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Episode11 - E10


「敵影5!スリーエスとキヨマサはもう対処出来んぞ!」

「人形を回してる!1体に付き3体が限界だ!」

「わ、藁人形が足りないわよこんなの……!」

「いやぁ、皆頑張ってるなぁ」

「「「前に行け馬鹿!」」」

「そんな言わなくても良いんじゃない!?」


祭壇へと向かう道中。

分かり切ってはいたものの、私達の行く手を阻むようにして敵性モブが大量に出現し始めた。

最初は数体の魚人のみが。

進んでいくと、巨大化した魚人が。

更に奥へと行けば、何やら巨大な鼠やそれらを統率する魔女のような姿をした敵性モブまでもが現れ始めたのだから……それらの処理に私達はリソースを大量に割かれていく。

……まぁ、余裕はあるんだけども。

と言っても、だ。

生物型である以上、私の紫煙外装による『酩酊』付与からは逃れられず。

私とスキルを共有しているルプスによって、普段の2倍の速度で発生する酒気を扱う事で範囲殲滅は行う事が出来る。


周りは中々忙しくしているものの、私自身はそこまで危機感を覚えてはいなかった。

今も私へと向かって複数体の敵性モブが迫ってきているものの、軽く酒気によって形成した手斧や刀を投げつける事で光の粒子へと変えていく。

一体一体が脆く、私のスキル構成も相まってほぼ消費無しで倒せてしまうのもその一端にはなっているのだろうが、


「まぁでも、これ以上皆のリソースが削られるのはちょっと問題かな」


言って、私は周囲に満ちた酒気と紫煙を操り始める。

やる事は単純、数には数を。私が得意とする方法での範囲殲滅をぶつけてやるだけの事。

背中から酒気の腕を複数本生やし、それと共に手斧状の酒気や紫煙を大量に作り出す。

今までならばこれを延々と投げつけるだけでも良かったが、今回からは少し違う。


「ルプス」


短く言うと共に、近くに居たルプスの背中からも複数の酒気の腕が生え、その全てに紫煙の刀が握られる。

結局の所、私が編み出した複数の腕による投擲連打は中、遠距離専用の攻撃スタイル。

どうしても至近距離で使うには取り回しが難しく、だからと言って、至近距離用に別の得物を持ってしまえば投擲出来る絶対数が減ってしまう。

だが、『紫煙人形』であるルプスが居る今は違う。

紫煙外装を持ち、投擲に特化した行動を行いやすい私は今までと同じように。

元よりAIという、人間にはない思考速度をもって戦えるルプスは至近距離での刀を使った戦闘と、私の護衛を。

役割を分ける事で、出来る限りの弱点を薄く見えないようにした形。

これが今私達に出来る最善の戦闘スタイルだった。


「ご主人様、オーダーは?」

「そりゃあ……蹂躙で。スリーエスくんとキヨマサくんに良い所見せてあげな」

「畏まりました」


地面を蹴り、私は空へと、ルプスは身体に群青の紫煙を纏いながらも敵性モブが大量に居る方向へと突っ込んで行く。

彼女が自らの手に持つ刀は、昼間も持っていたメウラの打った数打ちの刀。

性能は良いとは言えないものの、使い捨てにするならば十二分に使えるであろう代物だ。

……スキルの共有は知ってるけど、煙質は……多分燃料から引き出してる形かな。

だが、彼女は技量とスキルによって武器の性能など関係ないものとして動いていく。

群青の狼のようになった全身で巨大な魚人へと接敵したかと思いきや、一瞬で首元へと2回刀を振るう事で頭を斬り飛ばす。

一瞬呆けた敵性モブ達の隙を見逃さず、手足を斬り動けなくした所で背中の腕を操り首を刎ね続ける。


「おいおい嬢ちゃんのメイドえっぐい動きしとるんやけど!?」

「肯定。獲物が消える……!」

「あは、頑張ってルプスから獲物奪いなねー」


私から課された命令に忠実に従う従者は、今も解き放たれた狼の様に、皮膚を食い尽くす病気の様に石造りの都市に蔓延る敵性モブ達を屠っていく。

その姿を空中から見つつも、私も全ての腕で手斧を構え、


「私も頑張るか」


軽くではあるが、こちらへと視線を向けている敵性モブへと向けて投げつけた。

瞬間、空気の破裂するような音が連続したものの……その全てが魚人達の頭部へと命中し、その身を弾けさせる。

巨大な魚人や、魔女のような見た目の敵性モブは1撃では倒せないものの……問題はない。

私の投げる手斧に残弾という概念は実質ないのだから。

……うーん、倒すの自体は出来るし、そんなに脅威になる奴も居ない。問題は……数くらい?

私とルプスが本格的に戦闘を開始すると同時、他の面々が休み始めたのを確認しつつも祭壇がある方向へと視線を向ける。

メウラが言っていたように、確かにそちらの方向には濃い怨念が空気中に立ち昇っているのが見えている。

敵性モブが私達をあそこへと近付けないようにしているのであれば、進む度に数が増えていくのにも納得は出来る。

しかしながら、弱いのだ。

弱すぎるといっても良い。


確かにイベントでの敵を強くし過ぎるのは問題があるだろう。

しかしながら、今私達が居るこの場は怨念具という、特殊な武具を扱えるプレイヤーとその周囲のプレイヤーしか入れないと思われる特殊な都市。

そんな場所に出てくる敵性モブが、本気で投げてもいない手斧で倒されているのに違和感を覚えてしまう。


「こりゃまだ何かあるかなぁ」


足取りは遅いものの、前へ……祭壇へと私達は足を進めていく。

その先に何が待っているかは、未だ分からないまま。


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