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Chapter1 - Episode 30


丸太と見間違うほどには太く、そして大きいその蛇はゆっくりと、しかしながらこちらにしっかりと目を向けて這う様に移動してきていた。

……神社って場所に白蛇ってのは縁起がいいのか悪いのか……!


白い蛇は古来より日本各地で縁起の良い動物として信仰の対象になっている。

中でも、弁才天……サラスヴァティーの使いとして有名ではあるが……恐らく目の前のこの蛇は富を齎してはくれないだろう。

寧ろ、この『惑い霧の森』で出てきたことを考えると、水神としての側面の方が強いと考えた方が自然だろう。

よくよく見て見れば、その身体の一部が不自然に揺らいでは元に戻るを繰り返しているため、実体があるかも分からない。


「……蛇の倒し方、知ってる人いる?」

「視力があまり良くないから熱を発生させて惑わせる……とか」

「あは、この中の誰も発熱系の魔術持ってないねぇ」


短く会話をしながら、私達はゆっくりと蛇を刺激しないようにそれぞれ立ち位置を調整していく。

私とフィッシュが前に、メウラとバトルールが後ろに。

それぞれが戦いやすい位置に移動し、そして蛇の出方をしっかりと目で追っていく。


白蛇恐らく、このゲームの命名規則からすればミストスネーク辺りが正式名称だろうは、そんな私達へと向けて口をゆっくりと開く。

それと共に背筋が凍るような感覚が私を襲い、咄嗟に横に逃げるように跳んでいた。

次の瞬間、突然何かが溶けるような音が水音と共に聞こえてくる。

恐る恐るそちらの方向を見てみれば、私が立っていた位置の石畳が抉られたように溶けており煙が立ち昇っており……あの蛇が何をしたのかを理解した。

……溶解毒を飛ばしてきたのか!


現実に存在する蛇の中にも、自身の持つ毒を射出することが出来る種類が存在する。

恐らくはそれらが元になった能力なのだろう。避けられたのはほぼ偶然だったが……確実に喰らってはいけない攻撃だ。

白蛇のその行動が起点となって、こちらも一気に動き始める。


囮となるようにフィッシュが白蛇の前へと躍り出ながら、指を噛むことで彼女の身体強化系の補助魔術を発動させる。

赤いオーラに包まれ、その速度を何倍にもした状態で彼女は手に持ったナイフを振るう。


「……チッ、見た目通りに非実体か攻撃を避けるタイプの何かを持ってるよ、こいつ!」


ミストイーグル程度ならば首を一撃で斬り飛ばせるほどにはダメージが出るその一撃は白蛇の身体に命中したかのように見えた。

しかしながら、その身体自体に傷が増える事はなくナイフの刀身にも血はついていなかった。

ナイフが通った個所はといえば、白蛇の他の部分とは違い完全に霧のように揺らいでいた。

特性、といえば聞こえはいいだろうが、あんまりにも私やフィッシュのように前に立って戦う者とは相性が悪すぎる。


敵の前で大きく隙を晒した状態のフィッシュと変わるため、私は【脱兎】と【衝撃伝達】を小さく発動させ一気に加速、私の攻撃も通らないのかと『熊手』を正面からではなく、白蛇の側面から横に薙ぐように振るう。

だが予想していた通り、『熊手』を振るった腕には何かを切ったような感触は一切伝わってこなかった。


白蛇の視線がここで何故か正面にいるフィッシュではなく、側面にいる私の方へとぎょろりと動いた。

瞬間、ドゴンという音と共にその白い顔に土の塊が命中する。

後衛2人組のゴーレムを使った移動式砲台の準備が整ったのだろう。

……今の攻撃が通って、私達の攻撃が通らない……?

私達と白蛇の周囲に砂煙が発生し、視界を潰していく。霧ではないためか『白霧の狐面』でも見通せないため、そのまま後ろに跳び退きその場から離脱した。


それと共に、狐面に触れ霧の操作をしようと意識する。

もし白蛇の特性が霧によるものならば、狐面を使う事で一時的にでも無力化できないものかと考えたのだ。

しかしながら感覚的に操作できる霧は砂煙の中には存在しない。


「狐面で操作できない!後衛ちょっと任せた!」

「「了解!」」


だがそれだけで諦める私ではない。

後衛2人組と私とフィッシュの攻撃の違いを、戦闘が始まったことによっていつも以上に回るようになった頭で考える。

それと共に、こちらへと何かが射出されるような音が聞こえたため再度横に……白蛇が入ってきた入り口の方へと跳び退き毒液を回避した。


……考えられるのは、単純な物理攻撃かどうか、って所かな。

私もフィッシュも、移動速度や膂力によるダメージ増加を狙って身体強化系の補助魔術を使っていたものの、その攻撃自体に魔術は絡んでいない。シンプルな身体の動きによる技術だけの代物だ。

しかしながら、メウラとバトルールの放った土の砲弾は違う。

弾として成形、そして射出するまでに彼らの手は指一本触れておらず、全てが全て魔術によって構成された一撃だ。


ここから考えられるのは仮説でしかない。

しかしながら、私には魔術を攻撃に絡める手段が存在するため、その仮説が間違っていないかを確かめる事が可能だった。


ドゴンドゴンと連続して響く破裂音のような射出音を聞き流しながら、私はタイミングを計る。

攻撃を受け続けているのか、砂煙の中から出てこようとしない白蛇に攻撃を確実に命中させるために。


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