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Episode22 - G4?


目に観えている群青の線を追う様に、酒気で出来た刀を振るう。

当然ながら、修羅の使う刀は私の主戦力にもなっている『想真刀』。

マトモでもない、急造の刀では打ち合う事は出来ず、一瞬弾くのみで砕けてしまう。

だが、それで良い。

幾らでも代わりが用意出来るからこその急造品なのだから。


「こりゃ、今までのスタイルも考え直さないとかな……!」


右手で刀を振るい、弾かれ砕かれては新たに作り出す事で擬似的な打ち合い、鍔迫り合いを再現しつつ。

試せるものは試すべきだ、と私は左手に酒気による鞘と、それに納められた刀を作り出す。


「『変われ』」


怨念によって動く相手に、怨念由来の攻撃は効果が薄いかもしれない。だが、既に【狼煙】を瞳に使っているのだ。

残り少ないそれを使うよりも、あまり使ってきていない【怨煙変化】のこりものを使った方が練習にはもってこいだ。

そう、既に修羅との戦いは私の中では『共鳴』の練習へと変わっていた。

時間制限付きとはいえ、相手の動きの動線が見えるのだ。

【回避】も合わせれば、どんなに近くとも避けられないなんて事はないのだから。


【怨煙変化】によって、左手と鞘に濃い怨念が纏わりつくように発生し。

再度、右手の刀が砕けると同時、私は【観察】を発動させた時の様に意識しながら、


「――【居合】」

『ッ』


動きの終点、修羅がこちらへと刀を振るい切ったタイミングに合わせ、鞘に納まっている酒気の刀を抜き放つ。


【選択煙質:【怨煙変化】】

【選択スキル:【居合】】

【共鳴を開始します……共鳴名:『怨嗟の抜刀』】


普段であっても不可避の一閃。

しかしながら、私が発動させたソレは白い刀身に赤黒い焔を纏わせながら相手の身体を斬り裂いた。

修羅の着ている羽織袴が下から上に、斜めに一閃され、赤黒い焔が傷口と共にそれを焼く。

一瞬、焔が羽織袴に吸い込まれ破損部分が修復されかけたものの……それも途中で止まってしまった。

……あれの効果は怨念吸収と自己修復か。まだありそうだな。

効果の目安を付けつつも、【居合】の効果が切れた為か刀身から赤黒い焔が消えていくのを確認して、私は一度修羅の刀が届かない位置へと跳び退いた。


一息ついて、目に宿る力が薄れていくのを感じる。

見れば、既に視界上の【狼煙】のゲージは底を尽きかけており……今の状況が終わりを迎えるのが分かってしまった。

対して【怨煙変化】はといえば、未だゲージは半分以上残っており……まだ少なくとも1回は『共鳴』の練習を行えるだろう。


「……もうちょっと、君と練習していたいんだけどなぁ」


煙質の残量以外にも、私の時間に余裕が無いのは事実だ。

今も視界の隅に映る湖には、私の身体を好き勝手に操り『邪宣者』の触腕を斬り刻んでいる修羅の姿が観えている。

そして、その修羅に対し……時折【浄化】のような光が飛んできているのもだ。

音桜程の出力ではないようだが、このままではじきに身体あちら側が倒されてしまって精神こちら側での戦いが無かった事になってしまう。


「感覚は分かってきた。次も多分発動出来る。でも一撃一撃決めていたとしても……君は倒せない。倒れてくれない」

『――』


刀を構える。

互いに一歩踏み入れれば死線の位置。

動きの線が観えていたからこそ、ここまで一度も攻撃を喰らっていないものの……これから先はそう上手くはいかないはずだ。

だからこそ、私はここで1つの札を切る。

切り札ではない。文字通りの『鬼』札を再び切るのだ。


「だからこそ、私は一撃とは言わずとも……これで君が倒れてくれる事を祈ってるよ。神にじゃなく、鬼にね。『変われ』」


【怨煙変化】によって生じた怨念を全身に纏う。

その瞬間、『人斬者』はこちらへと向かって跳ぶように接近してきたのが分かった。

効果を試し過ぎた所為だろう。既にそこに群青の線はなく、相手がどこへと向かっているのかは分からない。

だが、私はそんな相手を目で追おうとも、対処しようともしなかった。


「――【酒鬼顕現】解放リリース


【選択煙質:【怨煙変化】】

【選択スキル:【酒鬼顕現】】

【共鳴を開始します……共鳴名:『酒転萄児しゅてんどうじ』】


思えば、あの鬼は私にヒントをくれていたのだと思う。

時間がない私にとって、この場で以前の私の戦い方を学習している修羅に対してとれる選択肢はかなり狭く……もし『共鳴』が出来たとしても、それが決め手には成り得ないと。

だからこそ、彼女は言ったのだ。


「使われたら、って言ったよね?……使ったから、頼むぜ」

『呵々ッ、すぐに出番がくるとはのう!言った甲斐があったようじゃ!』


鉄と硬いものがぶつかるような音がして。

私の首筋へと背後から『想真刀』を振るっていたと思われる修羅の動きが止まる。

刀が、私の身体に纏っている怨念によって止められた……否、怨念が手のような形になって刀を受け止めたのだ。

【酒鬼顕現】。

昇華によって使えるようになっていたものの、ここまで一度も使ってこなかった『酒呑者』由来のスキル。

その効果は至って単純でありながら、強力だ。


「持ってく量は?」

『時間が無いんじゃろ?なら……3日分・・・貰おうか』

「おっもいなぁ……了解」


言われると同時、私の身体全体に黒い鎖が纏わりついていく。

これ自体には実体はない代わりに、【浄化】などでも解除は不可能な拘束具。

私は視界の隅に新たな、鬼が笑っているアイコンが表示されたのを見て溜息を吐く。

【酒鬼顕現】の効果。それは、


「デメリット付き、時間制限付き、ステータス制限付きでも『酒呑者きみ』を使役出来るんだもんねぇ」

『まぁ、待っとれ。この程度なら数秒もあれば終わるじゃろ。……短い間に『共鳴』のコツもある程度掴んだようじゃし、ご褒美じゃ』


『酒呑者』・・・・・の召喚・・・

当然ながら1分間のみという短い時間制限も付いているし、デメリットとして……彼女が提示した期間のスキル熟練度が全て徴収されてしまう。

それにステータス自体もボスとして戦った時よりも格段に落ちている。

恐らく、私が本気で戦える環境であるならば何もさせずに倒し切る事が出来るはずだ。

だが、そこに『共鳴』を合わせた場合は……話が違ってくる……という事なのだろう。


鬼の姿は先程見たものと少し変わっていた。

手には瓢箪ではなく、ガラス製の瓶を持ち。

服装は和服から旗袍へ……所謂、チャイナドレスへと変化して。

全身に私が纏っていた怨念を纏わせつつ、修羅へと手招きをしながら薄く嗤う。


『来い。童が見ておる――すぐに終わらせよう』


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