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Chapter1 - Episode 21


何に、なんて馬鹿な事をこの状況で言うつもりはない。

更にその穴を広げるように、そしてその穴から外へと出るために【魔力付与】を発動させ何度も何度も穴が開いたと思われる場所付近を突き刺して突き刺して突き刺して……その度に外からくぐもった悲鳴のような鳴き声が聞こえ笑みを深くする。

そして一度『熊手』を突き刺したまま、胃液の中に放置した。


「ねぇ、狐さん。こんな攻撃方法って知ってるかな?……【衝撃伝達】」


戦闘中だからかなんなのか。

脳内麻薬が大量に分泌されているのか、少しおかしくなった頭をぐらぐらと振りながら、私は『熊手』を手放した辺りに思いっきり蹴りを入れる。

震脚のように、踏み抜くように……されど、蹴りという体は崩さないように。


ズシン、という音と共に私の脚が胃液の中の硬い物に当たり魔術が発動する。

外へと向かって発生した衝撃波が硬い物……『熊手』を外へと押し出していき、その周辺の皮膚や内臓もぐちゃぐちゃに破壊していく。

それと共に、先程から聞こえていた悲鳴よりもさらに大きい鳴き声が一度聞こえたかと思えばビクンと体内が揺れる。

そしてそのまま横へと……私からすれば壁の方へと倒れていったのか、今度は天地ではなく縦横が逆となった。


見れば、壁となった胃壁がぐちゃぐちゃになっており、その中心には人が1人ギリギリ通れるかどうか程の大きさの穴が開いていた。

そこから外へと出てみれば、先程まで周囲を覆っていた白い霧は晴れており……境内や神社がはっきりと見えるようになっていた。

私は近くの石畳に突き刺さっていた『熊手』を引き抜き、どろどろとなってしまったその刀身をそのままに鞘にしまった。拭こうにも私も全身胃液などの体液でドロドロなのだ。


さて、肝心の『白霧の森狐』はと言えば、目だけを動かしこちらを見ながらも口の端から赤い泡を噴いている。

HPバーはよほど体内からの攻撃が効いたのか残り1割残っているかどうかくらいのもので、このまま近づき【魔力付与】の乗った『熊手』や【衝撃伝達】の乗った蹴りで攻撃すれば一気に削れてしまう程度だ。


【ボス遭遇戦をクリアしました】

【『白霧の森狐』との対話が可能です】

【『白霧の森狐』を討伐しますか?】


と、ここで通知が流れウィンドウと『対話』、『討伐』と書かれたアイコンが出現する。


――――――――――

Tips:ボスとの対話及び討伐


ボス遭遇戦をクリアすると、ボスとの対話を行うか、そのボスを討伐するかの選択を自由にプレイヤーが選ぶことが出来る。


対話を選んだ場合、ボス特有の素材を手に入れることは出来ないものの、ボス由来の道具が取得出来たり、特殊なえにし、そしてクエストが発生する場合がある。

討伐を選んだ場合、ボス特有の素材を手に入れる事が出来るが、そのボスが存在したダンジョンは消えてしまう。


※なお、エリアボスの場合、対話の選択肢は発生しないもののそのエリアが消えることはない。

――――――――――


「……ふぅん……」


突然出てきたヒントを読み、その内容を噛み砕き飲み込んでから頷いた。

この2つの選択の肝となる部分は、討伐を選んだ場合のデメリットだろう。

『ダンジョンは消えてしまう』。この『惑い霧の森』自体が討伐を選んだら消えてしまうというわけだろう。

詳しいダンジョンの成り立ちなどは知らないが、こんな選択が出てくるという事は自動生成などによって各地にダンジョンが今も出現しているはずだ。

でなければオンラインゲームだというのに突出したトップ層のプレイヤーだけが甘い汁を啜れてしまうのだから。


「よし、決めた。こういうのは楽しそうな方にしよっと」


そうして私は対話と書かれたアイコンをタッチする。

すると、だ。その瞬間『白霧の森狐』の身体が光に覆われ、私の与えた傷が急速に塞がっていく。

そして、横になっていた身体を起こし私の前に伏せるような形で座り直した。


「あー……今更だけど君って喋れるの……?いやまぁ喋れなくてもまぁアレか。私が聞くのもあれだけど、調子どう?最悪かな?」

『……何故、我を助けた獣人の仔よ』

「あ、結構普通に話すのね。なんでって言われてもなぁ……強いて言えば討伐するよりもこっちの方が面白そうだからかな?ほら、討伐しちゃったらそれで終わりだし……それに結構私、この神社の雰囲気とか好きだし?」


周りを見渡しながら『白霧の森狐』からの質問に答える。

嘘は言っていない。面白そう、楽しそうだと思った事は本当だし、ボス戦のフィールドとなった朽ちた神社も雰囲気自体は神秘的でかなり好きな部類だ。

少しばかり雑草などが生えてしまっているため、少しばかり整備する必要はあるだろうが……そのままにしていても廃墟感があって良いかもしれない。


そんな私の解答を噛みしめるように、あるいは呆れているのか目を細め息を吐いた目の前の巨大な狐は、その身体を震わせ霧を発生させた。

何か気に障る事があったのか、また上空に飛ばされるのか?!と身構えた瞬間、その霧は私の目の前で凝集していく。

……これは……狐のお面?


霧が晴れ、石畳の上にぽつりと置かれたそれは白い狐の仮面だった。

手に取ってみると、木か何かで出来ているのか軽く、紐もあるため一応着けることは可能だ。


「……えーっと?」

『それをやる。そういう理なのだろう。……それと、次いでにこれもだ』


【ボスクエストが発生しました】

【ボスクエスト『『惑い霧の森』の神社を改修せよ』を開始します。非フォーカス状態での開始となります。メインに設定する場合――】


突然流れる通知に、一瞬何のことか分からずに呆けてしまい……そしてやっと感情が追いつき爆発した。


「は、はぁ!?」

『改修が終わったらまた呼べ。その時にはまた何かをやろう、獣人の仔』



言いたいことだけ言って、『白霧の森狐』はその身を霧に変え消えていった。

それと共に通知が何やら何個か流れたような気がしたが、ドッと精神的な疲れが身体を襲ってきたため、いつの間にか出現していた扉のドアノブを握る。

すると、ホームタウンへの転移……【始まりの街】へと戻るかどうかの選択が出たためすぐに転移し、いつもの宿の部屋でログアウトした。

確かめるのは、明日の私が全部やってくれるだろう。


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