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Chapter1 - Episode 33


斬ったという感覚が手に伝わることはなかった。

まるでバターか何かを切ったかのようにするっと白蛇の身体を通り、その下にある石畳が壊れる音が聞こえたものの、それすらも感触はなかった。

一瞬遅れて白蛇の身体から噴き出した血によって、私の視界が真っ赤に染まった。


【血術『名称未設定』を行使、習得しました】

【新たな魔術体系が開放されました】

【【創魔】の体系追加、等級強化が開始されます】

【【創魔】の等級強化完了】


何やら良く分からない通知が流れたものの。

私は目の前の、まだこちらを睨みつけ殺そうと水球を出現させてはこちらへと放ってきている白蛇に対して再度ダガーを振るう。

下から斜め上に、そしてそのまま下に振り下ろし再度【魔力付与】を発動させながら白い身を切り刻んでいく。


通知が流れた後から何やら熱いものが身体の中を流れるような感覚がずっと続いているものの。

邪魔になるような熱さではなく寧ろ心地の良いそれは、私がダガーを振るい、白蛇の血を浴びる度に強烈なものとなっていく。

そして気が付けば、その白蛇の身体は徐々に光となって消えていっていた。


【Last Wave Clear!】

【ウェーブ防衛をクリアしました】

【クリア報酬:『霧の社の手編み鈴』】


「……ばかじゃないのぉ?」


思わず、空中に出現した文字を見て呟いてしまう。

周りに対してではない。今しがた行っていた自分の行動に対してだ。

そのまま終わった、というよりはしっかりとトドメを刺すことが出来たからいいものの。

下手をすればそのまま馬鹿みたいに水球や尾が直撃して倒されていた可能性が十分にあったのだ。

それすら考えず、無我夢中に我武者羅になってダガーを振るっていた。

これを馬鹿と言わずに何といえばいいのか。


「あは、でもそんな馬鹿のおかげで勝てたからねぇ。ありがとうアリアドネちゃん」

「フィッシュさん……」


いつの間にか近くにきた赤黒い全身鎧の女性……フィッシュに独り言を聴かれていたのか、そんなことを言われてしまう。

その後、皆で集まり戦利品などを整理したあと、今日は一度ログアウトして後日また作業を進めようという話になった。


といっても、私は先に確認したかった事があるためログアウトせず境内に残ることにした。

静かな……霧の漂う境内の中で1人、メニューを操作しウィンドウを開く。

ボスクエストの進捗の確認だ。

途中からウェーブ防衛の方をメインに準備をしていたが、本当のメインはこちらなのだから気になるのも当然だろう。


――――――――――

『『惑い霧の森』の神社を改修せよ』


『白霧の森狐』から与えられたクエスト

濃霧の森の中に存在する朽ちた神社を改修するために素材を集めてこよう


・濃霧の森の中から浄化を望む者達が神社に向かってきた

 放置していると何をしでかすか分からないため撃退しよう(1/1)

・『白霧の森狐』から過去の出来事の話を聞こう(1/1)


種別:ボスクエスト

進行度:35%

――――――――――


見れば、やはりボスクエスト関係のイベントだったのか項目が新たに出現していた。

それに加えて、『白霧の森狐』から話を聞くこともクエストの1部として認識されていたようだった。

こうしてボスクエストの内容、詳細が変化するのならばウィンドウを常にどこかに開いておくか、もしくは何かをする度に確認した方がいいだろう。


まだまだ確認していないことは残っている。

特に【血術『名称未設定』】という魔術らしき何かや、【創魔】に追加された新しい魔術体系などは最優先で確認すべきだろうし、ウェーブ防衛のクリア報酬である『霧の社の手編み鈴』というアクセサリーっぽいアイテムの詳細も確認せねばならない。

だが、今日は流石に精神的な疲れが溜まっているため、そのままログアウトすることにした。

明日からは本格的に改修作業を進めていこう。


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