楽しくなってしまい、何体かのミストベアーと勝手に襲い掛かってくるミストイーグルを狩った後。
私はメウラの待つセーフティエリアへと戻ってきた。
「お待たせー、出来た?」
「出来たは出来たが……色々な叫び声が聞こえてたんだが?」
「ちょっとした狩りを少しね。あぁ、先に素材渡しておこうかな……これで他の部分も足りそう?」
アイテムのトレード申請をメウラへと飛ばし、さっそく手に入れてきた『霧熊の毛皮』を始めとした素材類をトレードしていく。
その量に始めは何を、という顔をしていたメウラも目の端が引きつっていく。
「……お前、コレ全部今狩ってきたのか?」
「いやいや流石に全部なわけないじゃん。『霧熊』系は今だけど、それ以外はさっきここに辿り着く時とかだよ」
「それだけでも軽く5体は超えてるんだが?!本当にエンジョイ勢かよ!?」
「エンジョイ勢だって。それにミストベアー自体は私もさっき知ったけど、割と簡単に倒せるからね。急所さえきちんと狙えば」
「それはどの生物にも言える当然の事だろう……!」
はて、何故メウラはここまで狼狽えているのだろうか。
分からないと言った風に首を傾げていると、相手から送られてくるアイテムが見慣れない名前の物となっている。
「ん?このアイテムなに?」
「……あぁ、出来上がった装備だよ。すまないが名前自体は俺が付けたわけじゃなく、システムが決めたもんだからそこは了承してくれ」
「オーケィ、ありがとう」
そう言って、そのアイテムを受け取り装備して実体化する。
瞬間、私の脚は革で出来たロングブーツによって包まれる。紐ではなく、複数のベルトを留めることで固定するようになっている。
複数……5本あるベルトの中でも、真ん中の1本には狐と木の枝がモチーフの刺繍が施されている。
――――――――――
『イニティロングブーツ』
種別:防具・脚
等級:初級
効果:装備者の敏捷に+3%のボーナス
『蹴り』の与ダメ―ジ+10
説明:主にイニティラビットの革を用いて作られてたロングブーツ
――――――――――
「うん、きつくないし良い効果だね」
「残りの防具は上下と手か?」
「そうだね、それと武器。あ、でも武器は一番最後でもいいや」
「いいのか?」
「
「……成程な。素材もあることだし俺はこのまま他のもんも作っちまうがお前はどうする?」
彼の問の意味は、実際の所……まだこのダンジョンに留まるのか否かという意味だった。
メウラが扱う生産用の魔術がどれくらいのスペックなのかは知らないが、ここまでのブーツをこの場で作ってくれたのだ。別に場所自体は選ばずとも作れるのだろう。
しかしながら、流石にセーフティエリアとはいえいつまでもダンジョン内に居たいわけじゃないのも事実。
「ん、帰ろうかな。ちょっと【平原】の方に用事もあるから、解散して出来たらフレンドメッセージ経由で再集合で大丈夫?」
「あぁ、それで問題ない。じゃあ戻るか」
そうして私達は【始まりの街】へと戻った後、それぞれのやりたい事をやるために解散した。
「よっし、やるかなぁー!」
その後、私は勿論【始まりの平原】へと訪れていた。
周りを見ると、やはり装備を作りだしたり買ったりしているプレイヤーが増えてきたのか、私のように布の服装備の村人スタイルは逆に少なくなってきている。
……えぇっと、人が少なそうな所に移動しないとかな。
何をしに来たかと言われれば、【魔力付与】の強化に必要な素材である『煽兎の皮』を入手しに来たのだ。
まさかその素材を使った防具の方が一部とはいえ先に手に入るとは思ってもなかったが、それはそれ。
未だ私は『煽兎の皮』自体は手に入れていないため、出現しにくいレアアイテムの類かと思っていたがそうではないらしい。
実際に大量にそれを持っていたメウラに聞いた所、このArseareというゲームには倒した武器の系統によってドロップするアイテムが変わってくるという仕様が存在しているらしいのだ。
だからこそだろう。木の枝で叩き殺したり、衝撃波の乗っている蹴りで殺したりと皮が手に入らなさそうな方法で今までやってきていたのだ。手に入る確率が下がっていても可笑しくはない。
というわけで、私はすっかりメインウェポンへと昇格した『霧熊の爪』を取り出しておく。
これならば皮の入手率もある程度は上がることだろう。上がってほしい。
「……前にやった時は失敗したけど今なら結構やれそうだよね。よし」
周りに人が……というよりは、巻き込んでしまいそうな新人プレイヤーが居ないかどうかだけを確かめ、私は息を大きく吸い込んだ。
そして、出来る限りの大声で魔術の宣言を行う。
「――【挑発】ッ!」
瞬間、私の身体からは赤い円が広がり……直後、地から何かが出てくるような音が連続して周りで響く。
だが、私は前回の失敗から学んだことが大量にあるのだ。
片手を上にあげ、地中から出現したイニティラビット達に向け見せつけるように指を鳴らす。
【
同時に私のMPがゴリゴリと削られていたが、それを気にしていても仕方がない。
ここからは単純作業が待っているのだから、勝手に回復していくことだろう。
私は手に持った『霧熊の爪』を無心で振るい続けた。
「……ふぅ、終わったぁ」
狩りや戦闘、というよりはイニティラビット達の処理が終わった後。
私は【平原】で座り込んでしまう。どうせ襲い掛かってくるとしてもイニティラビットくらいのこのフィールドだ。そこまで脅威となるモブが他に居ないため、別にいいだろう。
手に入ったアイテムは、『煽兎の足』が10と数個。『煽兎の肉』が20を超え、レアドロップらしい『煽兎の耳』が5個。
そして肝心の『煽兎の皮』はと言えば……肉と同じように20を超える数が手に入っていた。
【魔力付与】の強化に使っても尚余るその結果に私はインベントリを開きながら笑みを浮かべる。
既に今日は遅くログアウトしないといけない時間ではあるが……明日が楽しみだ。