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Episode6 - E5


「お、大盤振る舞いよぉ!」

『ギッ!?……ギ?』


大量の、怨念を纏った白く小さい釘達が魚人に向かって射出される。

速度はそこまでではない。直撃した時の威力もそこまでではないだろう。

しかしながら、患猫の扱う釘は攻撃用ではない。

……敵として相手はしたくないよ、アレは。

魚人は大きく飛び退いたものの、追尾能力が付与されている為に避け切れず身体に命中する。

1つ1つの釘が身体に刺さっていくものの……HP的には全て命中しても1割も削れていない。


『ギッギッギ……』

「ふ、ふふふ……【解放リリース】」

『ッ!?』


患猫の声が海岸に響くと同時。

魚人の身体に刺さっている釘が発芽・・する。

釘という形状から、怨念を纏いながらも相手の血肉を糧に白い蔦を発生させながら成長し……最終的には蔦で出来た十字架を海岸に出現させた。

……怨念装備、やっぱ強いよなぁ……。

彼女の使っている装備がどのような過程を経てあのような能力を持っているのかは分からない。

だが、アレが彼女の本気ではない事くらいは見れば分かる。

なんせ紫煙外装を一度も使っていないのだから。


「患猫ちゃんは紫煙外装使わないの?」

「つ、使わない事もないわよ?でも……消費が激しすぎるのよ」

「あぁー……そういうタイプか」


彼女の紫煙外装は、今使っていた白い釘と全く同じ形状の黒い釘。

但し大きさ自体は紫煙外装の方が大きく、釘ではあるもののテントを張る時に用いるペグのように見えてしまう。

どのような能力を持っているかは私はまだ知らないが、等級は確実に弐はある事を考えると……怨念に纏わる能力を獲得していてもおかしくはないだろう。


「STの確保くらいだったら物資出せるよ?マイスペースで今も作って貰ってるし」

「あ、あらそう?なら……1回くらいは使おうかしら」


言いながら、彼女は少し離れた位置に居る魚人へと向かって黒い釘の先を向ける。

まるで槍の様に持ちつつも、アレは貫く為の道具ではない。その場に刺し留める為の道具だ。

……お、紫煙駆動……か?アレ。

次第に釘からは大量の紫煙と共に、濃い怨念までもが漏れ出し始める。

私の紫煙駆動には見られない挙動ではあるものの、強化時に得た能力に関係する何かではあるだろう。

もしかしたら紫電の発生のように、怨念の発生などが出来るのかもしれない。


「と、留まりなさい……」

「おぉすっげ」


次第に紫煙と怨念は混ざり合い、魚人の手足を拘束し空中へと持ち上げていく。

不定形だったそれらは次第に形が整い始め……何処か、藁人形のような形へと成形されていた。

だがそれで終わりではない。

紫煙と怨念の藁人形と化した魚人から、周辺に居た他の魚人達へと向かって細い糸状の怨念が放たれたのだ。

凡そ10体程度だろうか。

それらの身体の中心部……心臓がある位置へと怨念の糸が繋がると同時、患猫は自身の手に持っていた紫煙外装を藁人形へと投げつけた。


そこまで速度は速くない。しかしながら先程の白い釘と同じように追尾能力でも付いているのか、多少狙いが外れていたものの修正され……藁人形の心臓へと突き刺さる。


「【解放】」


瞬間、藁人形及び周囲の魚人達が突如虚空から出現した大量の紫煙の釘によって全身を貫かれていく。

だがそれで終わりではなかった。

次いで、怨念で出来た釘が同じ様に出現し相手をその場に刺し留めるかのように突き刺さったのだ。


「……えっぐぅ……モチーフは丑の刻参りとかそっち?」

「お、恐らくね。選んだ時のアイコンはそれらしいものだったわ」

「私そういうの出てこなかったけどなぁ……装備の影響かな」

「そ、そうねぇ……私はもうその時には全身に怨念具を装備していたもの」


そうして話している間にも、魚人達の苦しむ声が聞こえてくる。

今もHPバーが減り続けているのだ。だが、それと共に、釘が刺さっている魚人達からは大量の怨念が立ち昇り……その全てが患猫へと集まっていくのが見えていた。

恐らく、彼女の紫煙駆動はダメージを与えるのを重きにおいてはいないのだろう。

代わりに回収や維持の難しい怨念の獲得、発生をさせる事が出来るように……そしてその元になっている相手は搾り取られている間、怨念の効果に晒され続ける。

……味方でよかった、っていう類だなぁ。本当に。

正直私はダメージを喰らうよりも、彼女の紫煙駆動を喰らう方が嫌だ。

怨念への耐性があるとはいえ、釘が全身に刺さった状態で動くというのは中々に難しいだろうし……ダメージがないわけでは無いのだから。


「そ、そういえば次の調伏はいつにするの?」

「あー、一応このイベントが終わったらかなぁ。最近は結構色々立て込んでたからねぇ」

「な、成程ね。じゃあ次は私が貴女の止め役をやろうかしら」

「……マジぃ?」

「ま、マジよ」


思っていた事がバレたのか、どうやら私は暫くしたら魚人達と同じ運命を辿る事になりそうだった。


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