以前見た時は怨念を使って『想真刀』の刃の長さを変える程度にしか能力らしい能力を使っていなかったのにも関わらず。
今現在では、背中から酒気の腕を生やし、『想真刀』によく似た紫煙、酒気による刀を作り出し合計7本の刀を同時に操っている。
アレが成長しているのか、それとも私がある程度戦術としてとれる行動を模倣しているのかは分からないが……流石にそろそろ制御出来るようになっておかねば、今回のような意図的以外での暴走時に大変な事をしてしまう可能性もある。
『……ふむ、童の身体はこの悪趣味な修羅に乗っ取られとるのか』
「まぁね。怨念によって具現化してるらしいよ?今だと……あの羽織袴と編笠がそうみたい」
『ほう、主は……あの流れ着いた死にぞこないか。成程成程。――童よ』
「なぁに?」
話しているうちに若干薄れていた警戒心をしっかりと濃く持ち直しながら。
私は少しばかり薄ら笑いを浮かべている鬼へと向き直る。
『妾が1つ、良いものを教えてやろう』
「なっ――?!」
そう言われると共に、私の身体は浮かんでいた。
否、正確に言えば……『酒呑者』に抱きかかえられるような形で、私の身体は湖の上へと投げ出されていたのだ。
まるでコマ落ちしたかのような動きに、私は追いつく事が出来ずそのまま落ちていく。
あの修羅が居る空間へと。
「……私、戦闘は出来るけど……今紫煙外装使えないんだけど?」
『何、使えずとも何とかなる。妾を信じろよ』
「そんな歴戦の仲間みたいな雰囲気出されても……まぁやるしかないんだけどさ」
以前と同じように。
湖を通った先は、多くの草花が生えている場所だった。
当然ながら、そこには1人の修羅が湖からあがっていく私達2人の事をじっと見ていたものの、
『……』
『安心せい、死にぞこない。妾は直接手を出さぬよ。
『酒呑者』の声によって、警戒の対象を私1人に絞ったようだった。
……面倒だな、手斧使えないのも。
私の身体は、現在複数のステータス強化が掛けられている状態だ。
恐らく現実側……今も『邪宣者』と戦っている修羅側とリンクはしているのだろう。
視界の隅には半分以上燃え尽きた【葡萄胚】と、たまにどこに追撃すればいいのか分からない様子で出現する紫煙で出来た刀などが見え隠れしている。
そんな状態なので、当然私は現在紫煙外装を使う事は出来ない。
『想真刀』も……現実側で使っているからか、耳飾りから引き出そうとしても何も出てくることはなかった。
つまるところ、
「しっかり弱体化してるじゃん私……!」
戦力が半分以下である、と言うには些か下がり過ぎている状態なのだ。
未だ効果の続いている昇華のおかげで酒気については問題なく使えるだろうが……具現の方が切れてしまっているが故に、大規模な事象を引き起こす事は難しい。
以前と同じような『酒霊』による攻略が出来るのならば余裕もあるものの……相手はほぼ確実に前回の戦闘結果を学習しているだろう。
……試すのはあり、だよねぇ。
そう考え、私は
「……えっと?戦わないとなんだけど?」
『まぁ待てい。向こうもまだ手は出してこん。妾がここに居るからな』
言われ、見てみれば。
確かに『酒呑者』がこの場にまだ居るからか、刀へと手を添えるのみで攻撃をしてこようとはしていない。
私に対してだけは警戒しているのは変わらず……しかしながら、隣に居る鬼に対しては警戒というよりも、畏怖のような感情が滲んでいるのが分かる。
……ボス達の中でも上下関係がある、って事かな。
中層のボスと、イベントで出現したボス。どちらがレアかと言われれば『人斬者』の方に軍配はあがるだろうが……実力で言えば、確実に『酒呑者』だろう。
「じゃあ教えてくれるって奴、早く教えてくれる?こっちは【葡萄胚】が燃え尽きないか……って、燃えてないなコレ」
『当然じゃろ。それが燃え続けてたら、妾が教える時間が取れんではないか。今、この場に限っては妾の自由に出来る空間であり、外に居る者にも許されておる権能じゃ。教えたい者が居ったら自由にせい、とな』
「外に居る者、ねぇ……」
見れば、先程確認した時から【葡萄胚】の燃え尽き加減が変わっていない。
湖の方へと視線を向けてみれば、現実側の私や『邪宣者』達の動きは止まっているように……非常にゆっくりとした速度で動いているように観えた。
ほぼ確実にこの場での時間経過の速度が外とは違う、という事なのだろう。
それを引き起こしている原因が私の横に居る、中々流暢に話す鬼だという事も。
『さて、じゃあ教えていくとするか……童はもうその一片を使っておるようじゃがな』
「もう使ってる……?」
『そう。お主が持つ紫煙を様々なモノに組み合わせる術――『
突然、予想に反してボスによるチュートリアルが始まった。