目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
Chapter1 - Episode 10


創った魔術の効果を確かめ、MPを自然回復させた後。

私は少し離れていたミストベアーに喧嘩を売るように、セーフティエリアから少し出て中指を立てながら【挑発】を発動させた。


「経験値とアイテムになって私の糧になってよね!【挑発】」


以前の失敗から、しっかり【挑発】を発動させる時だけ声を少し小さくする。

不定期に襲ってくるミストイーグルが範囲内にいる可能性もあるが……少なくとも、私の身体から出た赤い円は目の前のミストベアーだけに効果を発揮したように見えた。

熊の目は血走り、どんどん息が荒くなって二本足で立ち上がる。

……これもしかしなくても、【挑発】って挑発するだけじゃないよね?バーサーカー化とか掛かってそう。


その様子に少しだけ冷や汗を掻きつつも、私はしっかり相手を見据えて目の前へと立った。

勝ち目がないわけじゃない。

寧ろ先程作った魔術のおかげで勝つ確率が高くなったのだ。あとは私自身がしょうもないミスをしなければいいだけ。


『ガァアアッ!!』


咆哮を上げ、こちらへと覆いかぶさるように襲い掛かってくるミストベアーに対し、私は小さく【衝撃伝達】の宣言を行い攻撃範囲から離れる。

そしてそのままの勢いで、インベントリ内から取り出した木の枝で【魔力付与】を発動させながら、その大きい身体を鞭打った。

少しばかり痛そうな声を上げたものの、そこまでダメージが入ったような感触はない。

やはり木の枝では元々の攻撃力が低いのだろう。


だが、たったそれだけの攻防でも苛つかせるには十分だったのか……さらに血走った目をこちらへと向ける。

普通ならばまた【衝撃伝達】によってもう一度逃げるべき距離感。しかしながら私は指をパチンと一度鳴らした。


瞬間、ミストベアーの顔周辺に複数枚の白い羽が出現した。

視界が急に塞がれたミストベアーは驚き、私を狙うよりも先に突然現れた羽を排除しようと頭を振りながら顔を拭うように腕を振り始めた。

その行動に、私は腕に当たらないように少しだけ離れた。


これが私の創った新しい魔術……【霧の羽をフェザーミスト】。


――――――――――

【霧の羽を】

種別:補助

等級:初級

行使:動作行使指を鳴らす

効果:この魔術の『起動方法』を目視した相手に対し、精神力+3秒の間、視界阻害を行う非実体の羽を出現させる。

   この魔術を行使した後、3分は同一の相手を対象にすることは出来ない。

――――――――――


『霧鷲の羽』、そして新たに追加された【見た相手にファウンド】を組み合わせた結果出来た補助魔術だ。

現実の熊は目が悪いため、効くかどうかは分からなかったが……そこはゲームの世界。

しっかりと効いてくれて助かった。

一定の動作を繰り返すミストベアーに対し、背面へと周り込んで【魔力付与】を行った木の枝で叩きつける。

再度少し痛そうな声を上げているものの、やはりダメージは少ないのだろう。どこかのタイミングで攻撃のメインを【衝撃伝達】に切り替えた方が良さそうだ。


……長い戦闘になりそうだなぁ。

徐々に白い羽が消えていくのを見て、少し溜息を吐いた。




「【衝撃伝達】!もういっちょ【衝撃伝達】ッ!」

『ガァッ!?』


白い羽を払おうとしているミストベアーの顔に、【衝撃伝達】を行使し空中に飛び上がり、高さを合わせて再度使った【衝撃伝達】を用いた蹴りを叩きこむ。

その勢いと、発生した衝撃波によって少なからずダメージを与えられたのか、ミストベアーがたたらを踏んでいるのを見て再度【衝撃伝達】を行使して無防備に晒されていた腹へと蹴りを入れた。


戦い始めて既に5分ほど経っているため、私もミストベアーも満身創痍だ。

それに加え、いつからかミストイーグルまで襲い掛かってくるようになったため集中を持続させるのが難しくなってきていた。


『ギャギャギャッ!』

「チッ……」

『?!』


空からこちらへと向かって飛んできたミストイーグルに対し、わざとらしく手を向け指を鳴らす。

瞬間、白い羽がミストイーグルの顔を中心に発生し、目標を見失ったのか地面へと勝手に落ちていく。

丁度いいと思いながら、その身体を持ち上げミストベアーに対して投げつけた。


そしてそれの陰に隠れながら突っ込んでいき、再度【衝撃伝達】を2度行使することで蹴りを入れた。

もう何度もこれを繰り返しているからか、蹴りが入る度に苛ついた声を漏らすミストベアーも今ではもう息が上がり、もう少しで倒れそうな雰囲気が漂っていた。


……もう小細工は要らないか。

そう考え、普段ならばこのまま距離をとって再度攻撃を加えるのだが……そのまま音を立てないように背面へと回り込み、木の枝で【魔力付与】を発動させながら何度も何度も叩きつけた。


「このッ!もう疲れたからッ!倒れてッ!!」


声を荒げながら、肉体的ではなく精神的な疲れからくる苛立ちをぶつけていく。

もうそろそろログアウトして休みたいのだ。

そんな心の声が伝わったのか、それとも元々既に限界だったのか。

こちらへと振り返ろうとしていたミストベアーの身体がビクンと一度震えると、そのまま前へと倒れていく。


【ミストベアーを討伐しました】

【『霧熊の爪』、『霧熊の肉』、【霧熊の毛皮】を取得しました】

「……やぁっと終わったぁ……!」


その通知を見てやっと終わったのだと感じながらも、すぐさまそこから離れる。

幸いにしてそこまで大きく動くような戦闘を行っていたわけではないため、セーフティエリアはすぐ近くだ。

そして私はセーフティエリアへと辿り着くと、そのまま焚火から【始まりの街】……その中でも私の泊っている宿へと帰還してからログアウトした。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?