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Episode16 - EC2


私の記憶にあるルルイエ=オールドワンと、現在私が駆けている都市の様相は変わっていた。

と言うのも、全体的に患猫が作成した様な呪地が広がっているのだ。

怨念への耐性を装備によってある程度賄っている私にとっては問題の無い程度ではあるが……対策無しのプレイヤーには死地でしか無いだろう。


「……距離も弄られてるねこれ」

「先行しますか?」

「いんや、行かないで。多分そろそろ来るから」

「?何が――」


私の発言にルプスが疑問を投げ掛けようとした瞬間、私達の進行方向に居た敵性モブ達に向かって、空から巨大な手の形をした炎が落ちてきた。

それと共に、巨大な氷柱や、雷等様々な攻撃が石造りの都市へと降り注ぐ。

……危なかったぁ……。

私は何もしていない。

単純に、他のプレイヤー達が私達に追い付いたのだ。

少しずつスピードを落とし、立ち止まれば。

目の前に1人のプレイヤーが降りてきた。

ライオンの鬣のような髪型をしているその男は、油断無く自身の紫煙外装であるヨーヨーを構え、


「……ァ?お前……どっちだ?」

「プレイヤーだよ。禍羅魔くん」

「名前を知ってるッてェ事ァ……知り合いか何かか。すまねェ、当てるとこだった」

「当たってないからセーフセーフ」


力を抜く。

因縁が無いとは言わない。だが、向こうは此方の事を覚えていない。

それに加え、今は色々と気にしている状況でも無いのが確かだった。


「私はレラ。目的は中央のアレを倒す事。そっちは?」

「同じだな。ッてか、ここに来てる連中は基本そうだろ」

「良かった良かった。……一個前のイベントで、人の邪魔をしてきた連中も居たからさ」

「あァ……災難だったな」


そこまで実力がある訳でもなかった為に、足止めという程の時間は掛からなかったものの。

再度あの手の輩が湧いてこないとも限らないのだ。

だからこそ私は今回、他のプレイヤーを置いていくように全力で空を駆けたのだから。


「まァ良い。お前、索敵持ッてッか?」

「いんや、目だけが頼りだよ。そっちの子もだね」

「……俺と同じッて訳か……。しャーねェ。一緒に行くか。着いては……来れそうだな?」

「任せてよ」


禍羅魔が出現させた紫煙の車輪を見つつ。

私はルプスを近くに引き寄せ、背負った上で酒気によって固定する。

……着いていけるか分からないけど……まぁやってみよっか。

中央までの距離、と言うよりは。

この石造りの都市という空間自体が弄られている可能性があるのだ。

こうして中央に居る触腕の塊の様な存在は見えているものの、あれがどれ程近くにあるのか、本当に道をいくだけで辿り着けるのかは定かでは無い。


「よゥし、行くぞ」

「オーケィ。……ちなみに他のプレイヤー達は?」

「街に散ッてんじャねェか?一塊になッておりる意味もねェだろ」

「それもそっか」


そんな事を言いつつ、私と禍羅魔は駆け出した。

当然ながら、私より先を行くのは禍羅魔だ。

紫煙の車輪が炎を撒き散らしながらも推進力を得て、前は前へと彼の身体を運んでいく。

しかしながら、私も考えていたよりは置いてかれてはいない。

昇華によって得ている鬼の膂力に加え、地面を蹴る瞬間毎に足裏を酒気によって押し出す事で、無理矢理ではあるが身体を前に出しているのだ。

……当然ながらHPは削れます、と。

しかし、やはり身体にとっては無理のある移動方法ではあるのか、一歩移動する毎に私のHPは軽微ながら減っていく。

だがそれも、背中に固定されたルプスがHP回復薬を身体にかける事で回復は出来ている。


「そういや禍羅魔くんはこの後どうやって戦うつもりなの?」

「あァ?そんなん決まッてるだろ?――突ッ込んで行ッてぶち退めすだけだ」

「……あぁ、特に作戦とか無いんだ」

「んなもん、俺が考えるもんじゃねェ。それに考えるのは性に合わねェからな」

「あー、まぁ私もそうだから分かるけども」


ちらほらと他のプレイヤーの姿が見えてきた中。

私と禍羅魔……作戦など考えず、単純にその場の流れで戦う2人は更に前へと……中央への道を駆け抜けていく。

だがここで、禍羅魔も中央への距離が縮まっていない事に気が付いたのか、少しだけ眉を顰めつつ1本の煙草を取り出しながらその場で止まる。

それに合わせ私も止まり、昇華煙などの更新をしていると、


「面倒だ。お前……レラ、ちッと離れとけ」

「良いけど……何すんの?」

道を拓く・・・・


言って、彼の身体から大量の赤黒い紫煙が漏れ出始める。

一瞬その色に警戒してしまったものの、私が干渉出来る時点で問題ないものとして息を吐く。


「『未知を焼き拓け』」


彼がそう言うと共に、赤黒い紫煙が全て彼の車輪へと吸い込まれ一体化していった。

……あれは……海面?

車輪が彼の目の前へと移動する際、一瞬だけ地面が透け海面のようなものが目に観えた。

恐らくは彼が使ったと思われる煙質の効果ではあるのだろうが……気になるものの、私の持っている知識の中には類似している効果の物は1つもない。


「紫煙駆動……行くぞ」


次いで、彼が言うや否や。

彼の身体全体に、紫煙で出来た襤褸が出現し。それと共に私の近くに1つの紫煙の小舟が出現した。

乗れという事なのだろう。

何がどういう事なのかは分からないものの、私はそのままソレへと乗り込んでいく。


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