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Chapter1 - Episode 8


霧の中の戦闘は徐々に慣れてくれば無駄を無くしていくことが出来た。

突っ込んできたミストイーグルに対し、普通に踏みつける事で地面に叩きつけ。

そして【衝動伝達】を用いた踏みつけを何度か行うことで倒していく。

1度の戦闘に使うMP量は大体40~50ほどで、途中途中回復するために攻撃をせず回避し続ける必要があったのだが……それでも、何とかはなっていた。

そうして霧の中を木々にぶつかりそうになりながら進んでいくと、突然霧が晴れ一種のキャンプ地のような場所が出てきた。


警戒しつつそこへと足を踏み入れてみれば、そのままシステム通知がポーンと軽い音を立てながら流れて行く。


【セーフティエリアに到達しました】

【この場には敵性モブが出現しないため、休憩などに活用してください】

【焚火に近づくと街に戻ることが出来ます】


そんな表示を見て、やっと休憩が出来ると息を吐いた。


「ふぅ……一応ステータス見ておこう……」


このセーフティエリアに辿り着くまでに、5回以上は戦闘をこなしていたためレベルも1上がっている。

ダメージの入らなさから格上と戦っていることくらいは分かっているが、それでも何とか死なずにここまで来れたことから安堵していた。


――――――――――

Name:アリアドネ Level:6

HP:187/200 MP:14/105

Rank:beginner

Magic:【創魔】、【魔力付与】、【脱兎】、【衝撃伝達】、【挑発】

Equipment:布の服・上、布の服・下

――――――――――


6まで上がったことで、習得限界が2つほど増えているものの。

現状手元にある素材はミストイーグルからドロップしたアイテムと、イニティラビットからのドロップアイテム。

この2つを使って創れる魔術を自分の頭で考えてみても、『惑い霧の森』で使えそうなものにはならない自信がある。

いや、ミストイーグルの素材自体はこの『惑い霧の森』にマッチした魔術を創ることはできるのだろう。

しかしながらそれはマッチしている・・・・・・・だけであって、ここで欲しい魔術には成り得ない。


……創るのは一旦おいといて、自分の魔術をきちんと使えるようになった方がいいのかな。

ステータスと睨めっこしながら、ふと【魔力付与】にタッチしてみる。

すると、この魔術が出来上がった時に表示された魔術の詳細と、新たに1つアイコンが出現している事に気が付いた。

デフォルメされたトンカチのマーク。

ゲームをある程度やっている者ならばそれを見るだけである程度は察することが出来るだろう。

少しだけそれをタッチするのを悩み、しかしながら何かしらの助けになればと思いタッチした。


【魔術の等級強化が選択されました】

【【魔力付与】の等級は現在『初級』となっています】

【習得者のインベントリ及び、行動データを参照します……適合アイテム確認】

【『霧鷲の羽』、『煽兎の皮』が規定数必要となります。残り必要数は――】


予想外に情報が多く出てきてしまったため、一瞬混乱してしまった。


「えぇっと……とりあえず等級強化ってのが出来るわけだ」


少しずつ内容を噛み砕きつつ、ヘルプも活用して理解を進めていく。

等級強化……つまりは、【魔力付与】の等級である『初級』を次へと進めさせることが出来るコンテンツらしい。

そのまま聞けばいずれは全ての魔術をそうすべきなのだろうが……しかしながら、そうもいかないのが強化に必要な素材だ。

等級強化に必要となってくる素材は自動的に算出され、それを集めきり消費することで初めて強化が出来るらしい。


私の【魔力付与】の場合、今回は『霧鷲の羽』と『煽兎の皮』という、片方は持っているが片方は持っていない……持っている『霧鷲の羽』はあと数個、持っていない『煽兎の皮』も数個必要となっている。

暫くはこの『惑い霧の森』で素材集めをする必要がありそうだが……それでも、こんなに早く強化が出来るとは思っていなかったため、少しばかり笑みが零れてしまう。


「よーっし。そうなったらとりあえずMP回復させてから【挑発】で釣って羽から回収しちゃおう」


方針は決まった。

新しい魔術は追加せず、一度森を出てから強化された【魔力付与】を使いながらこの森へと再び訪れる。

再び訪れる時は、この森……ダンジョンを攻略するときだろう。

【鑑定】系の魔術は未だそれに使えそうなアイテムを見つけていないため保留だ。これは仕方ない。

狩場を移動するつもりが思った以上に大変な事になってしまったが、行き当たりばったりのようなプレイもサービス開始時のゲームならではのため、楽しんでいこう。




暫くして。

私はセーフティエリアから少し離れた周りに木がない開けた場所で狩りをしていた。

白い霧で周りが見えないため、開けたといっても閉鎖感はあるのだが。

当然、セーフティエリアに戻れることくらいは確認している。


ミストイーグルの相手も慣れてきて、【衝撃伝達】を用いたハイキックで地面に蹴り落とすなどの芸当が出来るようになった頃。

なんとなくで考えていた、ミストイーグルの素材を使っての魔術を思いついてしまった。

彼らはいつも霧を纏ってやってくる。

それも、種族特有の感覚によって私は感知出来ているからいいものの……非常に隠密性の高い状態で、だ。

つまりは、彼らの素材を使えば隠密性を高めることが出来る補助魔術が創れるのではないだろうか?

別段、私は隠れる必要はないとは考えているが……それでも、何処かで必要になる場面はあるだろう。

それなら早めに創っておいて、後から等級強化を行い強化していけばいいだけのこと。


創れそうな相手が『惑い霧の森』ここにはたくさんいるのだ。

少しばかり、ここに出現する敵性モブの種類が少ないかな……とは思うものの、出てきていないのだからいないのだろう。

その点、ミストイーグルはこっちが呼んですらいないのに出てきてくれるため、ボーッと突っ立っているだけで、探す労力をかける必要がないため非常に楽だ。


……ん?なんだあの影。

そんなことを考えていた時の事だった。

ふと正面を見てみると、白い霧の中でもはっきりとわかるほどに巨大な黒い影がこちらへと少しずつ近づいてきているのが分かってしまった。


逃げ出すか迷ったものの……そこまでセーフティエリアから離れた位置でもないため、危ないと判断した場合はセーフティエリアへと逃げ込めばいいだろう。

そう考えた私は一応無駄にファイティングポーズをしながら、その黒い影が近づいてくる様を見守っていた。

ずしん、ずしんと何か重い者が進んでいく音と共に徐々に見えてきたそれは、現実ならば死を覚悟したものだった。

否、ゲームの世界でもこの視界が悪い場所で出会ったら死を覚悟するべきだろう。


それは、熊だった。

白い、しかしながら所々茶色の毛が生えたまだら模様の熊。

『ミストベアー』……申し訳程度に表示された名前に冷や汗をかきながら、私は刺激しないようにすり足で1歩ずつ慎重に後退していった。

……熊は流石に無理があるでしょ!?


声は出せない。

もしこの熊が野性と同じならば、下手に刺激したら襲い掛かられてしまう。

しかしながら、現実で熊なんか会ったことがない私は対処法なんてネットで聞きかじった本当に正しいのか分からないものしか知らなかった。

そして、どれが悪かったのかは分からない。

ミストベアーはこちらへと視線を向け、その口を開き咆哮を上げた。


『ガァアアアアッ!!!』

「やっぱりダメだったぁ?!」


戦闘が、始まる。


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