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Episode14 - E13


考える、と言っても昇華についてはそこまで悩む必要は無い。

慢心なく全力を出すという考えならば、答えは1つしか無いからだ。

問題は具現の方。


「……んー、音桜ちゃん。泡酩華とか持ってない?」

「一応、染料の元にはなるので幾つか在庫はありますが……」

「じゃ、それ全部売ってくれる?丁度うちの菜園にも植ってないから」

「良いですが……もしかして煙草に?」

「まぁそのまさかだね。ちょっといつものより都合が良くてねぇ」


泡酩華は、泡のような薄く虹色に光る球体状の花を咲かせる植物であり、このゲームでは加工され染料としてよく使われている素材の一種だ。

しかしながら、他にも使い道……というよりは。

植物としての特徴が1つ。

花の部分が非常に脆く、強い衝撃どころか、指で触れた程度でも破裂するかのように散ってしまう。

そうして散った時に、周囲に濃い酒気をばら撒く事でも知られているのだ。

……ま、普段は使わないから育ててないのだけど。

酒気を扱う私にとっては有用かと思いきや、正直コレを使うくらいならば普段から垂れ流しになっている【酒気展開】による酒気や、紫煙外装から付与される『酩酊』で不都合無い為に出番がない素材でもある。

そんなものを使ってまで、今回酒気関係を強めるのには理由がある。


「……戦闘中はお姉様の近くには居ないようにします」

「あは、それが良いよ。最悪動けなくなるんじゃない?」

「一種のテロですよテロ」


濃く、そして膨大な量の酒気が必要となると踏んでいるからだ。

……うーん、どうかな。親衛者でああなった・・・・・・・・・んだから、多分予想通りにはなると思うんだけど。

考えつつ、音桜から泡酩華を受け取った私はそのままマイスペースへと移動する。

ルプスの後を追う形にはなってしまったが……まぁ良いだろう。




そうして、準備を重ね次の日。

私はルプスを伴ってルルイエの外周部……海岸へと再び訪れていた。

既に数多くのプレイヤーが集まっており、水中から度々あがってくる魚人や魔女達を顔が見えるや否や光の粒子へと帰し続けている。

そんな光景をぼうっと、全体的に視界内に収める様に見ていると、


「すまん、遅れたか?」

「いんや、間に合ってるよ。まだ水中から見えてすらないからね」


メウラが、何やら文字の書かれた包帯でぐるぐる巻きにされた長い棒のようなものを抱えて私の近くへとやってきた。

私がデスペナルティとなった後、残された彼らはどうにかこうにか戦闘していたものの……高速で地面の下から生えてくる触腕によって徐々に連携を崩されてしまったらしい。

結果として、私が死んでから約30分の間に全員こちらへと戻ってきていたようだが……まぁそれは良いだろう。


「それがそうだったりする?」

「おう。数打ちよりはしっかり作ったから名前が付いたぞ」

「おっとっと。それじゃあ丁寧に使って貰わないとだ」


言いつつ、メウラから棒を受け取って包帯を外していく。

すると、だ。包帯を外していくにつれ、周囲に濃い酒の香りが放たれ始める。

当然臭気の元はこの棒であり……刀だ。

白く、長い大太刀と言われる類の刀。濃い酒気を放っており、下手に耐性の無い者が近付けばすぐさま『酩酊』に陥って行動できなくなるであろう一種の妖刀。


「うん、良いね。名前は?」

「『酒呑帯しゅてんおび』。そのまんまだ」

「シンプルなのは良い事だよ、ねぇルプス」


――――――――――

『酒呑帯』

作者:メウラ

耐久:100/100

種別:武器・刀

品質:B+

効果:一定時間毎に一定範囲内の対象に『酩酊』を付与

   一定時間毎に酒気を生成、放出

   周囲の酒気の濃度によって与ダメージ増加効果

説明:世界を溶かし、呑みこんでいく鬼の骨で造られた大太刀

   かの鬼が使っていた物よりは落ちるものの、相手を溶かすには十二分だろう

――――――――――


だが、この刀を私が使う事はない。

これは私の従者に持たせる為に、メウラが作ってくれた一刀なのだから。


「良いのですか?」

「ほら、言ったじゃん?武器は用意するって。それにいつまでも数打ちの刀を使わせてるのも悪いし……まぁメウラくんはそっちの方が良いだろうけど」

「あぁ、そりゃそうだ。お前らが刀を折る度に俺に素材やら金が入ってくるんだからな。だが、生産者としてはこういう、良い作品も使ってほしいって訳だ」


言われ、彼女は軽く頬を緩ませながらも大太刀を構える。

完全に解放された大太刀からは濃い酒気が周囲に漂い始めるものの、私とルプスの【酒精操作】によって必要以上に周りへと流れる事はない。

軽く振り、ひとしきりの技のようなものを私達の前で見せた後、彼女はメウラへと向き直り、


「少しよろしいですか?メウラ様」

「調整か?丁度良いからここに工房展開すっから少し待ってろ」

「ありがとうございます」


どうやら何処か気になる所があったようで。

すぐさま製作者に調整を求めていた。

……うん、これで周りの敵性モブは確実に任せられる。

この後の戦いで、私はあまりボスの取り巻きを倒すつもりはない。

あまりリソースに余裕があるとは言えないからだ。

だからこそ、燃料さえあれば動いてくれるルプスにそれを任せたい気持ちが強かった。


「さて……そろそろか」


インベントリ内から2種類の煙草を取り出しつつ、海を観る。

そこには既に、海中からあがってこようとしている大きな黒い影が観えていた。


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