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Chapter1 - Episode 7


【レベルが上がりました】

「お、いいわねぇ」


【始まりの平原】にて、目についた誰とも戦闘をしていないイニティラビットを倒すこと暫し。

レベルアップを告げる通知に、一度手……というよりは足を止める。

ステータスを見てもHPとMP以外に変化がないため、そこはスルーしておくが……5レベルまで上がったのだ。そろそろこの【始まりの平原】から離れてもいいんじゃないだろうか。


適正レベル、というものはどのゲームにも存在する概念だ。

今でこそ【脱兎】と【衝撃伝達】によって簡単に倒せているイニティラビットだが、元々彼らは初心者用の敵モブ。ここでしか採れないレアアイテムがあるならば兎も角、安全に、そして的確に狩ることが出来るようになった今、正直ここにいる必要がないというのが事実だ。


ではどうするか、と言われれば……当然ながら次のフィールドに移動するのが一番周りとのトラブルを避けられる選択だった。

というよりも、私がイニティラビットを追いかけていると何故か軽い悲鳴を上げ避けられるのだ。

いやそのままぶつかるのも困るのだが、悲鳴を上げられるというのは一体全体どういうことなのだろう。

私が何か悪い事でもしたのだろうか。


と、そういうわけで私は【始まりの平原】から次のフィールドに移動しようと思ったのがつい1時間前。

で、現在。


「……どこよここ……?」


私は森の中で道に迷っていた。

いや、自分がどこにいるかくらいは分かっている。

【始まりの平原】から東へ……最初に木の枝を貰った木の方へと歩いて進んだ先に森が存在していたのだ。

当然ながら、私はそれを見つけて歓喜した。探そうと思っていた次のフィールドがすぐ傍に存在していたのだから。

しかしながら、そこに足を踏み入れた時に流れた通知が問題だった。


【ダンジョンに侵入しました】

【『惑い霧の森』 難度:1】

【ダンジョンの特性により、MAP機能が一時的に制限されました】


瞬間、私の周囲には1m先も見えないような白い霧が漂い出し、次いで視界の隅に見えているマップも自分の周囲以外表示されなくなった。

単純にここから後ろに戻れば帰れるだろうと、その場から動いてしまったのが運の尽きだったのだろう。


行けども行けども、私の周囲から霧が晴れることも『惑い霧の森』から出たという通知もない。

周囲からは何かが動く音が聞こえ、狐に備わっていると言われている磁気を感じ取る力がこのアバターにも備わっているのか、実際に何かが動いているのが分かってしまうため警戒を怠る……休憩すらもおちおちできない。

自ら死ねば【始まりの街】の方へと戻れるのかもしれないが、出来るだけ死ぬのは避けたいと思っている私にとってそれは本当の最終手段と考えていた。


「……また来た」


そして、何よりこの『惑い霧の森』には定期的にこちらを襲い掛かってくる敵が居た。

下、正面を含めた周りからではなく、斜め上から。

大きな身体を持ったそれは、こちらへと突っ込んでくるように足の鋭い爪でこちらへと攻撃してくる。


それを横に跳ぶことで避けながら、しっかりと相手の姿を確認した。

白く、しかしながら所々に泥の汚れのような物がついているため、この霧に囲まれた中でも認識できる大きな鳥型のモブ……『ミストイーグル』。

正直な話、このモブを最初に見た時は何の嫌がらせかと思ったものだ。


この世界ではどうなっているかは分からないが、現実の世界ではイーグル……鷲は狐の天敵として有名だ。

それこそ、探せば鷲が狐を食べている動画なんてものも出てくるくらいには。

そんな相手が出現すれば……多少は身構えもする。

ミストイーグルは地面ギリギリにまで身体を接近させ、そのままぐんと再び空中へと上がっていき見えなくなる。

……地面に近づいた時に狙うしかないか。


アレが私へと定期的に襲い掛かってくる敵であり、どうしようもなく手が出しづらい相手だった。

この場でミストイーグルに対応できる魔術を創るという手もあるが、魔術の習得限界数のこともあり、それは考えないようにしている。

何とか【魔力付与】、もしくは【衝撃伝達】をぶつけて地面に落とすことさえできればいいのだが……そのタイミングを計るのもまた難しい。


呼吸を整え、目を瞑る。

どうせ先程から視覚に頼らずに耳や獣人特有の感覚で察知しているのだ。

正確かどうかは知らないが、全てが白で塗りつぶされている状態よりは集中出来ていいだろう。

手には木の枝を。いつでも【魔力付与】が使えるように上へと振り上げた状態で持って待つ。

当然ながら森の中というのは鷲以外にも何かしらの生物がいるものだ。

それらの音と、鷲の飛行する音が混ざって一瞬どれか分からなくなるものの、すぐに音の出どころを探り出しそちらの方へと身体を向ける。

再び飛び込んできてくれているようで、勢いがつき風を切って進むその音と自分の距離を把握しながら。


息を吸う。

ミストイーグルがこちらへと接敵するまであと少し。


息を吐く。

音はもうすぐそこまで迫っており、そろそろ跳び退かねば直撃する距離感。


目を開き、横へと跳び。

それと同時に私は叫ぶ。


「【脱兎】!」


瞬間、私の身体に何かの力がぐんと入ってくるような感覚があった。

【脱兎】による加速効果だ。

跳び退いた時よりも幾分か速い速度でミストイーグルへと近づいた私は、手に持った木の枝をその白い身体へと叩きつけた。


『ギャッ?!』

「まだまだァ!【衝撃伝達】!」


叩かれたからか、バランスが保てなくなりそのまま地面へと落ちたミストイーグルに追撃を加えるべく。

私は【衝撃伝達】を発動させ、上から踏みつけるようにしてミストイーグルを攻撃していく。

どうにか身体を起こそうとしているのか、返ってくる反発力は強いものの、どうにも衝撃波をその身体に喰らっているからなのか、次第に動かなくなっていく。

結果、【衝撃伝達】を発動させた踏みつけを10回ほど行ってやっとミストイーグルは光となって消えていった。


【ミストイーグルを討伐しました】

【『霧鷲の羽』、『霧鷲の肉』を取得しました】


通知も流れ、ふぅと軽く息を吐く。

倒せないわけではない。しかしながら火力不足を実感した戦いだった。

無論、1撃でも喰らったらこちらはアウトだ。

魔術の方に頭が回っていて、今だに装備しているのは布の服なのだから当然だろう。


迷うのなら、自分の勘を頼りにしつつこのダンジョンに居る敵を狩っていけばいいだろう。

問題は……私のMPが枯渇するのが速そうだということくらいだった。


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