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Chapter1 - Episode 14


「とりあえずこれで足りる?もう少しなら出せるけど」

「いや、大丈夫だ。足りてねぇ分は俺が出すし……こっから魔術使って防具用の素材に変えていくからな。【素材変換コンバージョン】」


そう言ってメウラは何やら魔術を行使する。

彼の手が光り輝き……次の瞬間には、何かの革で出来た一枚の布のようなものが出現していた。

成人男性だろうメウラが羽織っても不自由ないくらいには大きいそれを、彼は使う部分だけ切り取っていく。


「それは?」

「イニティラビットの革だ。普通の皮をそのまま使おうとすると小さすぎて防具としては使えなくてな。試行錯誤してたらこんな魔術創ってた」

「成程ねぇ……」


よくよく見せてもらうと、縫合された様子も特になく。

これが元が何枚もの皮から出来ていると言われても信じられない代物だった。

中々興味深い。


「まぁこれくらいなら掲示板に載せてあるから、詳しく知りてぇならそっちを見るといい」

「ふぅん?結構書き込むの?」

「分かる程度の範囲だけな。流石に法螺吹くような性格はしてねぇさ……さて。あれの図面はどこやったかな……」


ある程度の大きさまで切り取られたそれを持ちながら、彼はインベントリを操作し始める。

図面……頼んだものを作るための物だろう。

別にそんなものが無くても作れないことはないらしいが、やはり細かい所まで拘るとなると、そういったものが必要になってくるらしい。


「よし、見つけた。アリアドネ、脚出してくれ。きちんと採寸する」

「オッケー。でも言い方は気を付けた方が良いと思うよ?それ前後の会話知らないとセクハラにしか聞こえないし」

「理解らねぇ奴には言わねぇよ……と、良し。一応聞いておくが、本当にあの装飾だけでいいのか?」

「うん。こんな序盤から外見に拘るより実用性重視の方が良いし」

「了解。それじゃあ作業始めるから邪魔するんじゃねぇぞ」


メウラはそのまま何かの魔術を【動作行使】によって発動し始める。

その様子を見ていてもいいのだが……私は私で少しだけやることをやってしまおうかと思い、彼1人をセーフティエリアに残し外へと出た。


外に出た私に、セーフティエリアの制限によって奇襲を掛けられずにいたミストイーグルが襲い掛かってくるが、既にミストイーグルは敵ではない。

元々対処法自体は分かっていたし、それに加えて何度も戦闘をこなしたのだ。

今ではほぼほぼミストイーグル自体を見ていなくても対処できてしまう。


やること、と言ってもそんなに重要な事ではない。

ただ単に気になったから試したい事がある、と言い換えた方が適当だろう。


「……おっ、来た来た」


濃い白の霧の奥からその大きな影は現れた。

のっしのっしと白く、茶色の斑模様を身に纏ったそれはこちらを油断なく見つめてきた。


「よっし、少し前とは違うって事を教えてあげるよ。まぁ君じゃないんだけどさぁ」


ミストベアー。

私がこのゲームで出会ったモブの中で今の所最強の存在。

後ろ脚2本だけで立ってこちらへと低い唸り声をあげているミストベアーは、先に仕掛けてくるつもりはないのか、その場からじっと動かない。

まるで私の事を観察しているかのように。


その様子に、やはり【挑発】には相手の精神にも影響する何かがあるのだと確信を得る。

……前はそのまま襲い掛かってきたしね。

だが相手が動かないのならばこちらが動くのみ。

熊相手ににらめっこをしてもいいが、それで決着が着くことはないからだ。


「【衝動伝達】」


魔術を発動させ、地を蹴って一気に加速する。

瞬間、私の身体は加速し一気にミストベアーの横を通り過ぎ、近くに生えていた1本の木へと向かって突き進んでいく。

このままぶつかれば衝突でのダメージ、そして十中八九衝突音によって場所を把握したミストベアーからの一撃で私のHPは0になるだろう。

だが、それくらいは予想済み。予想した上で魔術を使っているのだから当然だ。


「もういっちょ【衝撃伝達】」


目の前の木と私の身体の間に脚を出し、木を蹴り再度加速する。

方向は逆……来た道を戻るように加速する身体を無理やり捻り、身体が正面を……ミストベアーの方を向くように反転する。

そしてインベントリから1つのアイテムを取り出し、そのままの勢いで【魔力付与】を発動させながらミストベアーへと殴り掛かった。

流石の熊でも、私の急加速……そしてこの霧の所為か一瞬でどこまで移動したのか分からなかったようで、その一撃は大きな背中へと命中する。


ずぶりと、硬い肉の中に新たな得物が入っていく感覚を利き手である右手越しに感じながら、一気に引き抜きその場から一気に離脱する。


『グッ?!』

「これは中々良い感じかな?やっぱり尖ってる方が【魔力付与】もそう覆ってくれるから攻撃性が高くなる、と」


私が今手にしているのは他でもないミストベアーからドロップした『霧熊の爪』。

白く、大きく、そして鋭いそれも【魔力行使】の対象になってくれているのか、きちんと魔術が発動した。

白い背中にだくだくと赤い血が流れるのを見て「血も素材になるのかな……」なんてことを呟きながら。

私はこちらへと咆哮をあげながら走ってくるミストベアーに対し、爪を構えた。


「流石に2回目だから初見の驚きはないからね。パパっと行くよ」


素早くこちらへと移動し、その太い腕を私に当てようと振り回そうとするのを、横に抜け背後に回ることで回避する。

先程の一撃は、魔術がきちんと発動するかどうか確認するための一撃。

そして次の一撃は、確実に、安全に殺せるようにするための一撃。

私はそのまま地を蹴り宙へと舞い上がる。

獣人族特有の身体能力の高さから、人の比ではない高さへと跳びあがることが出来、目標が近くへと迫る。


手に持った『霧熊の爪』を振り上げ、そして降ろされたのは、熊に限らず大抵の生物の急所と成り得る首筋。

腕の振りに合わせこちらへと反転しようとしたミストベアーよりも早くその身に到達した爪は、再度……しかしながら先程よりも抵抗は少なく肉の中へと入っていく。

……よし、次ッ!

地に降り、指を鳴らすことで【霧の羽を】を発動させながら私は再度自らの脚の力で跳びあがる。


「【衝撃伝達】ッ!」


ここで終わりではない。

発動させた【衝撃伝達】を、地を蹴るためではなく本来の用途である攻撃のために行使する。

狙いは当然、首筋……私が突き立てた『霧熊の爪』。

無理矢理に身体を空中で回転させ、所謂サマーソルトキックのような体勢になりながら自らの作った『目印』に対して蹴りを叩きこんだ。

瞬間、魔術によって衝撃波が発生しミストベアーの身体を内側から……急所である首筋から破壊していく。


びくん、と大きく震えたかと思えば、そのままミストベアーは仰向けになって倒れていった。

まだ死んでいないのか、こちらを見てくる目は殺意をぶつけてくるものの。

何かしらの神経が傷ついてしまったのか身体を動かすことは出来ないようだった。

首を負傷したためか止めどなく血が流れ……程なくして光へと変わり私が使っていた爪がその場に残った。

ドロップしたアイテムの通知を見ながら、私は今の戦闘結果に思わず笑みを浮かべてしまった。


劇的に強くなったわけではない。

今の戦い方だって、本当ならば初見から出来ても可笑しくはなかったのだ。

違いは単純に得物の差。使っていたのが木の枝か、生物を殺すことが出来る熊の爪かの違いだった。

これがしっかりとした武器をメウラに作ってもらったらどんなに楽になるのかと思うと、今後のプレイが楽しみになる。


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