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Episode13 - E12


「まず、今回お姉様が悪かった事は大きく分けて2つあります」

「はい……」


謎の触腕に潰された後、私は紫煙駆動都市であるルルイエの方へと戻り。

海岸の砂の上で音桜によって正座させられていた。

隣には私が死んだ為に、共に水没都市から戻って来ていたルプスも正座している。


「まず1つは、敵地だというのに警戒を解いた事です。話を聞く限り、普段のお姉様だったら絶対避けれたでしょう?」

「避けれました……視線さえ外さなければ多分……」

「スキルもあるし、お姉様なら感知からステータス強化もあって問題なく避けれると思います。まずそこが1つの悪かった点です。慢心しすぎです」


こうして怒られているのにも理由がある。

私が死んだ後、水没都市であったルルイエ=オールドワンは海面へと浮上を開始した。

しかし、すぐには海面に到達する事はなく……非常にゆっくりとした速度で浮上してきているのだ。

だからこそ、プレイヤー達にはそれが浮上した時に備える時間が出来た。

……紫煙駆動都市側が警戒態勢になったのも大きいしね。

それに加え、今まで外界から敵性モブが出てきたとしても一切焦りを見せなかった紫煙駆動都市側が一気に警戒態勢に入ったのも大きいだろう。

見かけるNPC達は全員どこかしらに武装をし、見かけなかった全身鎧の騎士のようなNPCまで登場し始めたのだから。

流石に暢気に海を楽しんでいたプレイヤー達も、これには不安と共に警戒をせざるを得ない状況になったというわけだ。


「そして2つ目。こちらはまぁ簡単なのですが。そもそも人が少なすぎます。なんですか6人で都市探索って」

「いやまぁ……その。あんまり人を増やしても仕方ないっていうか……そもそも怨念具を使えないとあの都市が見えない可能性があったので……」

「それならお姉様と患猫さんでパーティを分ければ良かっただけの話でしょうに。まともなタンク役が居ない状態でそんな所にいかないでください」

「すいません……」


音桜から説教されている2つの悪かった点。

普段とは違った環境、違った面々に慢心、油断をしていたのだろうという思いは確かにある。

そも、本当に集中しているのであれば……あの場面でスリーエスやキヨマサと言葉を交わす前に、追撃で何度か手斧を投げ続けた方が良かったはずだ。

それに、昇華煙や具現煙を使っていなかったというのもある。

普段の探索ならば絶対に使うであろう2種の魔煙術を使っていなかった時点で、私の慢心が見えている。

……好奇心は猫も殺す、ってこういうのを言うのかねぇ。

興味が先行しすぎた結果、今回やるべき事をやらずに触腕によって潰され早々に戦線離脱をしてしまった。

音桜が言うように、タンク役のプレイヤーが居ればそうならなかった可能性もあるし、人が多ければ多いほどに紫煙外装の種類が増えるのだ。

一撃だけダメージを無効に出来る類の能力を持った紫煙外装を持っているプレイヤーも、集められた可能性だってある。


「はぁ……まぁ取り敢えず。お姉様はやる事があるでしょう?」

「……そうだねぇ。流石にやられたまんまじゃいられないし」

「じゃあそれをする為の準備をしましょう。見たところ……浮上するのは明日でしょうから」


音桜が海を見るのに釣られ、私も視線を海へと……水没都市があるであろう方向へと向ける。

まだ見えてはいない。しかしながら、確実に浮上してきているソレを食い止める事は出来ない。

と言うより、その手の拘束が得意なプレイヤー達が既に試しているらしいのだが……出来なかったとの事。


「もう皆にも見えてるんだよね?」

「そうですね。恐らく浮上を始めた結果でしょう。……怨念によって、と書かれていたので元はそれをステルス用の燃料として使っていたのでは?」

「成程ねぇ……実際、話を聞いて音桜ちゃんなら対処できる?」

「うーん……防げるとは思います。ただ、攻撃の方にリソースが割けるかは……相手の密度や重さに寄りますね」


彼女は元より『切裂者』をソロで、紫煙外装の等級強化前に打倒出来る程度には技量やスキルの噛み合わせが巧い。

そんな彼女が、話を聞いた限りでも出来ると言うのだから……恐らく実際に出来るのだろう。

ならば実際に戦う事になった時、防御を全面的に任せては良いはずだ。問題は、


「喋ってたんだよなぁ、あの触手野郎」

「……喋るボスっていましたっけ?」

「居るには居るよ。ただ、あそこまで流暢にってなると……それこそ、1回目の紫煙奇譚以来かも」

「あぁ、『人斬者』ですか」


記憶に新しい喋るボス、と言ったら『酒呑者』だろう。

しかしながら、しっかりと流暢に喋るとなるとかなり遡り……私とは中々に縁深い『人斬者』だけとなる。

……こういう、知能AIが高い相手ってのも紫煙奇譚の特徴の1つなのかな。厄介だけど。

ストーリーをあまり追っていない所為で、どうしてそうなっているのかを知らないのが痛い所だ。

今度時間がある時にでも、最低限私が今居る位置到達した段階までの背景ストーリーでも追う事にでもしよう。

今まではあまり興味がなかった為に追ってきていなかったが……流石に興味が出てきてしまった。


「じゃあ次は本気で……多分、浮上してきた都市をどうにかまた沈没させろって事だよね?」

「そうなるでしょう。それに付属する形で、お姉様を倒した触腕持ちの何かが出てくるでしょうけど」

「あは、じゃあリベンジ出来るってわけだ……オーケィ。じゃあやるべきことは決まったねぇ」


言って、私は今回やるべき準備を整えようと正座を崩す。

私が出せる全力をもってして、あの都市に対してリベンジを果たす。それだけの為に、今から私は準備を行うのだ。


「ルプス、マイスペースに戻って他の2人に伝えておいて」

「畏まりました。私の武装はどうしますか?」

「こっちで用意する。代わりに消耗品類は切らさないように」


ルプスが頷くと共に、その場から消えるように動きだす。

こういう時、自律行動できる従者が居るというのは中々に便利だ。

……さて、今回使う昇華や具現を考えないとな。


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