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Chapter1 - Episode 9


咆哮をあげ、こちらへと突っ込んでこようとするミストベアーに対し、声を荒げながらも焦らずに対処を始めた。

といっても、私がやるのは単純に全力で後退してセーフティエリアへと戻るだけだ。


「【衝撃伝達】、【脱兎】!」


くるりと反転し、地を蹴った。

瞬間、魔力の衝撃波が足を通して発生し一気に前へと加速する。

それと共は背後から何かが上から下へと通り過ぎたかのような風が起きていたが、振り返らずに前へと進むことだけを考え足を動かした。


【セーフティエリアへと――】

「あっぶなぁ……いやまぁ当然いるよねぇー……」


セーフティエリアに辿り着き、背後を確認する。

ミストベアーは四足歩行でこちらへと血走った目を向けながら近づいてきていたが、ある一定の範囲に近づくと悔しそうな雰囲気を漂わせながらこちらを遠巻きにみるだけとなった。

セーフティエリアには敵性モブは入ってこれないということだろう。


……ぶっつけ本番で【衝撃伝達】の攻撃以外の活用法が上手くいって助かった……。

少なからず衝撃がくるならば、移動時のスタートダッシュにも使えないかと思ってはいたのだ。

本当ならばこの場ではなく、【始まりの平原】にて危険がない状態で試したかったのだが……仕方がない。


「えぇっと……羽はー……あと1つか」


狩っていたといっても、あちらから寄ってくるのを待っていたためそこまでの数は狩れていない。

【挑発】を使おうにも、見た事のない……それこそミストベアーのような相手が釣れてしまう可能性があったため使っていなかったのだが……使うまでもなく遭遇してしまった現在。

一番はこのままセーフティエリアの焚火に近寄って【始まりの街】へと帰ることだろう。

それが一番危険が少なく……そして危険を先送りに出来る方法だ。


だが、ここで頭を過ったのは『惑い霧の森』に入った時に流れた通知だった。

今現在も更新されず、自分の周囲しか見えないマップ機能から考えるに、一度街へと帰り再び訪れたとして……このセーフティエリアまで辿り着くことが出来るのかという疑問が残る。


白い霧は方向感覚を失わせ、徐々に焦燥感を煽ってくる。

そしてどこから襲ってくるのか普通だったら分からないミストイーグルに、今回はセーフティエリアの近くだったから良かったミストベアーという敵性モブ達。

もしかしたらまだまだ他にも私が遭遇していないだけで見知らぬモブが居ても可笑しくはないだろう。

本当に、ここで戻るべきなのかどうか。


……うーん。悩むなぁ。

通常であれば、やはり【始まりの街】に一度戻った方が確実だろう。

だが出来る限り進むべき、という考えもないわけじゃない。

先程はしっかりと逃げられたのだ。それならばまた逃げる事も可能なんじゃないだろうか。

普段ならば失笑しながら握り潰すような考えではあるものの、今は少しばかり……所謂深夜テンションのように、冷静さに欠けている考えもそれが当然であるかのように受け入れていた。


「……うん、一度試すべきだよね」


そして私は答えを出した。

それは一度街に帰るわけでも、先に進むわけでもない様子見の考え。

……ミストベアーが倒せるかどうか、これが分からない以上帰った所でまた来た時に殺されるだけ。なら今試せる限りを試しちゃおう。

ここが現実だったなら、絶対にそんな考えは浮かばなかっただろう。

しかしながら、ここはゲーム内。しかも私には力となってくれる魔術が複数存在している。

力があるのなら、後は知恵と度胸の勝負だ。

動きが分かれば、その分こちらの回避動作を最小限にすることが出来る。

相手の狙いが分かれば、それを逆手にとって自分が有利になるように戦況を動かすことが出来る。


「まぁでも、追加でもう1つ創っておいた方がいいよね」


だが、慢心だけはしない。

今ある手持ちで最善の準備が出来るように、私は1つ考えついた魔術を創ることにした。


使う素材は『霧鷲の羽』。もったいないと思うが、ミストベアーさえ倒せるかどうかわかってしまえば今後は取り放題なのだから気にしない。

倒せなかった場合は何とかするしかないだろう。

『起動方法』は【動作行使】。

『種別』は【補助行使】。下手な攻撃手段を増やすよりも小手先の手段を増やした方が良いと思ったから。

そして『効果』を……と選ぼうと思った時だった。


【レベルが5に達しているため、『効果』カテゴリの項目が複数アンロックされました】

「……おっと?」


その通知と共に、私の目の前にアンロックされたらしい『効果』のアイコンが複数……合計3つ出現した。

球体上に魔術が発生すると思われる【球体状ボール】。

道具に沿ってフロー】の様でありながら、その効果範囲が行使者の肌から数センチほどしかない【表皮に沿ってオーラ】。

そして最後は――。


「ッ!いいじゃん、それだよそれ!」


最後の『効果』を見た瞬間、私は満面の笑みを浮かべそれを選んでいた。


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