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Chapter1 - Episode 32


たった一撃。

しかしながらそれは、今後目の前の白蛇との戦闘方法せっしかたを変えるには十分な一撃だ。


しかしながら、その一撃は相手の意識も変えてしまう。

今まである程度ゆったりとした動きをしていた白蛇は頭を高く上げ、こちらを睨むように目を細めた。

戦闘開始からここまで……私がその白く美しい身体を傷付けるまで、私達の攻撃はダメージを与えられたとしても白蛇を殺し切ることは出来なかったであろうものばかりだ。


だが、今私が放った一撃は違う。

単純な物理攻撃が効かず、連続した砲撃すらも水の壁で簡単に無力化していた白蛇を殺せるかもしれない一撃。

白蛇が本気になり攻撃態勢に入るのもおかしくはなかった。

私がそのまま身体を動かし、白蛇の近くから退避しようとした瞬間。

突然白蛇の頭が霧散したと同時に、私の視界も突然横にブレた。


大きな破壊音と共に何かが蒸発し溶けるような音。そしてそれらを覆うように聞こえる風を切って進む音。

何が起こったのかと見れば、私の胴を赤いオーラを纏った細い腕が巻きつくように抱えていた。身体強化の魔術を発動させているフィッシュの腕だ。

身体を脇で抱えられながら白蛇から離れるように移動しているためか、こちらへと迫ってきている白蛇の姿がはっきり確認できてしまう。


「あっぶねー……間に合って良かったぜ」

「ありがとうございます、助かりました」

「白蛇くんはついてきてる?」

「えーっと、そうですね。きてます。このまま後衛側まで下がるとやばそうです」

「了解」


今も大きな口を開きながらこちらへと迫ってきている白蛇は、周囲に浮かべている水球を射出して攻撃してきている。

狙いを正しくつけていないのか、それともつけられないのか、大抵の水球自体は周囲の石畳へと向かって飛んでいく。

しかしその中でもしっかりと私かフィッシュに命中する軌道のものも何個かあるため、私は【発声行使】で【魔力付与】を発動させ、形状変化によって簡易的な盾を作り出し防いでいった。


境内内は元々ボス戦のフィールドとなっていたからか、普通の神社よりも広い。

だが広いと言っても、延々と走って逃げられるほどに広いかと言われるとそうではない。精々が身体強化を施していれば数秒で反対側まで走っていける程度のもの。

だからこそだろう。

フィッシュは一度、私の身体を前へと放り投げ迫ってくる白蛇を受け止めようと短剣を構えながら声をあげる。


「【ブラッドアーマー】!」


体勢を整えながら、彼女の方へと目を向ける。

すると、身体から赤黒い液体が湧き出るように出現し彼女の全身を覆っていく。

血の鎧ブラッドアーマーという名前通りの性能をしているのか、液状から硬質化し、さながら全身鎧のように変化した。

次の瞬間、何か固い物同士がぶつかり合う音が境内内に木霊する。


「ぐ、おぉおお……!身体強化込み込みでギリギリかぁ……!!」


頭から突っ込んできた白蛇に対し、溶解毒に晒されることを厭わずに受け止めた。

石畳が砕け、そのまま少しずつ後ろに……私が居る方向へと押されているものの、その勢い自体はほぼ止まっていた。

しかしながら、それも長くは保たないのだろう。

今も彼女の身体へと襲い掛かる溶解毒の所為で、彼女の身体から白い湯気が立ち昇り、血の鎧は少しずつ溶かされていっていた。


私は脚に力を入れ、そのまま無理矢理に身体を動かして白蛇へと近づいていく。

白蛇は私が動き出したのが分かっているのか、頭を無茶苦茶に振ってフィッシュを何とか振り解こうとしているものの……少しは動くものの、振り解かれることはない。

側面から近づき、『熊手』を上へと掲げる。


「【魔力付与】ッ」


私が声を張り上げ、ダガーに魔力の膜を纏わせる。

それに対し、白蛇は暴れるのを止め代わりに自身の尾を動かして鞭のように私へと向かって叩きつけようとしたものの……突如横から飛んできた何かによって弾かれる。


ちらと見れば、これまでに展開していたゴーレムよりも巨大な人型の何かがこちらに向かって腕を伸ばしていた。

その近くにはメウラとバトルールの2人が立っており、仕事をこなした男達がサムズアップしながら笑っているのが見えた。

感謝したいが素直に感謝出来ないような、そんな感情が心の中に生まれたものの。

それは後で清算すればいいものだ。


【魔力付与】、それによって生じた魔力の膜を再度伸ばし鋭く成形していく。

先程与えた一撃は掠っただけの、あまりダメージを与えられたものではない。

しかしながら今回の……この一撃は状況が違う。

身体は固定されており、私は周囲に気を配る必要もない。

この一撃だけに意識を向け、手の中にあるダガーを振り下ろすことだけに全力を尽くせばいい。


私の中に存在するMPが燃え上がるような、そんな感覚を感じながら。

私は一歩踏み込み、ダガーを振り下ろす。

それを止めようとしたいのか水の壁が複数目の前に出現するものの……私がダガーを振るう速度も、その威力も鈍ることはない。


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