目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
Chapter1 - Episode 19


突っ込んでくる『白霧の森狐』のタイミングに合わせ、私は横に跳ぶことで避ける。

魔術を使っていないため、本当にギリギリで私の横を『白霧の森狐』が通り過ぎていく。

私の目にも捉えることが出来る速度のため何とか避けることが出来ているものの……それについて行けるかどうかと言われると首を傾げざるを得ない。


だがそれでも攻撃するチャンスは回ってくる。

『白霧の森狐』は1つ行動する度にこちらにわざわざ向き直り、観察するかのように動かなくなるのだ。

少なくても5秒。長くて10秒の間動かないため、その間に攻撃をどれだけ入れる事が出来るかというのがこのボス戦の肝なのだろう。


少しでも時間を無駄にしないため、小さく【衝撃伝達】を発動させ巨大な身体に近づき、『熊手』を上から振り下ろすことで『魔力付与』を使いながらその真っ白な巨体に攻撃を加える。

5秒、と言う時間は長いように見えて実際そこまで長くはない。

攻撃にすれば1撃2撃入れられるかどうかだし、それに移動まで合わせれば1撃入れられるかどうかも怪しくなってくる。

【脱兎】と【衝撃伝達】を組み合わせることで加速している私ですらこれなのだから、普通に移動しているプレイヤーだと追いつくことができないのではないだろうか。

まぁそこについては今はどうでもいい。


「突撃、白霧、薙ぎ払い、白霧からの再び突撃……」


避け、そして攻撃を加えつつ相手の動きを観察して対策をその場で組み立てていく。

と言っても今の私に大それた対策なんてものは立てる事はできないため、身体能力や魔術に頼って攻撃範囲内から離れるというものでしかないのだが。

……霧を発生させるのはどういう意味があるんだろう。

その中でも、今だ対策どころかどんな効果があるのかすら分かっていない、行動の度に発生させている霧。

『惑い霧の森』で散々探索、そして戦闘してきた私にとってただ霧を発生させる程度では視界の阻害にすらなっていないが……それでもボスの行動だ。何も意味がないわけもないだろう。


『白霧の森狐』に改めて視線を向ける。

その頭上には今もボスのHPを知らせる緑色のゲージが出現しており、全体の約8割ほどがまだ残っている。

単純に火力不足か、それともソロだからこその手数の少なさか。

どうしたって戦闘は長時間になってしまうため、適度に回復を挟まなければこちらのMPが枯渇してしまうだろう。


「出来る限りMP使わずに……あとは、霧の性質さえ確かめられれば……」


今もその巨体から発生させている白い霧は『惑い霧の森』に漂うものと遜色がない程度には濃い。

突撃や薙ぎ払いのタイミングを視認できなくなる程度には厄介だ。

……でも、それだけ?


今も薙ぎ払いをした後、静止しているその身体へと『熊手』を叩きこむ。

上から下へと斬り下ろし、【魔力付与】を発動させながら横に切り払う。

『白霧の森狐』がその身体を震わせて白い霧を発生させ始めるものの、私は一度そのまま斬り続けてみる。


いつもならば少し距離をとり、再び動くまで観察するのだが……それはしない。

分からないのならば一度喰らってしまえばいいのだ。

少しずつ少しずつ霧に包まれていくが、気にせずに『熊手』を振るっていると……突然、斬りつけていた感覚が無くなった。


「ッ!?」


そして、次の瞬間。

私は何故か空に浮いていた・・・・・・・・

急速に下に掛かる重力が落下中なのだと知らせてくれるが、正直そんなことは今どうでも良かった。

落下中、そして下に見えるのは先程まで私が立っていた境内と、私の落下地点で大きく口を開けている『白霧の森狐』の姿だった。


「これ考えた運営ばっかじゃないのぉぉぉぉぉおお!!??」


少し不用心だったと言えばそうだろう。

霧、というものは古来から異世界への扉、そういったものとの境界として知られている。

それこそ日本には天之狭霧神という霧自体を神格化した存在すらも存在している程には神秘的な意味を持っているのだ。

そしてこの『白霧の森狐』というボスは、霧の中でも境界というところに注目し設計されたボスなのだろう。

霧に包まれた私の身体は転移に近い形で空へと移動させられた。そう考えるのが一番納得がいく。


そんな事を考えているうちにも、私は大きく開かれた口へと落ちていく。

普通に落ちていけばそのまま食われてデスペナルティとなるのだろう。

だが、流石にこれで終わるのはもったいない。

単純にあの霧が上空に繋がっているだけなのか、それともランダムに転移されるのか程度は確かめておきたい。


無理矢理腕を下に、と言うよりは『白霧の森狐』に見えるように広げ指を鳴らす。

【霧の羽を】、私の唯一敵に対して作用する補助魔術だ。


『――ッ?!』


瞬間、狐の顔に大量の羽が出現しその視界を阻害した。

問題なく効いているようで、その大きな頭を左右に振って羽をどうにか振り払おうとしているが……魔術によって出現させた非実体の羽はそんな動作では消えてくれない。そうして振っている頭に私は落下し、多少ダメージを喰らいながらも地面へと着地する。

それと同時に【脱兎】、【衝撃伝達】を連続して発動させその場から急いで離れた。


「よし、もう一回霧に触れたら後はじりじり削っていこう」


そうして十分離れた私の事を恨むような瞳で見つめてくる『白霧の森狐』を、私も睨むように見据える。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?