そうして少しばかり私は集中してアバター作成を行う事にした。
といっても、マネキンの状態でも顔のパターンを変えたり少し微調整出来たため、細部に拘るとかなりの時間が掛かりそうな気配がしたため、ある程度は妥協していく。
髪の毛は黒色の長髪……色々な髪型を選べたが、とりあえずシンプルにストレートで。
目の色は少しだけ趣味を出して綺麗な赤色にした。透き通っていてとても良い。
あとは体形だが……そこまで弄らず、現実の自分に近い形にした。
恐らく、ここを弄りすぎてしまうと現実との齟齬が発生して上手くアバターを操作できないなんていう問題に直面しそうな気がしたからだ。
「こんなもんでいいかな。とりあえず出来たわ」
『了解です了解です。では、確認いたします……はい。大丈夫そうですね。では細かいキャラメイクをしていきましょうか!』
細かい、と言われるとTRPGなどのキャラ設定などが頭に思い浮かぶが恐らくは違うだろう。
何せ、まだ身体を作っただけなのだ。
これだけでゲームに放り出されるのはプレイヤー側の私としても勘弁願いたい。
『まずは自分の種族をお決めください!といっても、ここでは先程説明した3種の種族のうち1つを選び、その種族内での種類……現実でいう黄色人種や黒色人種などを決めていくことになります』
「獣人族を選んだら、その中の……例えばウサギモチーフの獣人とかを選べるようになるって理解でOK?」
『OKです。ではまずどの種族になるかをお選びくださいませ!』
今まで私の目の前に表示されていたアバター作成ウィンドウが消え、新たに3つのウィンドウ……種族の簡易的な説明と、デフォルメされたイラストが載っているものが出現した。
そこにはアルファから説明を受けてはいないものの、存在しているのがある程度予想出来ていたステータスについても触れられている。
筋力、精神力、敏捷などVRじゃない普通のコンシューマゲームにもありそうなステータスから、幸運や信仰度など普通マスクデータとして存在していそうなものも見る事が出来た。
きちんとそれらにも簡易的なヘルプが付いており、魔術の威力などに関係しているのは精神力の値らしい。
きちんと見てみれば、確かに妖精族のステータスは精神力の値が他の2つよりも高く設定されているのが分かった。
……成程、満遍なく全てに適性があるのが人族。その中でも身体を動かすことに特化してるのが獣人、頭脳に特化させたのが妖精族ってわけね。
自分のやりたいことが決まっているのならばここで迷う必要はないのだろうが……なんせ私は『面白そう』という理由だけでこの場に立っているだけのプレイヤーだ。
だからこそ、全てのステータスが満遍なく……否。平均的な人族は選ぶ気がなかった。
だが、どんな種類がいるのかだけは確かめておきたい。
あとからゲーム内で見かけて『あっちにしておけば良かった~!』なんて思いはしたくないから。
「質問いい?」
『えぇ、どうぞどうぞ!』
「これって一度選んだらやっぱりやーめたってのは出来ない?」
『いえ、最終決定さえしなければ大丈夫ですよ』
「成程……ありがと」
しっかりと確認した後に、人族を選んでみる。
すると、獣人族と妖精族の説明が表示されていたウィンドウがそれぞれ何かのリストと、その説明のウィンドウへと切り替わった。
よくよく見てみれば、『黄色人種』や『黒色人種』など現実でも存在するものから、『魔人』など、明らかに普通の人ではなさそうなものまで様々な種類が存在していることが分かった。
それらにもきちんとステータスが明記されており、多少なりとも種類によっての違いが出るようになっているらしい。
試しに気になった『魔人』の文字をタッチしてみると、その説明と実際に動いている動画を見る事が出来た。
どうやら、魔力が暴走し身体が普通の人とは変化した者の事を『魔人』というらしく……今こうして私が説明を読んでいるのは人族の魔人他の獣人族や妖精族にも同じようにそういった者がいるようだった。
「……悩むなぁ、これ」
すぐに獣人族と妖精族の魔人も見にいってみると、同じような説明と共にステータスも見る事が出来た。
そして魔人……魔力が暴走したという背景があるからなのか、他の種類とは目を見張るほどには高い精神力の値。
これからゲーム内で触る魔術の事を考えるのならば、恐らくは妖精族の魔人一択なのだろうが……でもそれでは少し面白くない。
どうせならば見た目がよく、それでいて同じ種類の人がそれなりに居そうなものを選びたい。
……ん?良いのあるじゃない。
そんな時に目に留まったのは、狐の獣人だった。
ステータス的には敏捷が高く、他の獣人に比べると筋力が多少低い程度だろう。
他にこれといって目ぼしいものもないため、そのままそれを選ぶことにした。
「アルファさん、これで」
『了解しました、最終決定後は課金アイテムを使用しない限り種族を変更することはできませんがよろしいですか?』
「大丈夫でーす」
『えぇ、えぇ!では、続いて!獣人族を選ばれたので、獣と人の割合を決めていただきます!』
今まで私の目の前に展開されていたウィンドウは、またそこに映っているものを変化させた。
先程私が作ったアバターと、その横に『Beast』、『Human』と両端に書かれたメモリが表示されている。
試しにメモリを『Beast』の方に動かしてみれば、私のアバターに狐耳としっぽが生え……次第に肌が黒い毛に覆われていきイヌ科特有の発達したマズルが目立つようになった。
よく漫画などで見るほぼ獣の獣人の姿だ。
といっても、私はそこまで獣人自体に興味があるわけではないため最小限……狐耳としっぽが生える程度に抑えておくことにした。
決定を押せば、全てのウィンドウが消え満面の笑みを浮かべるアルファだけが残る。
「これでキャラメイクは終わり?」
『キャラメイクは、ですね!続いて、Arseareの世界へ入る前に1つ魔術を創ってみましょう!』
「おぉ!いいわねそれ!」
思わずテンションが上がってしまう。
当然だろう。ゲーム内に入るまで触れないと思っていたメインコンテンツである魔術の創造をチュートリアル形式で出来るのだ。
私が興奮しているのが伝わったのか、アルファは少しだけ苦笑するように表情を歪めながら、少しだけ落ち着くように手で制してきた。
私としても説明されないとどうにもならないため、大人しく従うしかない。
『失礼、失礼。先にアバターの適用をさせていただきます!いつまでもゲスト用アバターではやりにくいでしょうから!』
彼が指をパチンと鳴らすと、私の身体に何やら普段存在しない感覚を頭と腰辺りに合計で3つほど新たに感じ取れるようになったのを感じた。
恐らくはアバターを適用したことによって、私が動かしているこの身体に狐耳としっぽが生えたのだろう。
試しに腰辺りに感じる何かを動かしてみようと意識してみると、何かがぶんぶんと揺れる気配がした。
きちんと服装を見てみると、まるでファンタジーの村娘がきていそうな質素な布の服を着せられていた。
まぁここで突然鎧などを着せられるよりはマシだろう。
「凄い、これちゃんと動かせるのね!」
『そりゃあもう、運営の皆様が心血注いで作り上げたものですから!ではァ?改めまして、メインディッシュと行きましょう!!』