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Chapter2 - Episode 3


新しく作った魔術の効果検証というものは、しっかりと自身の安全が確保された場所でやるべきだ。

【挑発】による周囲の敵を一気に集めて集団リンチのような状況に陥ったのは未だ記憶に新しい。


本当は【平原】でその検証……【血狐】の効果、出現した魔導生成物の戦闘能力を図ろうかと思ったのだが、よくよく考えてみれば私よりも初心者であるプレイヤーがいる中でそれを試すというのは如何なものかと考えた結果、私は既にホームグラウンドとなり掛けている『惑い霧の森』へと足を運んでいた。


通常、白い霧によって周囲が見渡せないこのダンジョンは安全を確保するという意味だと適していないのだが……私にとってはそうではない。

『白霧の狐面』によって霧自体は無いのと同じ、『霧の社の手編み鈴』によって簡易的な索敵が可能、諸々の装備群によって元々相手に見つかる確率も低くなっているという三拍子。

もしかしたら【平原】よりも安全が確保しやすいかもしれない場所だ。


そして向かうは、プレイヤーの声がする方向……私が『白霧の白杭』を突き刺し、劣化ボスに挑めるエリアとした場所。

私もエリア作成するまでは知らなかったのだが、どうやら劣化ボスに挑む際は同じパーティのメンバーのみがエリア内に入れる仕様らしく覗き見などは出来ないらしいのだ。

……まぁ、そもそもパーティ単位で別のエリアに飛ばされるらしいから覗き見する前にボスに挑んだ方が早いけど。


『白霧の白杭』を突き刺した場所は白杭を中心に広場のようになっている。

一種のセーフティエリアにもなっているらしく、ここにはうるさいミストイーグルや霧の中から泳いでくるミストシャークなどが寄ってこないため、『惑い霧の森』の中でも人気のスポットにもなっている……らしい。

らしい、というのも。私が実際にここに訪れるのは今回が2度目なのだ。

1度目は杭を突き刺した時なので、実質初めて来たと言っても過言ではない。


私が足を踏み入れると、先にこのエリアへと訪れていたプレイヤーが何人かこちらを指さして何かを話し始めた。

目立つ姿をしている自覚はある。狐面に全身真っ白な現代風の装備だ。逆に目立たない方がおかしいだろう。

あまりこの場に居ても場を乱すだけだろうと、そそくさと地面へと突き刺さっている杭へと向かいそれに触れる。

すると、ボスに挑戦するかの確認が表示されたためすぐにYESを押してボスとの戦闘エリアへと転移した。


「おー、朽ちた方だ」


転移した先は、私達が改修作業を行う前の神社。

その境内にぼうっと立ちながら周りを見渡していると、私の目の前に霧が集まり1つの形をとった。

どうやら1度ムービーを見ているからか、演出自体は簡易的なものとなっているらしい。

意志の感じない瞳をこちらへと向ける『白霧の森狐』がこちらを威嚇するように歯をむき出しにしながら吠え、一直線に突っ込んできた。

戦闘開始だ。



戦闘自体は1度経験しているからか、そこまで苦戦するようなこともなかった。

基本は【衝撃伝達】、【脱兎】による回避からの【魔力付与】を乗せた『熊手』による近接攻撃。

霧を発生させようとしたら離れ、再度同じことの繰り返し。


「よし、ここら辺で使ってみようかな。【血狐】」


霧を発生させ始めた『白霧の森狐』を見ながら、私は魔術を宣言する。

私のHPの20%が削られ、身体から赤黒い液体が湧き出るように出現し……4つの足を持った何かを象っていく。

それを私のイメージによって補強し名前の通り狐の形へと変化させた。

大体の大きさは2メートルほどだろうか。予想よりも大きく、威圧感も中々だ。


【血狐】の整形が終わると同時、『白霧の森狐』がこちらへと突っ込んでくるが気にしない。

いざとなれば1回攻撃を防ぐことが出来る盾もあるし、何より【血狐】がどこまで戦えるのかを見ておきたかったからだ。

こちらの命令を待っている【血狐】に対して、私は笑みを浮かべながらこう言った。


「よし、自由に戦ってみて」


すると、【血狐】はこちらへと突っ込んできていた『白霧の森狐』に対して自らも近づき、その巨大な口の中へと食われるように入り込み……瞬間、『白霧の森狐』の動きが止まる。

私の眼前で勢いよく停止したそれは、次第に身体を震わせ汗を垂らし始め……最終的には赤黒い血を吐き出しながらのたうち回り出した。


「うわっ、あっぶなぁ!?」


予想外の反応に少しばかり驚きながらも、しっかりと距離をとってそれに巻き込まれないように注意する。

この反応、というより行動には少しばかりデジャブを感じた。

……もしかして、あのまま入り込んでそのまま体内攻撃してる?


私が最初に『白霧の森狐』へと行ったように、体内から攻撃を一方的に行う……なんてことをしていたならば。

その時天地が何度もひっくり返っていたが、もしも今目の前の反応と同じことが外で起こっていたのならば。


『白霧の森狐』は意志を感じない眼でこちらを見ながら、赤黒い泡を口の端に溜める。そして、なんとか私へ攻撃をしようとしたのだろう。

その巨大な前脚を私の頭上へと持ってこようとして……動きを止めた。

そのまま横向きに倒れるとともに、その白い首からは大量の血が漏れ出ていく。


どんどん漏れ出るそれを見て思う事がありながら、私は横になって倒れた『白霧の森狐』へと近づき、木のカップを首の近くへと近づけてみると。


【『霧霊狐の血液』を入手しました】


血液を手に入れることが出来てしまった。

それと共に、近くの血が盛り上がって赤黒い狐へと変貌する。

まるで褒めてほしそうに尻尾らしき部位を左右に振りながら。


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