探索自体はそこまで苦ではなかった。
空中を進んでいる為に、敵性モブとの戦闘は起こらず回復も休憩も可能。
私とルプスというスキルの共有がされている2人のパーティだからこそ、空中で動きながらであっても足場にする酒気が足りなくなるという事は無い。
……問題は……次の階層かな。
しかしながらこの探索法が使えるのは1階層までだろう。
ダンジョンの中だからというのは置いておくにしても、十二分に跳び上がれるスペースが上にあった為に出来ている方法なのだ。
だが、2階層に行けば……十中八九、地下となる。
地下となれば、現状とは違い天井がある為に跳び上がれる高度にも限界が出てくるのだから……今ほど自由には出来ないはずだ。
「ご主人様、見つけました」
「お、階段?」
「階段です。鍵が必要そうな扉は見えませんね」
「良かった。やっぱり上層準拠っぽいね」
と、休憩がてらST回復用の煙草を吸っていると。
次の階層へと繋がるであろう下り階段をルプスが見つけてくれたため、そちらへと向かって移動を開始した。
少しばかり不安ではあるが……道中で負ける事はないだろう。多分。
--【深淵へと至る道・海】2層
幸いにして、魚人達に絡まれる事なく階段を降りていくと。
「……ん、潮の匂い。海が近いのかな」
「どうでしょう。立地的に海の中かもしれませんよ」
「その可能性もあるか。威力が高すぎるとちょっと怖いかな」
辿り着いたのは、【地下室】のような迷宮然とした石造りの通路だった。
良く分からない碧色の光を放つ松明の様な何かと、別段光を放つ訳ではない苔、じとっとした湿り気のある空気など……あまり長居はしたくない雰囲気を漂わせている。
加えて、軽く跳び上がる程度ならば問題は無いだろうものの……やはり、天井が付いていた。
……ここで1層みたいな量来られたら、それだけで詰むな。
通路の幅自体はそこまで広くはない。
私とルプスが並んで歩くと、それだけで横幅が埋まってしまう程度には狭い通路だ。
当然、これでは私は兎も角、ルプスの大太刀は使えない。
「どうする?武器変える?」
「いえ……投げます」
「投げ……あぁ、そういう事?」
彼女の方を見てみれば、私にも見えない何かが空中で『酒呑帯』をキャッチボールよろしく投げては掴んでを繰り返していた。
【擬似腕】だろう。
彼女自身の手には酒気によって作られた小太刀が握られており、近接戦闘自体も行えなくはなさそうだった。
「よし、じゃあ祈ろう……1層みたいにならないように」
「えぇ……ここでは空中に逃げるなんて出来ませんしね……」
数分程度、先へと進んでいくと。
前を進むルプスがこちらへと手を突き出し制止する。
そうして指を3本立て、小太刀を軽く構えた。
まだ私には分からないものの、敵が来たのだろう。
……なーんだかな。ルプスはどうやって索敵してんだろ。
私の知らない方法で索敵を行っているのか、それとも知っている物を使っているのか。
どちらにせよ、彼女の索敵能力は高い。
そんな彼女が来ると判断したならば、従った方が良いのには間違いない。
紫煙外装である手斧を取り出し、次いで自身の周囲に漂う紫煙を小さな手斧状に変えていく。
未だ昇華も具現も使っていないが、とりあえずはこれで良い。
壊れるかは分からないが、下手に威力を上げてしまうと周りの壁を破壊してしまう可能性だってあるのだ。
出来る限り……故意以外ではその手の可能性は排除しておきたい。
『ギュッギギュッ!』
『ギョッ!』
『ギュゥゥゥ』
そんなことを考えながら前を見ていれば、それらは現れた。
1体は1階層でも、ダンジョン外でも何度も見た魚人であり、装備も特に変わっていない。
だが、残りの2体は知らない敵性モブだった。
……犬、ではないよね。
見た目は犬のような形をしているものの、細部どころか全体的に犬ではない。
頭は蛸のように丸く、四角い目をこちらへと向け。
足や胴体のように見える部分はといえば、頭から伸びている触腕によって構成されている。
「蛸じゃん、それはもう」
『『ギュッ!!』』
言うや否や、2対の蛸犬はルプスへと駆けていく。
それと共にワンテンポ遅れる形で魚人も駆け出したものの、
「流石に君はもう飽きてるんだわ」
『ギョ!?』
私が投げ、そして射出した手斧達によって全身を打たれ、割られ、数秒で光の粒子へと変わってしまった。
障害物が特になく、それでいてある程度の威力がある攻撃が連続して命中したのだ。どれ程耐久があった所で、道中に出てくるような敵性モブならば……これだけで削り切れる。
「ご主人様!1体抜けました!」
「おっ、了解」
『ギュギュッ!』
と、ここでルプスの脇を抜ける様にして蛸犬が1体こちらへと駆けてくるのが観えた。
魚人が一瞬でやられたからだろうか。相応に彼らのヘイトを貯めてしまったらしい。
攻撃力が高い後衛を優先して狙うのは素晴らしい。
下手に放っておくよりは確実に考えだろう。
しかしながら、
「それはその後衛が近接戦闘苦手だった場合だよね。『変われ』」
私とルプスのパーティにとって、それは悪手だ。
何せ、私は主力が投擲だからというだけで後ろに下がっているだけであり、近接戦闘もある程度行えるのだから。
「さぁ、体を動かしていこう!」
具現化させた『想真刀』を軽く握り、私は迫ってくる蛸犬に対して吠える。
戦闘開始だ。