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Chapter1 - Episode 18


【魔力付与】を使い、ミストイーグルやミストベアーと戯れること暫し。

この魔術の使い勝手の良さが飛躍的に向上したことが分かり、私は満足顔でセーフティエリアの焚火の前で座っていた。


「一撃は防げるってなると、かなり動き方変わってくるなぁ」


形状変化。

最初は刃を伸ばすように変化させてみたものを、私は戦闘中に色々な形にしてはその使い勝手を確かめていた。

斧のような形、槍のように細長い形、二又、三又に分かれている形など、本当に様々に。

私が想像出来て、尚且つ形状変化させられる限界までを確かめ……そしてその中で、特に注目したのがある形状だった。


それは、盾状。

元々それなりに広い刃の幅を広げるように形状変化させることで一時的に小さな盾として使えるようにしてみたのだ。

その結果は予想以上。

なんと試しにと受けてみたミストイーグルの突撃どころか、調子に乗って試してみたミストベアーの攻撃すらも1回だけではあるものの、ダメージを無効化して防ぐことが出来てしまったのだ。

その分MPが減っていたし、運動エネルギー自体が消えたわけじゃないのか、そのまま後ろに吹っ飛んでしまったが。


でも、確実に1回攻撃を防ぐことが出来るというのはそれだけで意味のある手札となる。

これからは所謂初見殺し的な敵性モブも増えていくだろう。

そんな中防御用の魔術を創ることなく、一度試しに攻撃を受ける事が出来るというのは相手を知る上ではかなりのアドバンテージとなる。

本当はそんな事をせずに【鑑定】系の魔術を早く創った方がいいのだが……そちらは未だに掲示板でも誰も創れたという情報を書き込んでいない辺り、先のフィールドに行かない限りは創れないのだろう。


「このまま先に進んでも大丈夫、だよね……?」


兎に角。

武器を手にし、魔術を強化した私にとって少しは苦戦していたミストベアーでさえ今は鼻歌混じりに倒せてしまう程度の敵でしかない。

レベルもいつの間にか9に上がっており、二桁まであと少しと言った所。

では何をするかと言えば……元々ノリで決めてきていたが、この『惑い霧の森』へと訪れた本当の目的を達成すべきだろう。


目指すは、このダンジョンの攻略。

正直ゲームによってはダンジョンにボスが居らず、ただただ存在しているだけ……というものもなくはないため、Arseareではどちらなのかという疑問はあるものの、出来る限り進んでみればその答えは出るだろう。

そうと決まれば、私の行動は迅速だった。


立ち上がり、休憩することによって回復したMPを確認し、『熊手』がキチンと腰の鞘に収まっているかを手で触って確かめる。

出るのはセーフティエリアに入ってきたのとは反対方向。

マップ機能が制限されているため、詳しい方角などは分からないものの……私自身の勘を信じて、ダンジョンの奥へと繋がっているであろう方向へ向かって足を進めた。




結論から言えば、私の勘というものは捨てたもんじゃなかったらしい。

セーフティエリアから出て、道中襲い掛かってくるモブ達を倒しながら進んだ私に待っていたのは、真っ白な石で作られた石畳の通路とその脇に並ぶ無数の灯篭だった。


「……和風、かぁ」


周囲を警戒しながら私はその石畳の上を歩いていく。

何かに呼ばれているかのように。

この先に何が待っているかは知らないし、何も待っていない可能性もある。

だが、進まないという選択肢は私の中には存在していなかった。


進んでいくにつれ、灯篭と石畳だけだった通路にも変化が訪れた。

白い霧の中でもはっきりとわかるほどに目立つ赤。

近づいて見てみれば、それは赤く何かで塗られた鳥居であることが分かった。

初めはぽつりぽつりとまばらに設置されていたそれは、次第に等間隔に……そして連続して設置され、今ではまるで現実に存在する千本鳥居のように設置されていた。


ここまでくれば、この先に待っているものが何なのかある程度は察することが出来るというもの。

そして私との共通点を思い少しだけ笑ってしまう。


周りを見る事に集中していたため気にしていなかったが、気が付くと不定期に襲ってきていたはずのミストイーグルが襲い掛かってこないことに気が付いた。

否、よくよく耳を澄ましてみれば羽ばたくような音が聞こえるため近くには居るのだろう。

しかし、近づいて来ないのだ。


「幻想的……だけど、意味を考えると……安心してはいられないなぁ」


そして辿り着いたのは、森の中にあるとは思えないほど広い境内に、大きく……されど朽ちた神社。

目的地に辿り着いたからだろうか。

一瞬私の視界がブラックアウトし、次の瞬間宙から境内を見下ろしている視点に変わる。

その視点からは私のアバターの姿も見えているため、恐らくはゲーム特有のお約束・・・が始まったという事だろう。


――――――――――――――――――――


『――――』


何かの鳴き声が聞こえた。

全てが白く、そして美しく朽ちた境内の中に響くその声は、次第に大きくなり。

私の目の前に大きい黒の影を落とし、天から降ってくる。


それは、白く巨大な狐だった。

光に当たり、何処か銀に光っているようにも見えるその狐は、その綺麗な顔でこちらを見て。

背後にある朽ちた神社を護るように私へ威嚇する。


狐が唸り声をあげる度に、その身体から霧が吹きだし周囲を白く染めていく。


――――――――――――――――――――


【ダンジョンボスを発見しました】

【ボス:『白霧の森狐』】

【ボス遭遇戦を開始します:参加人数1人】


そして私は自分の身体アバターへと戻ってきた。

目の前には上から見た通り、白く巨大な狐の姿。

違いと言えば、その狐がこちらへと飛び込むように突っ込んできたことだろうか。


「ちょっ!?【衝撃伝達】!」


上から見ていた分にはあまり分からなかったが、座っているだけで成人男性よりも一回り二回りも大きいとわかる巨体がこちらに突っ込んできたのだ。

幾ら【魔力付与】の盾で一撃耐えられるといっても、ダメージを消してくれるだけでその勢いは消してくれない。

咄嗟に発動出来た【衝撃伝達】によって緊急回避を行いながら、私は頭を回し始める。


通知にも流れた通り、どうやら私は目的だったボスへと辿り着いてしまったらしい。

つまりは、あの狐は敵なのだ。一瞬会話できるんじゃないかと思ったものの、現にこうして襲われている時点でそんな方法はとれないのだろう。

攻撃を外したことが、それとも私が避けたのが気に入らないのか、ゆっくりとこちらへと向き直りながら唸り声をあげている白狐……通知では『白霧の森狐』、だったか。


逃げようにもマップ機能が制限されているため、どこに逃げればセーフティエリアに辿り着くのか分からない。

私は鞘に仕舞っていた『熊手』を引き抜き、簡単に構える。


「ふぅ……流石にソロ攻略が簡単にいくとは思ってないけど、出来る限りこの一回で情報引き出してやる……ッ!」


せめて、次に繋がる戦闘を行えるように。


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