もう一度アルファが指を鳴らすと、私の目の前には開いた状態の本が出現した。
そこには何も書かれていない、白紙のページだけが広がっており……これを使ってどう魔術を創造するのかと首を傾げてしまう。
「これは?」
『それこそが魔術を創るのに必要な【白紙の魔導書】でございます!それに触れていただくと、専用のウィンドウが出現しますので一度触れてみてください!』
言われるがままにそのまま本に触れてみると、ポンという軽い音と共に2種類のアイコンが浮かぶウィンドウが出現する。
そこにはポップな文字で、『自動創造』、『詳細創造』と書かれていた。
試しに『詳細創造』をタッチすると、更にいくつかのアイコンが私の目の前に出現する。
「えぇっと?」
『詳細創造では、その魔術の発動から効果の設定までを自分で。自動創造ではコンセプト……攻撃の出来る魔術にするか、それとも補助などが出来るような魔術にするかを決めていただいて、効果などをシステム側が自動で設定するものとなっています!通常、ゲーム内で魔術創造を行う場合はアイテムが必要なのですが……お試しということで、今回に限り
「分かった、分かったわ。成程ね」
彼の勢いに少しだけ圧されテンションを若干落としつつ、私は目の前の詳細創造のウィンドウをしっかりと見ていく。
それでもアルファは私の事を気にせずに話し続けている。彼のパーソナリティを設定した運営は何を考えていたのだろうか。
しかしながら、しっかりと言うべきことは言っているらしく。
彼の言葉から断片的に情報を拾っていくと……どうやら魔術を創り出すには最低でも『起動手段』、『種別』、『効果』の3つを決めねばならないらしい。
『起動手段』はその名の通り、魔術をどう起動……行使するか。
タッチしてみると、【
試しに【動作行使】を選んでみると、その次の『種別』……今創造している魔術が攻撃を目的としたものなのか、それとも補助を目的としたものなのかを選ぶことが出来るウィンドウへと遷移した。
そこにはまたも2つ選択できるアイコンが存在し、【
……今作るなら……そうね、攻撃目的の魔術の方がいいか。
ゲームの開始時というのは攻撃手段に乏しい事が多い。というか、開始時点のレベル1の状態で攻撃手段が豊富だったら逆に初心者には優しくないだろう。
ちなみに同じように序盤に乏しい回復手段だが……そちらは【補助行使】の方で作れるらしい。
攻撃手段以外は全て詰め込みました!と言わんばかりの雑さだが、恐らくはこうして詳細創造を選んでいるからなのだろう。
自動創造ではそうじゃないことを祈るしかない。
【攻撃行使】を選んだ私の前に現れたのは、10種類ほどの『効果』……ここで言うのならば『どうやって攻撃するのか』を決めるためのアイコンだった。
【
その中で私の目を惹いたのは1つ。
【
その名の通り、攻撃が道具の上を沿うように行使されるらしいそれは、現在表示されているものの中で一番面白そうに見えたのだ。
そのままそれをタッチすると『以下の内容で魔術を創造しますか?』という文章と、『YES』と『NO』の2つのアイコンが私の目の前に出現した。
「ん?どういう攻撃かどうかってのは決められないの?」
『あぁ、それは元々アイテムを使い魔術を創造する関係上、素材としたアイテムに攻撃手段や補助手段というのは引っ張られてしまうのです!今回の場合は
「成程ねー」
その説明を聞いた後、私は躊躇うことなく『YES』のアイコンをタッチした。
瞬間、パァと【白紙の魔導書】が光り輝き。未知の言語で1ページだけびっしりと埋め尽くされた。
【魔術を創造しました】
【名称を決めてください】
【動作行使用のモーションを決めてください】
――――――――――
【名称未設定】
種別:攻撃
等級:初級
行使:未設定
効果:手に持っている道具に対し、魔力の膜を張り相手に振るう事で攻撃出来る。
ダメージ:道具の本来持っている攻撃能力+(自身の精神力の値)/2
――――――――――
「おぉー、出来た出来た!」
実際に自分が初めて作った魔術の効果を読んでみて興奮する。
中々に良いものが出来たんじゃないだろうか?
名前を取り敢えず【魔力付与】というそのままの名前をつけ、【動作行使】用のモーションを軽く設定する。
とりあえずは上から下に振るう動作でいいだろう。
そうして必要な項目を設定し終わった私に対し、アルファはにっこりと笑みを浮かべながら私に対し、こう告げた。
『これにて、アリアドネ様はこのArseareにおけるプレイヤー……創魔の術師となりました。これから貴女様は魔の頂を目指すため、多くのプレイヤーやそれ以外の人と、そして多くの困難と立ち向かうことになるでしょう!しかしながら、その【
彼が一礼すると、周囲の光景が……ほぼほぼ話に関係のなかったカジノがその姿を変えていく。
スロットなどが消え失せ、何処か中世を思わせる街並みに。
誰もいなかったそこには、多くの人が行き交い始め。
そして、私の背後には少し涼しさを感じる噴水が設置された。
視界の隅にここがどこであるのかがうっすらとフェードインしてくる。
【始まりの街:イニティ】
『キャラメイク、チュートリアルは終了となります。ここからはプレイヤーであるアリアドネ様の思う通りに進んでください。尚、オンラインヘルプは――』
無粋な後半の文章を読む前に消しながら。
私は思わず、周囲を見て笑みを浮かべてしまう。
ここが、私の。Arseareにおける、アリアドネの第一歩の始まりだった。