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Episode8 - E7


昼間に見つけたセーフティエリアを通り過ぎ、更に深く。

周囲には人工物が少なくなり、そもそもとして物自体が少なくなり始めた時、それは見えてきた。


『ん……なんだろあれ』

『なんだろってそりゃあ……街じゃねぇか?水没した』


私の呟きに、メウラが見たままの感想を返す。

私達の眼下には、大きく、そして水没した石造りの都市が広がっていた。

リアルの地球のように、地殻変動などで海の下等に沈んでしまった山などがあるのは知っているものの……立派な、それこそ地上に在ったとしても違和感の無い都市が沈んでいるのだ。

……苔とか……水生生物が棲家にしてる様子がない。

だが、そんな都市なのにも関わらず。

魚などの生物が1匹も目視出来ないのは異様だった。

無論、まだ都市へと降り立っていない私達の周囲にはちらほらと泳いでいるのは見えているものの、都市周辺には影すらも見えない。

まるで、その都市に近付くのを恐れているかのように。


『行ってみる?かなーり不気味だけど』

『えぇんちゃう?患猫はどうよ?』

『お、怨念の類は視えないわ。降りるだけなら安全じゃないかしら』

『じゃあ行ってみるか』


そんな都市に警戒しつつも近付いていくと。

まるで外界の篝火内に入る時のように、一瞬何かを通過した感覚と共に落下した。

浮遊感と共に、全員が石造りの地面へと叩き付けられた瞬間、


--水没都市ルルイエ=オールドワン


という名称が視界の隅に出現し、一気に警戒度が引き上げられる。


「……ん、ここ水中じゃないね。ルプス」

「周囲に動く影はありません。酒気での索敵をしますか?」

「お願い。患猫ちゃん」

「こ、こっちももうやってるわ。半径50メートル以内には生きてるのは居ないみたいよ」


ルプスが自身と私から立ち昇る酒気を狼状に固め、四方へと走らせると同時。

患猫の身体から怨念が薄く込められた波動が放たれる。

一応は安全圏ではあるらしく……だからといって、この石造りの都市が安全という証拠には成り得ない。


「スリーエスくんは今の装備でどこまで対処出来る?」

「屈折の上層ボスまでなら余裕やで」

「オッケィ。メウラくんは?」

「魚人程度なら人形1体で問題無い。あれより強いってなると……この前の鼠都くらいまでなら抑える事は出来るぞ」

「良いねぇ……後で私の持ってる素材を渡すから、それも使って」


一応、この場にいる面々で通常のボス程度までならば相手に出来るのが分かったものの……不安は尽きない。

かの架空神話には、今この瞬間にも襲い掛かってきてもおかしくはない化け物達が登場するのだ。

海中の都市だからと言って、出てくるのが魚人や魚顔の人間達とは限らない。


「セーフティエリアの設定は……出来るのか」


近くの家らしき建物を調べてみると、中は昼間発見したセーフティエリアと同じ様相となっており、ここから再出発が行えるようだ。

ありがたいと言えばありがたいのだが……正直、こんな街から再出発したいかと言われると否を唱えたい。


「で、どうする?探索しても良いけど……」

「ひ、人手は……そうね、賄えるのよね……」

「こん時ばかりは自分の紫煙外装が便利なのを恨むぜ。……まぁ正直、進むのもアリ、戻って他の知り合い集めてもう一回来るのもアリだとは思うが」

「確かに伽藍ドゥやらリーダーが居た方が安心ではあるわなぁ……」


それぞれがルルイエという名前、場所の性質を少なからず知っているが為に、ここから先を探索して良いものか迷っている。

……探索はしてみたいっちゃしてみたいんだよ。そりゃあ水没都市なんてリアルじゃ絶対探索出来ないし。

相応に好奇心が刺激される場所ではあるのだ。

しかしながら、それを上回る程に何が出てきてもおかしくないこの都市をこのメンツで探索するのは怖い。

人手に関しては賄えるとは言え、メウラが何かしらによって行動不能、もしくはデスペナルティになった場合、崩壊してしまうのだから慎重にもなってしまう。


「……んー、進もう」

「その心は?」

「単純に1つは好奇心。もう1つは、流石に何の情報も無しで他のプレイヤーをここに呼ぶのは……ちょっとリスキーじゃない?」

「な、何があるか分からないものね……触らぬ神になんとやら、って可能性は無いわけではないし」


掲示板を覗いてみるものの、このルルイエ=オールドワンという都市の名前は出てこない。

いつもの情報規制ならば、この場に辿り着いた時点でそれに関する情報やスレッドが開放されてもおかしくはないはずなのに、だ。

つまるところ、まだ誰もこの都市を見つけていない、もしくは……この場所に辿り着くのに条件がある可能性もある。

……そこらも調べないとだなぁ。

もしも辿り着くのに条件がある場合、何故私達が辿り着けたのか、という疑問もあるが……それ自体は一旦置いておいて。


「スリーエスくん、伽藍ドゥくんに連絡取れる?」

「今から来てもらうんか?案内は?」

「無しで。出来ればキヨマサくんも呼べたら良いねぇ」


伽藍ドゥは目を紫煙外装に置換しているプレイヤーであり、私以上に目を使った探索や情報収集に長けている。

そしてキヨマサに関しては……STを使わないが故の、別のアプローチからこの場がどう見えるのかを探ってもらいたいが故にだ。


「2人を待ってる間、出来る限りの探索をするけど……ルプス、どう?」

「……酒気の狼は未だに健在ですね。固体化もしているので、敵性モブが居たら攻撃されてもおかしくはないのですが」

「ってなると……プレイヤーが近付かないとポップしない系かな?メウラくんの人形に反応するかどうかで変わってくるねぇ」

「1体、マノレコ型で探索させてみっか。陣地作成系持ちは俺以外に居るか?」

「わ、私が出来るわ」


陣地の作成は重要だ。

普段は音桜、メウラの2人が行っている聖域、工房作成も、それぞれの能力にボーナスが入ったり、そもそも敵性モブが近付けなくなったりと有用だからこそ行っている事。

今回は患猫の使う、【簡易呪地作成】によって怨念系にボーナス、並びに耐性が付く陣地を作成するものの……本来ならば聖域の方が相性は良いだろう。


「よし、じゃあ私とスリーエスくんでこの場の警護。ルプス、メウラくんが何かあるか、敵性モブが本当に出てこないかの探索。患猫ちゃんが陣地作成、出来たら探索班に合流で」

「「「「了解」」」」


こうして、水没都市の探索が開始された。

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