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Chapter1 - Episode 16


翌日。

いつも通り、宿屋の部屋にログインすると私は【魔力付与】の強化を始める事にした。


「素材は揃ってる……よし」


何処か焦る気持ちを抑え、習得魔術一覧を開き強化のアイコンをタッチする。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【魔力付与】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『霧鷲の羽』、『煽兎の皮』が規定数必要となります……規定数確認】

【【魔力付与】の強化を開始します】


通知が一気に流れたかと思えば、私の目の前に【白紙の魔導書】が出現していた。

【創魔】を使った時のようにペラペラと白紙のページが捲られ……そして、見覚えのあるページが開かれる。

未知の言語、恐らくはゲーム内のオリジナルの言語だろうがなんとなくこのページが【魔力付与】のページであるのだろうと理解出来た。


続いて私の身体から白と茶色の光の粒子がそのページへと吸い込まれていく。

インベントリを開いてみれば、集めた『霧鷲の羽』と『煽兎の皮』の個数が減っていっているのが分かる。

そしてそれらが終わると、次に出現したのは巨大な羽ペンだった。


「……あー、成程?書き込めってこと?」


巨大と言っても常軌を逸したほどの大きさではない。

普通の羽ペンよりも一回り二回りほど大きいだけの、そして見覚えのある羽が付いているだけのペンだ。

通常インクを付けるべき場所には何もついておらず、周りを見てもインクが出現している様子もない。


開かれているページを見ても、私はこの未知の言語……ミミズが這っているかのような言語について何も知らない。

どんな言語なのか、文法や読み方はどうなのか、そして発声することが出来る言語なのか否かなど、本当に知らなければ書けるわけもない。

しかしながら、何かを書き込まねば始まらない。


そう考え、羽ペンを握った時だった。

私の身体がスゥ……と芯から冷えていくような感覚に襲われ、次いで羽ペンの先から赤い液体がぽたぽたと床に滴り落ちる。

それと同時、私の視界には1枚のウィンドウが出現した。


――――――――――

【等級強化】

・【追記の羽ペン】について

貴女様が手にした羽ペンは、【等級強化】にのみ使用できる羽ペンでございます。

インクは貴女様のHPを。そして羽ペンの材料は【等級強化】に必要なアイテムを。


【追記の羽ペン】を使用し、【白紙の魔導書】に書き込むことによって自身の伸ばしたい方向へと魔術を成長させることが可能です。しかしながら、元の魔術を大きく逸脱した成長をさせることは出来ません。

言うなれば、これは誓約ゲッシュ

【等級強化】を行う度、魔術は【等級】を上げ強力なモノになりますが……その度に何かの制限を受けていく。そういったものとなります。


※文字の書き自体はシステムが思考を読み取り、アバターを自動で動かします。

※1文字ごとにHPを失います。

※【等級強化】した魔術は原則元の【等級】へ戻すことはできません。

――――――――――


「血、成長、制限……ね」


その内容を読み、そして理解する。

制限を掛ける事で、その効果を強力なものとする。呪術などに代表される手法の1つだが、一番有名なのはゲッシュという名の通りケルト神話等で登場する呪いだろう。

特定の条件下において、一定の行動の制限を掛ける……という形で課す誓約の事で、基本的にこれを厳守する事で神の祝福が得られるというものだ。

勿論その形に拘る必要はなく、大事なのは『制限』を掛けるという所。

しかしながら、もしこれを破ってしまうとゲッシュは災いとなって身に降りかかる。


恐らくはそれに則る形で【追記の羽ペン】を使えばいいのだろう。

インクは今も先から滴っている血を使い、魔術的に私とこの【魔力付与】という魔術の繋がりをも強化するのだろう。


「本当に自由に書けるっぽいなぁ……下手に強力なものにしようとすると、その分制限も厳しくなる。でも中途半端にしてもあまり意味ないものになる、か」


この制限を自分で掛けることが出来る、というのが中々悩む所だろう。

かの有名な英雄であるクー・フーリンは、自分の名を元に『犬の肉を食べない』なんていうゲッシュを立てたという。

つまりは、全く関係のない制限を掛けても意味がないということだろう。


【魔力付与】に関係すること、と考えると何個か思いつくものはある。

それこそ『起動方法』である上から振り下ろすという【動作】だったり、手に持った道具に分類されるものだったり。


「……よし、決めた」


だが、そこまで考え……今回【魔力付与】に掛ける制限は結局の所選択肢はないように考えられた。

システムによって身体が自動的に動き、手に持った【追記の羽ペン】がページに未知の言語を書き込んでいく。


【【追記の羽ペン】による制限の記入を確認しました】

【制限『戦闘以外の用途及び、武器以外での魔術行為を禁じる』】

【この制限で間違いはないですか?】


YES・NOのアイコンが浮かび上がり、迷わず私はYESを押す。

そうすると、手に持っていた【追記の羽ペン】が光となって【白紙の魔導書】へと吸い込まれて行き、一度本自体が光った。


【承認確認しました】

【【魔力付与】の等級が『初級』から『中級』へと強化されます……強化完了】

【等級強化を終了します】


――――――――――

【魔力付与】

種別:攻撃

等級:中級

行使:動作行使上から下に振るう、発声行使

制限:【戦闘以外の用途及び、武器以外での魔術行為を禁じる】

効果:手に持っている道具に対し、ダメージ判定の発生する魔力の膜を張る

   魔力の膜の形状を変化させることが出来る

ダメージ:道具の本来持っている攻撃能力+(自身の精神力の値)/2

――――――――――


「ふぅ……強化、出来たぁ……」


新しく生まれ変わった【魔力付与】の効果を確かめ、息を吐く。

見れば文字数か、それとも【追記の羽ペン】を手に取ってからの時間が長かったのか、HPが半分ほどまで削れていた。


今回私が施した制限は実質制限にはなっていないものだ。

今までも【魔力付与】に関しては戦闘以外で使っていないし、武器に関してもメウラという伝手が出来ているため何とか用意する事が出来る。

だが、しっかりと制限としては効力を発揮しているのか、『起動方法』に【発声行使】が追加され、効果には形状変化なんてのも加わっている。

用途を限定し、使用可能範囲を狭めたためだろう。

これらを今すぐ試したくとも、手元に武器はなく。それでいて戦闘中ではないためにどうしようもないが……これで更にミストベアーを倒しやすくなったはずだ。


「……ん、メウラからメッセージ来てるじゃん!?うわ、とりあえず返信してから取りに行かないと」


私は慌てて部屋の外へと出て、事前に待ち合わせしている場所へと向かい走り出した。


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