目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode4 - E3


戦闘は静かに、しかしながら激しい始まりとなった。

セーフティエリアから最初に出た私が杯を上へと放ると同時、酒気の棒を魚人へと向かって全力で投げつけたのだ。

【狼煙】も乗ったそれは、普段よりも若干息苦しそうにしつつも魚人へと真っ直ぐ向かっていき、


『ギョッ!?』

「ヒーット」


魚人が持つ銛へと命中し、噛み砕く。

それと共に棒も砕けたものの、問題はない。幾らでも作り直せる物だ。

だが、魚人の方はそうではない。

投擲の衝撃によって身体を二転三転させつつも、私を睨み凄まじい勢いで泳ぎ向かってくる……のだが。


『させません』

「行かせませんよ」


音桜が障壁を発生させ、魚人の進行ルートを誘導すると共に、ルプスがその先で刀を納刀状態で構え、


『ギギョッ!!』


一閃。

タイミングは良かったものの、咄嗟に身を捩られたのか刃の入りは浅い。

しかしながら、数打ちの刀でも魚人に対し傷を付けることが出来るのが分かった。

そのままルプスが魚人との近接戦闘に入るのを確認しつつ、私と音桜は次の行動に入る。

それは、


『音桜ちゃん、複製出来た?』

『十分に。これだけあればお姉様も使えるかと』

「オッケー!」


音桜から手渡された複数の、液体の入った瓶を砕き中身を水中へと放出させると共に、私はそれを操り始める。

今回、音桜が紫煙外装の能力によって複製したアイテムは……私が【酒気帯びる回廊】にて、大量に買ったは良いものの、使い道が無く死蔵されていた電気ブラン。

液体でありながら、勿論アルコールが含まれている酒であり……この場においてはバフアイテムではなく、立派な武器となる琥珀色の酒精だ。


それらを手斧の形にしつつ、私の周囲に漂わせ……【擬似腕】も使いルプスの刀を捌いている魚人へと向かって連続で投擲し始める。

ルプスには事前にどういう流れで戦いを進めていくかを説明していた為に、それらが殺到する直前でその場から離脱出来たものの。

魚人は一歩間に合わず、全身に酒精の手斧を被弾し、身を削られていくのが見えた。

……うん、やっぱり棒よりは勢いが下がるね。

初撃に手斧を選択しなかった理由は複数あるものの、1番の理由は予想よりもダメージが下がる可能性があったからだ。


この水中というフィールドで、何が1番怖いかと言われれば……それは、相手に自由に動かれる事だろう。

だからこそ、最初に相手の武器を破壊する必要があったのだが……手斧の場合、複数のスキルが乗る代わりに勢いが普段以上に落ち、銛の破壊まで辿り着けない可能性があった。

だからこそ、乗るスキルの数は減るものの……最低限【投擲】が乗り、勢いも落ちにくいであろう点での投擲が行える棒の形を選んだのだ。


『ギッ?!ギギギ……!!』

「おっと……ルプス!」

「分かってます!」


と、ある程度ダメージを与え、HPバー自体もほぼミリしか残っていない状態になった時。

魚人の身体から電撃が走り始めた為に、ルプスを緊急離脱させていく。

電気ブランを使った影響だろう。

傷口から体内に入り込んだそれらが作用し、摂取した時と同様の効果を発生させているのだ。

だが、ここは水中。ましてや海の中だ。

電気は伝わりにくいものの……近くであれば感電は免れない。

それに、このゲームがどれ程リアルなのかは分かってはいないが……もし電気分解なんてものまで実装されていたとしたら。

あの魚人の近くには有毒なガスが発生している可能性だってあるのだ。


「ルプス、酒気はどんな感じ?」

「貯めてはいます。放出しますか?」

「うん、お願い。こっから一気に終わらせちゃおう」


私とスキルを共有しているルプスは、当然ながら【酒気展開】も持っている。

彼女の身体の各所から周囲へと流れ出る液体状の酒気を、こちらの手元へと集めつつ、


『音桜ちゃんはぁー……っと、もうやってくれてるね』

『逃げられるのは嫌ですからね』

『助かるよ』


指示を出そうと観てみれば。

既に魚人の周囲には障壁が展開されており、魚人の膂力ではどうやってもこちらへと泳いではこれないようになっていた。

ならばと、私は集めた酒気、そして未だ周囲に残っている酒精を集め……1本の槍を作り出す。

一撃命中させれば相手は倒れるのだ。

過剰な火力よりも、確実に当てられるモノを選んだ方が良い。

残り少なくなった【葡萄胚】が燃え尽きていくのを横目で確認しつつ、私は水中ながら大きく、力強く構え、


「終わ、りッ!」


投げる。

回転しながら魚人へと進んでいくそれは、泡による軌跡を残しつつ。

障壁すらも破壊しながら魚人の身体を巻き込み、貫通していった。

流石に死に体だった身体にそれは耐えきれなかったのか、魚人の身体からは力が抜け、同時に光の粒子となって消えていくのが分かった。


【這い泳ぐ者を討伐しました】

【ドロップ:魚人の鱗×1】


ログが流れたのを確認し、脱力する。

3人いる状態で周囲を警戒するのは私の役目ではない。

……終わった、けど……名前が不穏になってきたなぁ。

紫煙駆動都市の名称に加え、この敵性モブの名前。

少しばかりこの先に待つモノがどんなモノなのか……不安が湧き上がってくるのを感じていた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?