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Episode9 - E8


「で、何か手伝う事ある?暇なんだよね」

「……け、警護は?」

「あは、普段からソロで行動してるスリーエスくんが居るのに、今更私も居ると思う?」

「ひ、人手は居るとは思うけれど……まぁ良いわ。私も私で索敵は常にしているし」


警護と言っても、やる事は陣地となる場所の周囲を見回るだけであり……ぶっちゃけ暇だ。

そも、索敵を昇華や自身の視界に依存している私がそこら辺を歩いていた所で何かを見つける事は出来ないだろう。

それに、


「私、普段は任せっきりだから陣地作成系のスキルって何してるか知らないんだよねぇ」

「な、成程。……でも、多分他のと呪地の作り方は違うと思うわよ?」


言って、患猫は虚空から様々なアイテムを出現させる。

……うわ、骨とか臓器とか……普通にグロ注意じゃん。

私が見たことのある素材もあれば、見たことのない素材もある。

だが、その全てに怨念が纏わりついているのを見て……少しばかり眉を顰めた。


「うわ、全部怨念系じゃん。人工?」

「じ、人工よ。怨念に晒し続ける事で定着させた生物由来の素材ね」


患猫は私にそれぞれの素材の詳細を説明しつつ、それらを等間隔で自身を中心に円状に配置していく。

まるでちょっとした黒魔術のような様相だ。

……うわ、濃くなった。

配置し終わると同時、素材に纏わり付いている怨念全てが『想真刀』などの怨念が具現化した装備の様な濃い怨念を周囲に放ち始める。

だが、私の持つ『怨斬の耳飾り』や、患猫の各種装備には反応せずに地面へと吸われるような形で消えていく。


「こ、これで準備自体は終わり。今回はちょっと広めの呪地を作るから素材は多めだけれど……これが部屋1つ分だったら、これの半分以下で作れるわ」

「へぇ……他の陣地作成系も似た様な感じなのかなぁ」

「お、恐らくね。聖域なんかはほぼ同じじゃないかしら。あっちはあっちで、聖別されたアイテムなんかを使いそうだけれど」


患猫はそのまま、自身の紫煙外装である巨大な釘を怨念で出来た円の中心へと突き立て、


「か、【簡易呪地作成】開始。【解放】」


自身の身体からも怨念を大量に放出させる。

それと共に、周囲の雰囲気が変化し始めた。

地面は少し紫掛かった色へ。範囲内の建物の壁からは、少しずつではあるが人の目のようなものや、腕、足などが生え冒涜的な景色へと変化して……最終的に空気に薄く怨念が混ざり始めたところで患猫が釘を引き抜いた。

どうやら陣地の作成が終わった様だ。


「……これ、怨念に耐性無かったらヤバいね?」

「や、ヤバいわよ?事実、怨念に最低限の耐性がないと、パーティメンバーであっても影響が出るし。……まぁ、そういうことになるのは【世界屈折空間】の上層がクリア出来てないプレイヤーに限るけれど」


先程とは違い、耳飾りが怨念を吸収するのを確認しつつ。

私は出来上がった呪地を見渡してみる。

【心眼】や【観察】によって、細かい所まで情報を拾えるものの……基本的には見た目に反して安全圏である、という事だけしか分からない。

……遺跡で使わなかったのはこれの所為もあるのか。

以前、共にパーティを組んで潜った遺跡には怨念によって強化されてしまうスケルトンしか居なかった。

その為、この呪地という陣地とは最悪の相性だったのだろう。

少しでも外に怨念が漏れてしまえば、それによってスケルトンが強化されてしまう。

音桜の扱う聖域との相性もあったのだろうが……これならば使わない方がマシという判断を私でもするはずだ。


「ご主人様」

「ん、どしたのルプス。何かあった?」

「いえ、伽藍ドゥ様とキヨマサ様がこの都市近くまで到着したそうなのですが……」

「中々早いね。近くにチェックポイントでも確保してたかな。……で、もしかして?」

「はい、想像されてる通り、この都市や私達の姿を目視出来ない・・・・・・との事です」


ルプスのその言葉に、私と患猫は揃って溜息を吐く。

……やっぱりかぁ。

予想はしていたのだ。

この場が見つかっていない理由。誰も話題に出していない理由。

条件があるという可能性には辿り着いていたが、本当にそうであると2人のおかげで確認出来た。


「もしもし?伽藍ドゥくん?」

『すまない。そっちにいるスリーエスか誰かから聞いたか?』

「うん。伽藍ドゥくんのスキルでも見えない?」

『見えないな。……紫煙起動も切ったが、それでも見えん。何かしらの条件付きは確定だろう。座標はここで間違ってないんだろう?』

「うん。スリーエスくん経由で送った通りだね。……んー、ちょっと試してみようか」


言って、スリーエスへと連絡を取る。

この場で取れる選択肢は2つ。

1つは、既に中に居る人間が迎えに行く事。

そしてもう1つは、


「私がキヨマサくんをパーティに入れてみるから、外からどうなるか確認してもらって良いかな?」

「えぇで。じゃあワシは伽藍ドゥの方か?」

「うん、一旦外に出てもらって確かめる形になるけど……いける?」

「楽勝……って言いたいが……まぁやってみるわ」


スリーエスに頼むのには理由が勿論ある。

単独での行動が得意というのは大前提として……彼の行う身体強化が、この場に居る誰よりも強力なものだからだ。

無論、私達も出来る限りの支援を行う。

私は空中に紫煙と酒気による足場を複数作り出し。

患猫は怨念由来ではあるものの、スリーエスへとステータス強化系のバフを付与する事で、更にこの場から離脱しやすくして、


「ほな、いってくらぁ」


瞬間、地面が割れると共に凄まじい衝撃が周囲へと走る。

上へと視線を向ければ、既に私の作り出した足場を砕きつつも更に上へ……海の中へと跳んでいく姿が辛うじて見えた。


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