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Chapter2 - Episode 5


進んでいくこと暫し。

続いていた【平原】は徐々に荒はて、荒野と言うべき場所へと辿り着いた。


「名前は……【忘れられた荒野】。【平原】との関係が気になる所だけど、街とかあるのかな、このフィールド」


本来『惑い霧の森』を見つけなければ、この【荒野】のようなフィールドを先に見つけていたのだろう。

少し見渡しただけでは人が作ったと思われる建造物の類や案内板なんかは見つけることが出来なかった。


「んー……一応発動しとこう。【血狐】、襲い掛かってくるのが居たら迎撃してね」


私はHPを消費して、血の狐を呼び出した。

『白霧の森狐』戦では自ら解除し消してしまったものの、どうやらこの魔術は魔導生成物のHPが無くなるまでは持続するらしく……こうやって適当に発動しておくだけでも護衛としては十分な性能をしていた。


そんなこんなで当てもなく更に歩いていくと、1つ人工物を見つける事が出来た。

しかしながら、それは街などではなく遺跡と呼んだ方がいい石で出来た建物だった。

近くに数人のプレイヤーも居たため、話を聞いてみると。


「ん、ダンジョンの一種だよ。ここは『蝕み罠の遺跡』って名前だ。特性の所為で罠が大量に設置される癖して、遺跡って部分でも更に罠が増えてるから旨味はすくねぇぞ。俺らも撤退するところだ」

「成程……あ、このフィールドって街ってあります?すいません聞いてばかりで」

「いや、大丈夫だ。街ならこっから東に進んだらあったな。嬢ちゃんも危なくなったら引き返すなりなんなりしろよ」

「はーい、ありがとうございましたー」


どうやら目の前の遺跡はダンジョンだったらしい。

『蝕み罠の遺跡』……『蝕み罠』という特性は、話に聞いた通り罠の大量設置が主な効果らしい。

掲示板で確認してみると、それに加えて【毒】や【貧血】などといった状態異常を与えてくる罠が多いらしく、そもそもとして攻略するための準備に掛かる費用と、攻略して得られるアイテムなどとの釣り合いがとれていないらしい。

旨味の少ない、掲示板でも見つけたとしても避けるようにと言われている特性の1つだ。


それに加えて、副題である『遺跡』。

こちらに関しても罠が設置される特性でありながら、遺跡内に宝箱、もしくは宝物庫が設置されることがあるらしく、そこから得られるアイテムなどが高価だったりレア度が高かったりと旨味自体は中々のものらしい。

先程のプレイヤー達も『蝕み罠』の部分ではなく、『遺跡』の部分を見て攻略しようと考えたのだろう。


「うーん。いやでも面白そうだよね」


正直な話、私がここを探索する意味は薄い。

元々は街を探しているのだから、教えてもらった通り東へと進んでいけばいいのだから。

しかしながら興味をそそられるという意味ではこちらの方が上だ。

街は街、どうせやることも宿をとって等級強化を行う程度。

しかしながらこのダンジョンは罠が沢山、宝もあるかもしれない・・・・・・


「……いや、ダメだダメだ。探索するならせめてセーブポイントの更新しないと」


今現在、私がデスペナになった場合転送される先は【始まりの街】の宿だ。

『蝕み罠の遺跡』に挑むのならば、せめて【荒野】の街の宿をとってセーブポイントを更新してから挑まなければ、再度【始まりの街】からここまでくることになってしまう。

それは流石に面倒なため、私は言われた通り東へと歩き出した。

私が戻ってくるまでにあのダンジョンが攻略されていないことを祈りながら。



【荒野の街 カムプス】。

東に歩き、辿り着いた街の名前だ。【血狐】に関しては街に入る前に解除しておいた。

何があるかは分からないものの、下手に警戒させる必要もないだろうと判断したからだ。

中に入ると同時に通知が流れる。


【新たな街を見つけました】

【街の中心に存在する噴水から、過去訪れた街へとテレポートすることが可能です】


テレポート、つまりは街から街へ瞬時に移動できるシステムだろう。

地味に長いと感じていた旅路を一瞬で省略できるのは素直にありがたい。


中世風だった【始まりの街】とは違い、こちらは何処か古代エジプトを思わせる砂岩や日干し煉瓦などで作られた建造物が多い。

そこに住んでいる住人達もターバンのようなものなどを身に着けていることから、恐らくこの街のテーマなのだろう。

宿屋を早々に探し出し、部屋をとってその中へと入る。

宿だからだろうか、床はしっかりとした木で出来ているし扉も鍵が掛けられるようになっていた。

窓も一応開けたり閉めたりを出来るものになっていて、外との違いに少しだけ笑ってしまった。


と、笑うのも程々に。

宿屋をとった私は街に繰り出し、適当に店を物色する。

『蝕み罠の遺跡』に挑むのならば、あるのかは分からないが解毒薬なんかを買っておいた方がいいだろう。

それに加え、恐らくこれから大量にお世話になるであろう造血剤をメインに探していく。


「おっ……とぉ……?」


そうして何軒か店を回りながら探していると、解毒薬と造血剤のどちらも置いてある店を発見する事が出来た、のだが。

そこに掛かれていた値段が値段だった。

同じように置かれているHPを回復する薬……回復薬の数倍の値段となっていたのだ。

店番をしているNPCにどういうことかと話を聞いてみると、


「最近、買っていく人が増えてねぇ。作るための材料も底を尽いてしまって、売るならこれくらいの高さになっちまうんだよ」


とのことだった。

買っていく人が増えた……十中八九、『蝕み罠の遺跡』に挑むプレイヤー達が買い占めるように解毒剤などを集めていたのだろう。

市場にこうした変化が起きるとは思わなかったため、これは予想外だった。

買えない額ではなかったが、流石に高くなっている状態で買いたいと思うものでもないため、肩を少し落としつつではあるが、私はダンジョンへと向かうことにした。


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