「様々なモノ……」
『そう、様々なモノじゃ。例えば……童の持つ
「そりゃあもう。……でも何が出来るの?」
『それは童次第。主が持つ性質によって変わるものじゃしな』
私が持つ性質。
言われ、脳裏に浮かぶのはこの身に宿る2つの煙質のみだ。
……【狼煙】に【怨煙変化】。もしかしてアレってそういう事?
思い返せば、『酒呑者』が言う作用とやらには少しばかり心当たりがあった。
1つは、私が【狼煙】を使った時に発生する群青の狼。
もう1つは、スリーエスや禍羅魔が見せた煙質らしきものを使った埒外の力だ。
『思い当たる節があるようじゃな。それをしっかりとした形に直した……否。しっかりとした形で発動させるのが『共鳴』であり、妾に届く力じゃ』
「あは、一度は君を倒してる筈なんだけどね」
『阿呆。アレが本気ではないと分かっておろうに』
言って、鬼は私の背後に回り右腕を取る。
されるがままに動かしていけば、こちらを待つ『人斬者』へと手のひらを向ける様な形となり、
『最初は妾が補助しよう。それで感覚を掴め。その後は鍛錬あるのみじゃ』
「おっとっと。じゃあ1回目のこれは中々重要じゃん。何かリクエストある?」
『そうじゃな。攻撃系は……もっとらんな。ならば補助系……童ならば良いモノがある。
その言葉に、何を使えば良いのかを理解しつつ。
私は一つ息を吐く。
「オーケィ。何が起こるかは知らないけど……やってみよう。面白そうだし?――『
私の身体から、目を覆う様に群青の紫煙が漏れ出ていく。
それと共に、背後から私の身体の中へと熱い何か入っていくような感覚があった。
既に鬼の手の感覚はなく、声も私の内側から響く様に聞こえてくる。
『良いか、その手は狙いを付ける為のものじゃ。手が向いている方……今回はアレだけじゃが、次から狙う時はそれを意識せよ』
「了解……」
『良し。じゃあ補助はする。いつもの様に無意識にではなく、意識して使うんじゃ』
視線の先には、『酒呑者』が居なくなったからか濃い殺意をこちらへとぶつけてくる修羅が居る。
体勢も、先程よりも前傾になっており、いつでも駆け出せるような状態だ。
だが、こちらを待っているのか……元の『正々堂々』という性分を律儀に守っているのか、何かをするまでは動く事はないだろう。
ならばこそ、私は此処で、言われた通りに……記された通りに道を辿るべきだ。
「【観察】――ッ!?」
【干渉を確認……個体:『酒呑者』による補助】
【選択煙質:【狼煙】】
【選択スキル:【観察】】
【共鳴を開始します……共鳴名:『
変化は一瞬だった。
私が呟き、スキルを発動させると同時……目に纏っていた群青の紫煙は操作もしていないのにも関わらず、私の目の中へと流れ込み。
私の視界が白黒へと変化する。
だが、それだけではない。
相手の身体の節々に群青の紫煙が纏わり付いているのだ。
……これは……?
鬼の声は既に無い。
役目を果たしたと言わんばかりに、私の身体に入ってきた熱い何かも消えている。
それを察知したのか、私がスキルを発動させたのを確認したのか……修羅が動こうとして、私は目を見開いた。
「そういう事ね……!」
私の視界には、複数の群青の線が『人斬者』から私を繋ぐ様に出現したのが見えていた。
その内の1つが残り、それ以外が掻き消える。
線の軌道はまっすぐに私の首へと繋がっていて、
「――ッ」
『ッ!?』
それを避ける様にしゃがんでみると。
次の瞬間、『人斬者』が振るった『想真刀』が頭上を通過していくのがわかった。
だが、それだけでは終わらない。
次いで、無数の群青の線が再び私へと繋がれ……また1つ以外が掻き消えた。
……良いじゃん良いじゃん『共鳴』!
それを避けると共に、その流れに沿って攻撃が飛んでくる。
何度もそれを繰り返し、『人斬者』は困惑と怒りを表情に滲ませながらも一度飛び退いていく。
流石の私も、ここまで来れば『始まりの視標』というものの効果もある程度理解できる。
それは、
「始点と終点を繋ぐ線が見える……!」
それも対象になっている相手が選択した動きのものを、だ。
どうして観る事に特化した【観察】と、初動に特化した【狼煙】を組み合わせたらこの様な効果が得られるかは分からない。
しかしながら、分かる事……確実な事は1つある。
「動きが分かるなら……観えるのであれば、負けない」
相手の動きに合わせる様に攻撃を置けば、相手が勝手に当たりに来てくれる。
何処に逃げようとしているのかも分かるのだから、避けられるという心配はない。
線の終着点へと向かって攻撃を加えれば必中するのだから。
問題があるとすれば、ただ1つ。
……煙質の消費は激しいなこれ!
今までに見たことのない速度で、視界上の【狼煙】の残量が減っていくのが分かる。
このままでは1分もしない内に底をつく事だろう。
だが、それでいい。今は、この戦場だけはそれで十分だ。
「征くよ」
『――!』
行った。
避けだけに専念していた私は、地を蹴り、こちらを待ち構えている修羅へと向かって駆け出した。