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Chapter1 - Episode 26


良い意味でというべきか、もしくは悪い意味というべきなのかは分からないものの。

ひとまずバトルールとメウラのおかげで道中のミストイーグルに意識を割かなくて良くなったため、私達の行軍スピードは私1人の時よりも上がり、すぐにボスエリアの前まで辿り着くことが出来た。

その間にバトルールに指摘され、掲示板に攻略した旨の書き込みをしておき、彼らのような人が増えないように呼び掛けた。

その彼ら2人に関しても特に怒ることもなく、こちらに協力してくれるというかなり善良なプレイヤーだったため、本当に助かった。


「うん、着いた。ここからがボスエリアだから許可出すよ」


私の言葉に緊張したように3人が頷くものの、そんな緊張されても先にあるのは朽ちた神社だけだ。

恐らく『白霧の森狐』は居ないだろうし……戦闘も起こらない一種のセーフティエリアと似たような状態になっているはず。

それに道中、ボスクエストの内容については話してあるため、この先にあるものがなんなのかくらいは分かっているはずなのだが……まぁ雰囲気とかそんな所だろう。


「そういえば、少し聞いてもいいかなアリアドネちゃん」

「?どうしました?」


そうして許可を出した後、後は一本道だからと真ん中を歩かないようにしながら適当に広がって歩いているとフィッシュから話しかけられる。

彼女の方へと視線を向けると、何かを考えているような表情をしていた。

美人というのはどんな表情をしていても映えるのだから良いものだ。


「いや、バトくんと2人でこのダンジョンを歩いてた時は、ミストベアーってモブと結構遭遇したんだけど、アリアドネちゃん達と一緒になってからは1体も見てないからさ。何かしてるのかなぁって。居ないわけじゃなかっただろう?」

「あー、そうですね。居ないわけじゃなかったです」


彼女の質問してきた内容は至極真っ当なものだ。

といっても、そこまで難しい事や特別な事はしていない……いや、特別な物は1つ持っていたか。


「簡単に言うと、このお面の効果で霧の向こうが見透かせるんで、しっかり見てから避けるようにルート取りしてただけですよ」

「ほうほう……あぁ、だから途中でぐねぐね曲がったりしてたわけかい?」

「そういうことです。言い出すタイミングを計ってたら忘れててすいません」

「あは、それくらいじゃ気にしないぜ。しかし良いね、そのお面。……そうかぁ、ダンジョン攻略はそんな面白いアイテムが手に入る可能性もあるのか……」


簡単な説明で理解してもらえたらしく、彼女は考えるようにぶつぶつと何か独り言を呟き始めてしまった。

まぁ詳しく聞かれないだけマシだろう。

本当は霧の発生能力と操作能力もありますよーと言うととどんな目で見られるか分からないから。

……一回戦闘中見せちゃってるけど、まぁ大丈夫だよね。操作だけなら触って意識するだけだし。


そんなことを考えながら歩いていくと、私達は朽ちているものの大きい神社のある境内へと辿り着いた。

私が『白霧の森狐』の腹を切り破いたあのフィールドだ。

よくよく地面を見てみれば、まだあの時の傷……というか。『熊手』が突き刺さったらしき跡が残っていたため、戦闘の余波自体は消えずに残っているらしい。

あの時適当に避けて神社の方へと突っ込ませなくて良かったと安堵した。


「おぉー!凄いな」

「でしょ?本当だったらここでボスが出てきたんだけど……まぁ出てこないね。どっかから見てるだろうけど」

「これを1人で改修するのは確かにすぐに出来るようなものではないですね……とりあえず必要そうなのは木材ですかね?」

「他にも石とかも要りそうだねぇ。とりあえずここを一旦の拠点にして素材集めに走ろうか。あ、使えそうな素材があったらアリアドネちゃんに渡せばいいかい?」

「えぇ、そうですね。私に渡してくれればウィンドウから直接納品できるっぽいです……ん?」


と、ここで改めてボスクエストの詳細を開いた時、見慣れない数字が追記されているのを確認した。

それはどんどん数字が減っていく……所謂カウントダウンという奴で。

残り時間は5秒も存在していなかった。

カウントダウンが0になる。

瞬間スポーツの試合開始のブザーのような音が鳴り響き、空中には文字が出現した。


【ウェーブ防衛開始】

【First Wave Start!】


「はぁ!?」

「アリアドネ、なんだこれ?!何も聞いてねぇぞ!」

「私だって知らない、というか今初めて知ったから言えるはずない!」


焦ったメウラの声に同調するように叫び返すが、状況は変わるわけもない。

見ればバトルールは既に後方……神社を背にするように移動しているし、反対にフィッシュは前に出てナイフを2本取り出して笑っていた。


「お2人さん、騒いでても仕方ないぜ?ほら、来た来た」


フィッシュの言葉に入り口の方……私達がこの神社に来るとき通った石畳の道から、見慣れた敵性モブが複数こちらへと向かってきているのが目に見えた。

ミストイーグルが複数に、ミストベアーが1体。

このダンジョンでは割と見る敵構成だ。


「はぁー……あのクソ狐……後で絶対聞くからね……」


フィッシュの言う通り、ここで騒いでいても何も始まらない。

息を吐き、無理やり心を落ち着かせ『熊手』を構える。

空中の文字には『防衛』とある。つまりは何かを……この場合、状況的に私達の後ろにある朽ちた神社を防衛せよ、ということなのだろう。

これからどれほど敵性モブが増えるかは分からないものの……とりあえずやるべきことはしよう。


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