結論から言えば、スリーエス側は失敗した。
と言うのも、彼が伽藍ドゥ達と合流し私達のパーティから抜けた時点で街が見えなくなってしまったのだ。
その状態で伽藍ドゥをスリーエスのパーティに加入させても仕方ない、という事で私がキヨマサをパーティに加入させてみると、
『目視。突入可能』
「あー……やっぱりそういう感じかぁ」
スリーエスの代わりに街が見えるようになった。
次いで、患猫がこの場でパーティから離脱してみる。
すると……特には変化は生じず、街も見えたままである事が分かってしまった。
つまるところ、
「理由っていうか、まぁ私と患猫ちゃんの共通点って1つしかないよねぇ」
「そ、そうね。他の連中と私達の違い。……怨念具を扱えるかどうかよ」
『想真刀』や、白い釘。
怨念が具現化し、出来上がった武具を扱う事が出来るか否か。
それによってこの街に侵入する事が出来るかが決められている、と考えた方がこの場では一番理解がしやすい。
私と患猫の共通項など、パッと分かる程度のモノはそれくらいか性別程度しかなく……流石に性別で判別はしないだろうという判断だ。
……こーれ、忙しくなっちゃうな。
パーティに1人扱える者が居ればいいのか、それともパーティリーダーがそうである必要があるのかは別途調べる必要があるものの……このイベント中、私や患猫が駆り出されるのはほぼ確定となっただろう。
流石に条件的にもイベント的にも、何処かのタイミングで一般公開的に条件は撤廃されるだろうが……それでも、そこに行きつくまでは私達は案内役として他プレイヤー達を案内する必要がある。
「バランス感覚、ってのも難しいもんだねぇ」
「し、仕方ないわ。こういうのは力を持ってる側が苦労するものよ」
「あは、苦労する力はあんまり持ちたくないんだけどな」
別に義務ではない。
義務ではないものの……やらなかった場合、噴出した不満は私達や運営に向く事になるだろう。
それはいただけない。そもそもとして、条件が付けられているのには理由があるはずなのだから。
それに、周りに知られたくないのであれば、スリーエスのようなストリーマーを連れてこなければよかっただけの事だ。
彼が悪いというわけでも、私達が悪いというわけでもない。ただ巡り合わせというのが悪かっただけの事。
……ま、良いか。考えても仕方ない部分だし……何だかんだ言って『Sneers Wolf』に知られたのは僥倖だったかな。
まだ運が良かったと思うべきなのは、彼らが他プレイヤーの誘致を手伝ってくれるであろうことだ。
私は協力者という立ち位置ではあるものの、患猫に至って言えば忘れがちだがスリーエス達と同じように所属者ではあるのだから。
彼女以外にも怨念系の装備を持っているプレイヤーは居るだろうし、流石にここに居る2人だけに負担が掛かりすぎるなんて状況には……なり得ない、はずだ。多分。
「ふぃーただいまァ」
「スリーエスくんおかえり。伽藍ドゥくんとキヨマサくんは急に呼び出してごめんね?」
「いや、問題ない。俺を呼ぶという事は探索系や情報収集が必要なんだろう?」
「無問題。俺は戦闘組か」
2人を加えた事で出来る事の範囲がかなり広がっていく。
伽藍ドゥは過去、外界でのボス討伐の際に見せた広範囲ステルス等、出来る事が多岐に渡る。
彼が居るか居ないかで未開の地の探索効率はかなり変わるだろう。
そしてキヨマサ。
近接系にはなるものの、火力、そして機動力を高める事が出来るスキルを持っている為にこの場に少なかったタンク役や、スリーエスと共に前線で戦ってもらう事が出来る。
「そろそろメウラくんとルプスが戻ってくるだろうし……ほら、噂をすれば」
「お、なんか結構増えてるな?怪しい所は見つけてきたぞ」
「ご主人様、酒気が足りなくなってきました。補充をお願いします」
「遠慮がないねぇルプスは」
2人から探索の結果を聞いていけば。
この街の大きさは凡そエデンと同じ程度であり……ステータス強化などを施せば1周するくらいならば容易いとの事。
しかしながら、中心部には少しばかり様子のおかしいものがあったらしい。
「ありゃ多分、何かしらの封印とかじゃないか?ありがちな祭壇みたいな見た目してたぞ」
「私は直接目で見てはいないのですが……メウラ様に誘導してもらっていた酒気の狼が吸収されてしまいましたね。……酒気だから供物となってしまったんでしょうか。純度的には高いですし」
「怨念はどうだった?」
「勿論纏わりついてたぞ。ありゃ患猫案件だな」
怨念が纏わりついている祭壇のようなもの。
普通ならばこれだけでも厄ネタと言えるというのに、場所の所為で更に厄介度が増しているのは何の冗談だろうか。
しかしながら行くしかないのは確かだろう。
聞けば、他にはそれらしい探索ポイントは無く、トラップ系列は人形で調べた範囲では見当たらなかったとの事。
残る問題と言えば、敵性モブがポップするのかどうか、という話にはなるのだが、
「戦力的には過剰っちゃ過剰ではあるよね」
「わ、私とか居るかしら?出番ないんじゃなくて?」
「あは、逃がさないよ。私だってあるかどうか分からないんだから」
生半可な敵性モブが出てきた所で、この場に居る面々に蹂躙されるだけだろう。
ある程度安心しつつ、私達はメウラの案内で祭壇があるという方向へと移動を開始する事にした。
患猫の作成した呪地に関しては残しておき、何かがあった時用に逃げ込む為の避難所として使う予定だ。