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Chapter1 - Episode 6


兎【挑発】事件があった次の日。

連戦に次ぐ連戦のおかげか否か、レベルもあれから2上がり4へ。

そして『煽兎の足』を含めたイニティラビットの素材がそれなりの数集まった。


現在位置は【始まりの街】、その中でもNPC向けなのかなんなのか分からないが存在していた宿屋の部屋の中だ。

昨日は少しばかり気が立っていたために気にしていなかったが、やはり魔術を創るという行為は出来る限り秘匿した方がいい……そう考えた。

PvPといったコンテンツに手を出す気はさらさらないが、それでも手の内を大っぴらに晒したいわけではない。

……まぁ、覗き見に特化してる魔術とか創ってる人はいるだろうし、それはどうしようもないけど。


そんなことを考えながら、私はイニティラビットの素材のリストが載っているインベントリと睨めっこしていた。

何をしているかと言えば。


「……今日こそはちゃんと魔術を創ろう」


そう、昨日は私の所為である意味失敗と終わった身体強化系の魔術を再び作ろうとしているのだ。


実際の話をすれば【挑発】は良い魔術だ。

適度に制限……私の声が届く範囲に限定されているヘイト収集系。

レベリングという点でも、アイテム集めという点でもいずれは必要になっていたであろう種別の魔術。

それを自動とはいえ手に入れる事が出来たのは良い事だろう。

次に使う場合はもう少しその影響を考える必要はあるものの。


「身体強化系……AGIはやっぱりソロならある程度は必須だし……あとは【魔力付与】以外の攻撃魔術もあった方がいいかな」


上から下へと振り下ろすことで発動する【魔力付与】。

等級に初級とある通り、初心者用の魔術でありながら汎用性は高い……と作者である私自身は思っている魔術だ。

しかしながら、私が付けたモーションのおかげでかなり用途が限定されている。

一応変更できないかとヘルプまで読んでみたものの、現時点でモーション変更については方法が存在していないらしく、運営に要望を送ってはおいた。

もしかすると、モーション変更をしなくとも済む方法があるのかもしれないが……それでも現在の私に使えるようなものではないのだろう。


「問題になってくるのは習得数、かなぁ」


そして、そんなことをしている時にヘルプである事実を知ってしまった。

それは習得できる魔術に限りがあるというものだ。

オンラインヘルプによると、レベルによってその習得可能限界数が増えていくらしいのだが……4レベルである私は今習得している【魔力付与】、【挑発】を含めあと2つまでしか習得できないらしい。

つまりはレベルイコール習得数、というわけだ。

これについても分かりやすく表示してほしいこと、魔術の削除権が欲しいと要望を送っておいた。


「……まぁ、始まったばかりだし文句を言いすぎてもね」


若干半目になりながらも、私は【創魔】を発動させる。

2連続で魔術を創るのだ、パッパと創ってその性能を確かめに行こう。




「よし、出来たー……一応確認しておかなきゃ」


数分後、少し目的のモノとは違うものの……概ね筋からは逸れていない魔術を2つ創造することに成功した。

1つ目はこれ。


――――――――――

脱兎ラビットステップ

種別:補助

等級:初級

行使:発声行使

効果:発動から(自身の精神力の値)秒間、敏捷を5%向上させる。

   (敵対者から逃亡している状態である場合+5%)

――――――――――


【脱兎】という補助魔術だ。

これは効果の通り、敏捷……AGIや素早さと言われるステータスを強化してくれる補助系の魔術。

実際の効果時間が教会に行くか【鑑定】効果のある魔術を創らない限りこの状態では分からないものの、そこは自分で検証すればいいためあまり気にしていない。

名前の通り逃亡中には更に速くなるらしいため、【挑発】をミスした時なんかにも使えるだろう。

勿論MPKにならないように注意しないといけないが。


続いて2つ目。


――――――――――

衝撃伝達インパクト

種別:攻撃

等級:初級

行使:発声行使

効果:自身の脚を用いて蹴りつけた相手に、魔力による衝撃波を発生させる。

ダメージ:{(自身の筋力の値)+(自身の精神力の値)}/2

――――――――――


こちらも【鑑定】効果がないと正確なダメージの値は分からないものの……使い勝手の良さを目的に作った攻撃魔術だ。

最初は【魔力付与】と併用できるように……と考えて『詳細』にて創っていたのだが、出来上がったら脚を使うことが前提となっていた。

恐らく【創魔】の素材として使ったのが『煽兎の足』だったのが影響したのだろうが……まぁどちらにせよ、使い勝手がいいのには変わりがないため満足している。


「よーし。【魔力付与】はもうちょっと……それこそ剣とか持たない限りは本領発揮とはいかないからねぇ。仕方ない」


一番最初に自分が作った魔術ということでこれからも使っていきたいものの……現状、【魔力付与】を上手く活かせる道具が手元にないのも事実。

アレが使えればいいな、これを使えれば楽しいだろうなという考えは浮かぶものの、それらしいものが【始まりの街】では見かけていないため……ゲーム的に先に進む必要があるのだろう。


「第1目標は【鑑定】系の魔術、第2目標くらいに【魔力付与】用の道具……ってことで、レベリングかなぁ」


何をするにも結局の所レベルが必要なのはどのゲームでも同じことだ。

そう考え、私は宿から出て【始まりの平原】へと向かった。




「いやーあっはっは!楽しいわ!ねぇどんな気持ち?昨日までは煽ってたのに今じゃ文字通り足蹴にされるのってどんな気持ち?!」


その日、【始まりの平原】に高笑いしながらイニティラビットを物凄い速さで追いかけ蹴り飛ばす女性プレイヤーが居たと密かに掲示板で話題になったのは、また別の話だ。


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