私達は『邪宣者』討伐後、すぐには戻らずにその場に残って今回のダンジョン攻略について話し合っていた。
というのも、だ。
「流石に余裕があり過ぎない?」
「ご主人様、結局『共鳴』どころか昇華や具現すら使ってませんもんね」
「使う必要がなかったしなぁ……これ、強くなり過ぎたとか、そういう自惚れ持っていい感じかな」
「いえ……まぁ順当に考えれば、強くなったのは間違いないでしょうが」
実際、私は強くなった。
紫煙外装は等級が参になり、装備も現状で手に入る素材を考えれば最善のモノ。
消耗品はあまり使っていないものの、それらに関しても場面場面で効果的に働く物が多い。
……上層に近い実力の敵性モブ達とは、もう勝負にすらならないって感じかな。
今回挑んだ【深淵へと至る道・海】はノーマルモード。
紫煙奇譚という、プレイヤーならば誰でも参加出来るイベントのダンジョンであり、【世界屈折空間】の上層ダンジョンよりは少しばかり難度は高いだろう。
「中層、ってよりは【過去事変】よりは弱いし、その上で私が強化されてるわけだから……」
「まぁ、今後は挑むにしても中層以降でもない限りはノーマルモードは過程に過ぎない、と言う事でしょう」
「そうなるよねぇ。今回のMVP報酬も……あんまり使えるとは思えないし」
今回手に入れた討伐報酬並びにMVP報酬に、特に魅力は感じない。
それこそ、多くのプレイヤーは装備用に確保する流れが生まれるだろうが……私にとっては今更使う意味も薄いモノだ。
これが【世界屈折空間】などのようにアクセサリー類で手に入っていたら話はまた違ったのだろうが……以前の『人斬者』と同じ様に素材という形で手に入っているのが惜しい所だろう。
「この後はどうするんですか?ハードモードに挑むので?」
「んー……いんや、挑まないかな。好奇心も湧かないし……それよりちょっと気になる事もあるしね」
「気になる事?」
「うん。流石にこの世界の歴史とか、物語とかが気になってきた」
これまで、私は特段興味も湧かなかった為に、このゲームの詳細なストーリーを知ろうとはしなかった。
その為、まだ私の中では紫煙は不可思議エネルギーであるという認識であるし、それに付随するように、紫煙外装に関してもよく分からないオーパーツのような物でしかない。
……【過去事変】についても気になるし。
名付けが特殊なボスも増えてきた。
【過去事変】で戦った3体のボスもそうだが、【四道化の地下室】のハードモードにて戦ったポゴ=ハンリーについてもそうだ。
元々、元ネタがある存在も居るには居るが、その上で元ネタが分からない存在も混じっている。
「ま、暫くはゆっくりしよっか。ここまで結構駆け足で来ちゃったし……他の人から来てくれって言われない限りは趣味優先で」
「畏まりました。ではそのように」
「あ、ルプスは勝手にダンジョンに潜ってもいいからね?」
「……良いんですか?」
「うん。『共鳴』の練度も上げたいだろうし。私が挑んだ事があるダンジョンから何処行ってもいいよ」
私の休暇の様な期間に、ルプスを付き合わせる必要はない。
本人は自覚していないかもしれないが、先程から何処か遠くを見ながら悔しそうに眉を顰めているのだ。
今回の紫煙奇譚が、彼女にとっての初の戦闘経験。
幾ら私と打ち合えるといっても、私に対しての練度が高いだけではダンジョンの敵性モブ相手には不足が出るというものだ。
「じゃ、戻ろう。使わないって言っても煙草に加工したりとかメウラくんに渡したりとかあるからね」
「はい」
これからは中々に忙しくもゆっくりとした時間が流れることになりそうだ。
--マイスペース
「い、いや。貴女に言ってたでしょう。次の調伏は私が手伝う番だって」
「おっとっと」
そうしてルプス達従者の仕事を手伝いながら、煙草を作っていると。
患猫が訪れてきた。
と言うのも、私の『怨斬の耳飾り』の様子の確認と、次の調伏はいつやる予定なのかを聞きにきたのだ。
前者は『Sneers Wolf』として、後者は完全に彼女の趣味嗜好からの理由だろう。
「んー……いや、まぁいつかはやろうとは思ってたし……やる?今から」
「わ、私は良いのだけど。そっちの予定は?」
「大丈夫。というか急ぎの予定が無いからこんな感じにしようってなったわけだし」
そう言って、軽く脱いでいた装備を着直すと。
私は患猫と少し外に出る事をルプスに伝えてから、以前初めて調伏した時に使用した闘技場へと向かった。