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Chapter2 - Episode 15


どうしてかは分からないものの、【霧の羽を】によって出現した非実体の羽による妨害を受けたモブ達はほぼ全てその羽を振り払おうとするモーションをしてしまう。

中には目に頼らずに敵を索敵しているモブもいるため一概には言えないものの……しかしながら目を使っているモブならば確実に隙を作り出せる強力な魔術だった。


そしてそれは、目の前の『万蝕の遺人形』も例外ではない。

こちらに襲い掛かろうとしていたフランス人形は、突然出現した非実体の羽を振り払おうと頭を振ったり、その小さな手で払おうとしているがそもそも実体がないため意味がない。

そして戦闘中にそんなことを敵の目の前でやろうとすればどうなるか。

結果は分かりきっていた。



【ボス撃退戦をクリアしました】

【『万蝕の遺人形』との対話が可能です】

【『万蝕の遺人形』を討伐しますか?】


その後は苦戦するわけもなく。

私達の目の前には半分壊れながらもびくんびくんと動いている幼女形の人形の残骸が残った。


「いやぁ、お疲れ様。意外とすんなりいったねぇ?……ってどうしたのアリアドネちゃん」

「あーいえ。ちょっと使ってた魔術のデメリットで筋肉痛みたいになってるだけです」

「成程ねぇ……ちなみにこれどういう状況か教えてもらってもいい?」


元々HPが少なく、それでいてこの場に揃っているのは私を含め、どちらも近接距離ならば火力のある攻撃を行える前衛が2人。

我武者羅に罠を設置されても冷静に避け、そして攻撃を当てる事くらいは出来る。

惜しくは【霧の羽を】をソロで挑んだ時にしっかりと決めることが出来ていたら、フィッシュに頼らずとも1人で何とかなっていただろうと思ってしまうことだが……あの時の私は突然の状況に気が動転していたり、適切な判断が出来ていたとは言い難いためしょうがないと割り切るしかないだろう。


「一応聞きますけど、通知自体はそっちにも行ってます?」

「来てるねぇ。でもホストが決定していますとか出てるから、決定権自体はアリアドネちゃんが持ってるんじゃない?」

「成程……一応これがオリジナルのボス戦後に出てくる選択肢ですね。……ちなみにフィッシュさんはこの選択どっちがいいですか?」


自分だけで決めるのは違うだろう、ということでフィッシュがどちらを選択したいかを聞いてみるが、彼女は苦笑いを浮かべつつ返答してくれた。


「あー……うーん。私はこのダンジョンに来たの今回が初めてだからなぁ……探索してみてどうだった?」

「罠が大量にあって、遺跡系のダンジョンなのに宝すらなかったですね。旨味はあんまりないです」

「オーケィ、じゃあ討伐にしよう」

「了解でーす」


彼女の判断に異論はない。

というか、私だけだったとしてもこの場の選択は『討伐』を選んでいただろう。

元々『遺跡』という特性で罠があるのにも関わらず、『蝕み罠』で更に増えているのがまず不味い。

それに加え、罠に引っかかりながら進んでくる敵性モブなど探索時点で面倒がすぎるダンジョンだ。

こんなダンジョンが恒常コンテンツとして配置されていたら、間違いなく私はその運営に問い合わせを送るだろう。


『討伐』を選択し、ウィンドウが消える。

すると目の前の人形だったものが金切り声のような音を立てながら塵となって消えていく。

どうやらあの通知が出ている状態ではほぼ死んでいるようなもの……HP1の状態で無理矢理待機させられているのだろう。

『白霧の森狐』の時のように『対話』を選べば、そこからシステム的にHPを全快させられ。

今回の『万蝕の遺人形』のように『討伐』を選べば、HP1から0になって死んでいく……このシステムを考えた運営のスタッフは中々に性格が悪いようだ。

これを面白いと思う私も十分に悪いとは思うが。


【『遺人形の目玉』、『遺人形の指』、『遺人形の肉切り包丁』、『遺人形の足』を入手しました】

【レベルが上がりました】


「ん、ボス素材。フィッシュさんも入りました?」

「うん、入ったね。いやぁ美味しい美味しい。ありがとうね、アリアドネちゃん」

「いえ、私もこんなに簡単に終わるとは思ってなかったん、でぇ?!」


雑談をしようとしたその時だった。

ガクン、という大きな縦揺れが襲ってきたかと思うと周囲の壁や床が崩れていく。

それと共に、私の視界にはカウントダウン表記とテキストが1文。

【ダンジョン崩壊まで――】という、悪い予想をするには十分すぎるものが表示されていた。


「忘れてたッ!『討伐』だとダンジョンも消えるんだった!」

「おっと、じゃあ早く出ないとか。最初の部屋のすぐ近くで助かった」

「あっ、そういえばそうでしたね。危ない危ない……」


一瞬慌てたものの、そういえば現在位置は最初の部屋を出てすぐの通路。

後ろを振り向けば最初の部屋の扉が見える位置だ。

私とフィッシュはそのまま軽く雑談しながら、余裕をもってダンジョンから外に出た。


その後崩壊した遺跡の跡地は特に荒れている様子もなく。

遺跡の残骸もすぐに光となって消えてしまったため、そこに何かがあったという痕跡すらもなくなってしまった。

少しだけ、それが寂しいと思いつつ。私達は【カムプス】へと帰還しその日はログアウトした。


――――――――――

Name:アリアドネ Level:15

HP:294/400 MP:78/130

Rank:beginner

Magic:【創魔】、【魔力付与】、【挑発】、【脱兎】、【衝撃伝達】、【霧の羽を】、【血液強化】、【血狐】

Equipment:『熊手』、『ミストミリタリージャケット』、『ミストショートパンツ』、『イニティグローブ』、『イニティロングブーツ』、『白霧の狐面』、『霧の社の手編み鈴』

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