を。
-Arseare開発運営局-
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長々と書かれているメッセージを軽く読み飛ばしながら。
しかしながら重要な部分だけはしっかりと読み内容を理解していく。
「PvPイベントかぁ。確かに魔術を創れるって謳ってるんだし、傍から見ても分かりやすく色んな魔術が見れる機会ってのは重要だよねぇ……」
【創魔】という、Arseareの他にはない個性の部分を強調させるための……所謂対外に見せる用のイベントでもあるのだろう。
しかしながら、プレイヤーである私達にとってもこのイベントに参加、ないしは見学することはメリットがある。
単純に言えば、どんな効果の魔術を創ることが出来るのか、それの応用法まで一度に見れてしまうのがこのイベントなのだ。
私の【衝撃伝達】で言えば、蹴るという動作にしか効果を発揮しないのに対し、地面を文字通り蹴ることで効果を発揮させているのと同じように。
似たような魔術を少し変わった運用法で使っているプレイヤーは確実にいるはず。
そんなプレイヤー達の戦いを見る事が出来る、というだけで十分に参加する意味はあるだろう。
「……問題は私が出るか、って所なんだけど……」
別に出ても良い、とは思う。
ただ、こういうイベントでは所謂『魅せプレイ』と言われるプレイスタイルをとらないと逆に色々と面倒な叩かれ方をすることも多いため迷ってしまう。
何せ私は偏りもあるものの、『白霧の狐面』によって霧を発生させ、相手が霧の中でこちらを認識できないのをいいことに嬲り殺しにするのだから当然だろう。
外から見ていても、白い霧しか見えないのは中々に問題だ。
「……一応、参加の方向で行こうかな。途中までは霧を使わなければいいし」
本当に危なくなったら使えばいいだろう。
そうと決まれば、あと2週間はイベントに向けての強化を中心に行った方が良い。
私は宿屋を出ると、【カムプス】から【始まりの街】へと転移した。
こちらに向かって突進してくる劣化『白霧の森狐』に対し、指を鳴らし非実体の羽を出現させる。
周囲には私と白狐が霧を発生させているため、効果時間にボーナスもついている。
非実体の羽を頭を振って払おうとする白狐にタイミングを見計らって近づき、『熊手』で一気に首を引き裂き血を採取、そのまま絶命させる。
【『霧霊狐の血液』、『霧霊狐の尻尾』、『霧霊狐の眼球』、『霧霊狐の毛皮』を入手しました】
「よーっし、慣れてきた慣れてきた」
【始まりの街】へと転移した私は、そのままの足で『惑い霧の森』へと訪れ、ボスと連戦を行っていた。
と言っても、1戦1戦ごとに休憩を挟んでいるため、連戦……というと首を傾げるかもしれないが。
何故今『白霧の森狐』と戦ってその素材を確保しているかと言えば、簡単に言えば装備の新調などを行うためだ。
今使っている装備はどれもボスに挑む前に作ってもらった、オーダーメイドとはいえ装備効果の弱い物。
どうせ自由に挑め、尚且つある程度慣れているボスがいるのだから、素材を集め一新してもらった方が良いだろうという判断をしたのだ。
「あ。アリアドネさんお疲れーっす。今何回目?」
「ん、お疲れ様ー。多分5回目くらい?そっちは?」
「はっや。こっちまだ3回目終わった所ですよ」
周囲の、同じように休憩を挟みながら連戦しているプレイヤー達と適当に話しながら、MPの回復に努める。
「あー、そいえば君らって確かボス専門の狩りばっかりやってるんだっけ」
「そうっすね、ゲーム外クランですけど『
「ほうほう。君らは『惑い霧の森』を担当してんの?というか担当とかあったりするの?」
「いやないっすね。ホント、ボスだけ狩れればいいんでそこらへんは。あ、狩場教えましょうか?こっから近いとこの奴」
「お、良いの?こっちから何か出そうか」
思わぬ情報についつい反応してしまう。
当然だろう、ボス専門のゲーム外クランが教えてくれる狩場などイコールでボス戦が行える場所に決まっているのだから。
彼ら『駆除班』から何か所かのダンジョン、それも劣化ボスと戦えるエリアが設置されている場所を教えてもらい、その礼に倒しにくいだろうミストシャークなどの素材を渡した。
「よっし、あと何周かしたら行ってみるかな」
「うわぁ……アリアドネさん、実は『駆除班』入ってたりしません?別名義で」
「入ってない入ってない。私のコレは必要だからやってるのであって、君らとは目的が違うからねぇ」
そんなこんなで時間は緩やかに過ぎていった。