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Chapter1 - Episode 35


「これでボスクエストは終わりだよね?」

『あぁ、これから我はこの場に訪れた魔の力に呑まれた者を浄化する。狐の女子に劣化した我を出現させる権利を投げておくが……まぁ、自由にやるといい』

「まるでこれで会うのが最後みたいね」

『最後だろうさ、我が我としてこうして会話するのは』


恐らく、『白霧の森狐』と話すこと自体がこのボスクエストでの特殊な演出の1つだったのだろう。

これから劣化した白狐と戦う事自体は出来る。だがそれは私の隣にいる白狐ではないのだろう。

光が周囲へと飛び散っていき、私達が改修したモノに灯っていく。


「ふぅん……まぁ元々殺し合った仲だし。短かったけど楽しかったわ」

『……本当なら色々と渡すべきなのだろうが……我には生憎と渡せるものが無くてな』

「あ、じゃあアレ頂戴よ。貴方の血。魔術的に血とか使えそうじゃない?」

『……フフッ。まぁ良いだろう。見た所、入れ物も……ぬ。狐の女子よ、貴様何か木材を持ってるのか?』

「え?……あぁ、もしかしてこれでも良かったりする?」


そう言って取り出したのは、私が数多のイニティラビット達を叩き倒した木の枝を取り出した。

【鑑定】もなく、何の木の枝なのかも分からず……しかしながら思い入れもあって【創魔】やアクセサリーにも使えなかったものだ。


『あぁ、それでいい。加工も我がやろう』


突如私がとりだした木の枝が光り出し、1つの小さな木の小瓶へと変化していく。

少し振ってみると、中に液体が入っているのかちゃぽちゃぽと少し音を立てた。


【『精霊狐の血液』を入手しました】

【『木精霊の小瓶』を入手しました】


通知が流れた後、『白霧の森狐』の姿が半透明となっていく。

どうやら本当にここで白狐とのイベントは終わりの様で……最後に何か言おうかと思い、何も声が出てこないことに気が付いた。


『では、さらばだ狐の女子よ』


短くそう言って、そのまま光の粒子へと変わっていく。

その粒子は天に昇ろうとしたところで、神社の本殿のほうへと吸い込まれて行った。

今後あの狐は敵性モブを浄化するだけのシステムとなるのだろう。


【ボスクエスト『『惑い霧の森』の神社を改修せよ』をクリアしました】

【参加人数集計……4人】

【報酬ランクを決定します。行動評価集計……完了】

【クエストクリア報酬をそれぞれのインベントリへと送信しました】

【プレイヤー:アリアドネに対し、劣化ボスとの再戦エリア配置権限を付与しました】


ボスクエストの終了を告げる通知と共に、私の目の前に一本の白い木の杭が出現した。


――――――――――

『白霧の白杭』

種別:ボスクエストアイテム

等級:特級

効果:突き刺した場所を中心に、ボスとの再戦エリアを配置する事が出来る

   1度使用したら燃え尽きる

説明:『白い狐は空を見る。霧が漂うこの森が、いつか本来の姿に戻ることを願って』

――――――――――


「終わったか?」

「うん。手伝ってくれてありがとうね」

「いや、最初はまぁその場の流れだったが……色々と役得だったしな」

「そう言ってくれてありがたいな。あの狐の劣化ボスの素材が何とか工面できたらまたクラフト頼むから」


いつの間にかこちらへと近寄ってきていたメウラと握手を交わす。


「あは、じゃあ私達はここらでお暇しようかバトくん」

「そうですね。ではアリアドネさん、お疲れ様でした」

「あっ、すいません!本当に助かりました!次があれば是非!」

「その時は遠慮なく呼ばせてもらうさ!じゃあまた!」


フィッシュとバトルールとは言葉を交わし、その後彼らは境内から出ていった。

本来、私が掲示板に書いていなかったためにこのダンジョンへと挑んでしまった彼女らだが……中々に良いプレイヤー達との繋がりを得る事が出来たかもしれない。

……ん?あれ?そういえば……。


去っていく彼女らの背中を見ながらふと思い出した。

彼女らが私達に協力する理由、それは――。


「だぁあ!忘れてた!ごめんアリアドネちゃん!ボス戦挑めるようになるまでは一緒に居させておくれ!」

「ハァハァ……いきなり走らないでくださいよ先輩……あぁ、すいませんアリアドネさん。もう少し世話になります」

「あ、あはは……」


そう、ボスとの戦闘が目的だったのだ。

まるでコントのお手本かのように戻ってきた彼女達を苦笑いで出迎えながら、握手を交わした。

少しの時間ではあるものの……まだまだこの2人とは付き合いがありそうだ。


その後、邪魔にならない程度にボスエリア……神社の入り口から離れた位置に杭を刺し再戦エリアを設置した。

地面に突き刺した途端、刺した所から霧が噴き出たため何かと思ったが……そのままボスとの再戦が可能となった旨の通知が届いたため、どうやら正しく設置出来たらしい。



「うん、いい感じ」


私は後日、ボスエリアの神社へと訪れていた。

メウラ達に付与していた侵入許可は剥奪し、この場に入ってこれるのはプレイヤーでは私だけだ。

現実では時間的には夜のはずだが……この場は陽が昇り、昼のように明るい。

心地よい陽気に眠くなってきてしまう。

空を見上げ、私はこれからの事を考えていた。


というのも、私はこのゲームに対するモチベーションがほぼないといっても過言ではないのだ。

元々が『面白そうだから』と理由で始めたために、全く情報を仕入れていないし……世界観すらも曖昧だ。

唯一目的としていた【創魔】に関してもある程度楽しんだ節もあるし、一応ボス討伐、そこから連なるクエストをクリアしたという大きな節目でもある。


「こういう景色が見れるなら、このゲームをまだ続けてもいいかなぁ」


私は振り向いた。

そこには薄く白い霧と、真っ赤な千本鳥居、そして境内に続く道を照らす灯篭。

そして周囲の私達が改修した神社を見渡して、うんと1つ頷いた。

幻想的な、現実では見れない景色。

現実でも探せば見れるのかもしれないが、この世界だからこそ見れる景色もきっと存在するはずだ。


「現実じゃそんな遠出とかも出来ないし、むしろ仮想世界ここだからこそ、いろんなものを見にいこっと。所謂観光って奴?……そういうわけだから、たまーに見に来て色々と報告するよ、馬鹿狐」


そう言って、私はその場を後にした。

風も吹いていないのに、ちりんと鈴の音が鳴った気がした。


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