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Episode23 - G5?


一瞬、『人斬者』は躊躇うように刀の切先を揺らし。

しかしながら次の瞬間、『酒呑者』へと向かって駆けだした。

濃く怨念を纏い、羽織袴を揺らしながら……全身から圧を発しつつも動かないでいる鬼の側面へと周り、その無防備な首へと刀を振るう。


『ふむ』

『ッ』


だが、その一刀は鬼へと徹る事は無い。

軽く手を挙げると同時、琥珀色の酒精が彼女の手を覆う様に出現し盾のように固形化して受け止めたのだ。


『遅いのう……これなら妾を『共鳴』で呼び出す必要もなかったんじゃないか?』


修羅はその場からすぐに跳び退こうとしたものの。

いつの間にか盾が形状を変化させ、刀身ごと修羅の腕を取り込み両者の腕を繋ぐ事で阻止していた。

……【酒精操作】に【状態変化】の応用かなアレ。

表面は壊されないように固体に。

そして実際に動けないように拘束している中身の部分は粘性のある液体へと変える事で、中で動かれてもそこまでの力が発揮できないようにしているのだ。

私にも出来るかと言われれば出来るだろうが……それ以前に、あの一瞬でそれを出来る鬼の技量が少しだけ怖くなる。


『じゃ、やられたならやり返さんといかんよなぁ……?【Give Up Three】』


鬼の身体全体が赤く染まっていくと共に。

私の視界から、溜まっていた『酩酊』が全て消費されていくのが分かった。

【Give Up】系スキルはその後に付いた英数字によって効果を変えるスキルであり、普通ならば段階を飛ばして行使は出来ない。

しかしながら、目の前の鬼はその段階を飛ばし一気に最終段階であるステータス強化効果のある【Give Up Three】を発動させていた。

……私が知らない使い方がある、って事だよねぇ。コレ。他のスキルにも応用できるのかな。

恐らくはコスト消費型のスキルならば出来る事なのだろう。

今回鬼を召喚したのが私である為か、鬼の方で賄いきれないコストの消費は召喚主である私の方にフィードバックが来ている事から、そこまで間違った予想でもないはずだ。


鬼が動く。

先程まではゆったりと、誰の目にも見える程度の速度で動いていた鬼が一瞬でその姿を消し。

次の瞬間には……修羅と共に宙へと浮いていた。


「これ一応、アクション系のMMOなんだけどなぁ……」


蹴り飛ばされたのか、修羅は何が起こっているのか分からず困惑した様子で鬼からの打撃を喰らっていく。

羽根などの空中で移動、回避を行える術がない『人斬者』は慌てた様に身体を暴れさせるものの、


『これ、動くでないわ。当てにくいじゃろ』


『酒呑者』の一声と共に、酒気によって全身を拘束され抵抗すらさせてもらえなくなってしまった。

どうやって浮いているのか、どうやって空中で地上と同じ様に力を出しているのかは分からないものの……これでは戦闘が終わったも同然だろう。

正しく鬼札。自分で切る事が出来る札ではなく、出た札に任せる運否天賦である札は修羅すらもねじ伏せてしまった。

……私、いつか分からないけどアレと戦うの?マジ?

そして、もう1つ。将来に不安が出来てしまった。

あの鬼が言う様に、これから先……もしも私が中層のハードモードに挑むような事があった場合……私はアレと戦わねばならないのだろう。

今も、酒気の足場すら使わずに不可思議な力を使って空中戦を繰り広げている鬼と、だ。


【『怨斬の耳飾り』の調伏に■功しました】


『おっと、危ない。一旦待てい』


ログが流れ、私の視界が切り替わり始めた所で渇いた音が1つ鳴った。

その瞬間、周囲の景色が見覚えのある……全てが溶けた世界へと切り替わった。


「……好き勝手しすぎじゃない?」

『良いんじゃ良いんじゃ。これが初じゃしの。……っとと、いけない。1つ忠告をしておかねばならんくてな』

「忠告?」

『そうじゃ。……今回、妾がこうして人格込みで出てきたのは特殊な環境、特殊な状況、特殊な敵……3つの特殊が組み合わさった結果であり、通常の……それこそ、この後外で呼び出した所で、同じようにお喋りは出来んと把握しておくように』


言われ、そう言えばと思い出す。

最後は観戦しているだけだったものの、そもそもこの場は特殊な場。

私が戦っていた『人斬者』も、しっかりと特殊な敵だ。

そして、今回はそんな相手を使っての『共鳴』のチュートリアルが行われたという環境。

どれも特殊であり、特例であったのだろう。だからこそ、講師役として呼ばれた『酒呑者』は何処か人間味が強く、様々な権限をもっていたのかもしれない。


「成程ね、じゃあ次こうして話せるのは……」

『十中八九、童が妾の領域に再び挑戦しにきた時じゃな。覚悟しておくと良い……次は楽に探索出来ぬと思え』

「あは、楽しみにしておくよ。『共鳴』ももっと使えるようになった行くからさ」


そう言うと、鬼は満足したように嗤い消えていく。

それと共に、私の視界は今度こそ切り替わっていった。

花畑から、蛸の暴れる石造りの都市へと。


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