目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
Chapter2 - Episode 6


「何か忘れているような……いや、まぁ後ででいいかな」


『蝕み罠の遺跡』、その入り口に辿り着いた私はなんとなくではあるが、そのダンジョンを眺めていた。

挑まないわけではない。ただどうやって挑むべきなのか、そこを掴みかねていたのだ。


『惑い霧の森』の時は侵入と同時、セーフティエリアを探さない限り実質出られなかったから覚悟を決める事が出来たものの。

この『蝕み罠の遺跡』は下手に知識があるからか、どう罠を探し出そうか、対処しようかと入る前から考えてしまう。


……霧で罠の察知とか出来たら楽なんだけど……それをするにも手持ちの素材で創れるとは思えないし。

一番可能性があるのはミストシャークの素材だが、ロレンチーニ器官のような魔術が創れそうかと言われると……分からない。

試してみるしかないのだが、とりあえず中に入ってみないと分からないことも多いだろう。


「……よしっ!1回死ぬまで行ってみよう!中にセーフティエリアもあるかもしれないし!でも、【血狐】!護ってね!」


迷っていても仕方ない。そう考え入り口へと踏み出す前に【血狐】を発動させる。

実体、というよりは肉体を持っていないこの血の狐を使えば、岩が転がってくるなどの古典的な罠だったりしない限りは何とかなるんじゃないかと思ったためだ。

一歩踏み出し、入り口の中に入る。


【ダンジョンに侵入しました】

【『蝕み罠の遺跡』 難度:3】


『惑い霧の森』の時のように、マップ機能が制限されることはない。

しかしながらダンジョン内のマップに切り替わったためか、ほぼ何も確認できないマップを見る気にはならなかった。


入り口から一歩踏み込んだ場所は周囲を石の煉瓦で囲われた正方形の部屋だった。

正面には木の扉が取り付けられており、それ以外は天井から吊るされている光る石が入った灯りのみ。

まるで準備用の部屋だ。


「……よし、霧出しておこうかな」


顔の横につけていた『白霧の狐面』をしっかりと被り直し、霧を発生させる。

部屋の中に濃い白の霧が充満し、入り口から外に出ようとしているが、操作を行うことでダンジョン内に霧を留める。

【血狐】は一瞬ビクッと反応したものの、霧の中でも問題なく動けるのかそのまま私の横に座り顔の部分を周囲に振って索敵の真似事のような事をしていた。


扉に手をかけ、ゆっくりと内側に開いていく。

それと共に部屋に充満していた霧をその奥へと移動させつつ、『霧の社の手編み鈴』のちりんと鳴らす。

反応は、ない。


「範囲内に敵性モブは居ない、と。入り口に近いから?まぁ何にせよいないのは助かるけど…… 」


扉の外に広がっていたのは、石煉瓦で造られた薄暗い一本道の通路だった。

所々に灯りが灯っていたのであろうランタンらしきものが見えるが、今はまばらにしか灯っておらず、その明るさもマチマチだ。

通路の左右の壁には木の扉が取り付けられている所もあるため、部屋も存在しているのだろう。

そして、そんな通路の真ん中に目立つように置かれている物が1つ。


それは木製の箱だった。

『霧の社の手編み鈴』に反応がないということは、かの有名な箱型モンスターであるミミックではないのだろう。


それが何なのかと思いつつ、近くで確かめるべく通路に出ようとした瞬間だった。

足からブチッという、何かを引きちぎったような感覚が伝わった。

見れば、ひらりと地面に落ちていく半透明の糸があり……私は全身から冷や汗を掻く。

ブービートラップ、一番思い付きやすい罠で、一番こういう場所で警戒すべき罠の引き金らしきその糸を、反応させる形で気付かず引っ張ってしまったことに気が付いたからだ。


バッと頭を護るように腕をかざすものの、こちらには何も飛んでこない。

流石に考えすぎだったか?と思い、腕はそのままに正面を見れば。

火のついた矢が何故か木製の箱へと向かって飛び、命中した。


その瞬間。爆発音と共に私の目の前は光に包まれる。

【血狐】を使っていたために減っていたHPが衝撃によって減っていくものの、死ぬ一歩手前で止まってくれた。

勢いあまって最初の部屋へとゴロゴロと転がり込んでしまったものの。私はあの箱の正体に半笑いになってしまっていた。


「ば、爆弾……かよ……!」


最初の一歩目からこんな罠が存在するこのダンジョンは、どうやら本当に難度の高い場所らしい。

【血狐】は衝撃波によって吹き飛んだのか、周囲のどこにも居らず。ただHPを減らしただけになってしまったらしい。

発生させていた霧も吹き飛び、代わりに爆煙が充満する通路を見てどうするべきかと考える。

先程見えた木製の箱は1つのみ、それに反応するように糸が設置してあったと考えると、中々に面倒なダンジョンだ。

ウェルカムトラップこんにちは、死ね!なんてものを喰らうとは思いもよらなかったため、更に慎重にならざるを得ない。


そういえば、あんな爆発があったがこのダンジョン自体は大丈夫なのかと、徐々に晴れていく爆煙の奥を見てみれば……特に変わった様子はなく、木製の箱がなくなった程度しか違いはなかった。

罠によって他の罠が壊れてくれる、なんて幻想は抱かない方がいいかもしれない。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?