目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報
Chapter1 - Episode 4


私はとりあえず、ということで噴水の縁の部分に座って自身のステータスを確認する事にした。

何をするにしても、きちんと自身のステータス……出来る事を知らなければ面倒な事になってしまうことがあるからだ。


「……って思ったんだけど。流石にこれは少なすぎでしょ」


――――――――――

Name:アリアドネ Level:1

HP:100/100 MP:80/80

Rank:beginner

Magic:【創魔】、【魔力付与】

Equipment:布の服・上、布の服・下

――――――――――


実際に表示されたステータスはこんなものだった。

確かに必要な情報は最低限……本当に最低限は表示されている。


だがしかし、キャラメイクの時に見る事が出来たステータスは一体どこで見れるのだろうかと、一度オプション画面からオンラインヘルプを呼び出してみれば、そこにはこんなことが書かれていた。


「『教会にいくことで、詳しい現在のステータスを知ることが出来ます。それ以外でステータスをきちんと調べる方法は、【鑑定】効果のある魔術を行使する事です』……あー。これもしかしなくても、敵のステータス表示とかも同じ感じかな。【鑑定】効果ってのがあるものをまずは手に入れないといけない、と」


ステータスを表示させながら、街の様子を眺めていた私には少しだけ納得がいった。

Arseareというゲームは、その世界の住人達NPC達の根本に魔術という技術が根付いている。


細い身体をしている女の子が、現実では絶対に持てないであろう大量の木箱を片手で軽々運んでいたり。

明らかに人の限界を突破しているであろう速度で、何かしらの配達物を届けていく青年が居たり。

他にも細かく見ていけば魔術を使っていない者を探す方が難しいぐらいだった。


ということは、だ。

私達プレイヤーも、この世界で生活……というよりは、活動していく中ではある程度そういった魔術が必要になってくるのではないだろうか。


「……【創魔】を使うには、アイテムが必要。私の魔術を使うには、道具が必要。持ってるのは……」


布の服上下のみ。つまりは、私は中々茨の道を歩んでいるようだった。

まずは道具を探さなければならない。

しかしながら、店で買おうにもこの世界の通貨なんてものは持っているわけもない。

アルファから渡された記憶もないため、丸腰で何とかしなければならない可能性が高い。


普通だったらここで一度キャラ自体を消してやり直し……なんてことになるのだろうが……まぁこういった苦労はサービスが開始され情報の少ないゲームにとってはお約束のようなモノだ。

こういった不親切な所まで楽しんでこそ、エンジョイゲーマーだろう。


「とりあえず街の外に出てみるかなー」


何にせよ、とりあえず素材がない限り【創魔】は出来ない。

それにステータスを確認するために教会に寄るのは少々無駄足になる可能性があったからだ。

魔術に関係している作品での教会という場所は確かに便利な場所だ。Arseareのようにステータスを調べてくれる施設の側面もあったりするため、プレイヤーが足を運ぶ数も多いだろう。作品によっては回復関係も全て教会が権限を持っていることも少なくはない。

だからこそ、お金のないお布施の出来ない今行った所で何かが出来るとは思えなかった。


でも考えてみるとそこまで大変ではないかもしれない。

木の枝でも、手のひらサイズの石でも、とりあえずは持ってしまえば道具と判定され、【魔力付与】が使える可能性が高い。

思った以上に自然派魔術師になってしまうが、それもそれで行き当たりばったりな序盤では問題ないだろう。

キャラロールのような事もしていないのだ。気楽にいこう。

そう考え、私は視界の隅に映っているマップを確認しながら街の外へと歩き出した。



街の外に存在するフィールドは、良くも悪くも最初の……RPGにありがちな草原のフィールドだった。

名前は【始まりの平原】という、これまた分かりやすいネーミングに少しだけくすりと来てしまったものの。

とりあえず私はそこを探索することなく、近くの木が生えている方へと向かっていった。

何をするにも、とりあえずは道具が必要なのだから仕方ない。


「それにしても、結構狐耳って色々音拾えるのねー」


今も周りから何かが爆発するような音や話声なんてものが聞こえてきている。

といっても、私の周囲には誰もいない。少し離れた位置にプレイヤー達がいるのは目視できるが、平原から少し外れた位置にいるこちらは人気がないらしい。


木から1本、細い枝を手を合わせた後に折って手に入れる。

魔術がある……というよりは、アルファの属性魔術を説明された時の言葉を思い出したのだ。

もしかしなくても、Arseareには精霊、もしくはそれに準ずる何かがいる可能性が高い。

というか、プレイアブルに妖精族なんてものが存在しているのだ。ほぼ確実にいるだろう。

それならば、こういった自然の物を貰うときは最低限の礼を欠かすべきではない。

いつ私の事を見ているかなんてわからないのだから。


「うん、木の枝。……確かめてみようかな」


そうして手に入れた木の枝を上から下へと振り下ろす。動作による【魔力付与】の発動だ。

【魔力付与】によって私の魔力が木の枝に纏わりついて攻撃が出来るはず……なのだが。


「あれ?発動してない?」


ステータスを横に出して見ているものの、MPが減っている様子はない。

少し首を傾げつつ。次は魔術の発動を強く意識しながら上から下へと軽く振り下ろしてみた。

すると、だ。

手に持っていた木の枝に対し、身体の中から何かが流れていくような感覚と共に、少しだけ白く濁っている何かが私の手から木の枝に纏わりつき、振り切ると同時に消えていった。

MPを見ると10ほど消費しているため、今度はしっかりと発動したようだ。


「……魔術の発動には意識することが必要ってわけねー」


これなら【発声行使】の方にした方が良かったかもしれない。そう考えつつも、初めて発動させることが出来た魔術に頬が緩むのを止められなかった。

これで攻撃手段も手に入れる事が出来た。

あとは実際に素材を落とす相手を狩るだけ……なのだが。

これまでの事を考えると一筋縄ではいかないのだろうな、と少しだけ真顔になってしまった。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?