--紫煙海上都市ルルイエ・外周部
「海だぁー!」
夏真っ盛り、というには暑過ぎる中。
私はいつものパーティメンバー達と共に、ゲーム内で海へと駆り出していた。
というのも、今回の大型イベント……【紫煙奇譚・弍 ~ルルイエからの手紙~】では、現在私達が居るルルイエという紫煙駆動都市が舞台になる為だ。
……名前は不穏だけど、普通に良いところだねぇここ。
以前の紫煙奇譚で訪れたマヨヒガとは違い、今回のルルイエは紫煙駆動都市であるものの、動きはしていない。
否、動いてはいるのだが、現在専用の港の様な場所に停泊している状態となっているのだ。
「気ィ付けろよー、その装備は有り合わせで作ったんだからな」
「分かってるって!」
そして、その都合上。
他の紫煙駆動都市とは違い、外界と地続きになってしまうのがルルイエという都市だった。
その為に、停泊中の期間は私達プレイヤーが外界から寄ってくる敵性モブを適宜撃退するなどの仕事が与えられている……のだが。
私達の周囲には、基本的に水着を着て遊んでいるプレイヤーしか見えない。
……いやまぁ、それだけ優秀って事だよねぇ。この都市の防衛システム。
そもそもとして、私達プレイヤーがこうしてゲーム内に現れる前から存在していたとされる紫煙駆動都市が、今更私達の力を必要とする程度に貧弱な装備なわけがないのだ。
寧ろ、私達が必要となったら……その時は本当に危険な状況、という事だろう。
「いやぁ、しっかし……良いねぇ海。ゲーム内だけど久々に来たよ」
「そうなのですか?てっきりお姉様は色々な所に出掛けていたものかと」
「あは、私が勤務してる日に毎回来てる君が知らないわけないじゃん。ここ最近は午前中だけだけどさ」
今回、私の水着は上だけビキニスタイルの、下は最初期にメウラに作ってもらったショートパンツを改良したモノを履き、有り合わせで作ったパーカー型の外套を羽織っている形だ。
最低限、それぞれの装備には『死水魔女』のセット効果を乗せており、これだけでも【世界屈折空間】の上層ボスならば余裕で相手出来るだろう。
色合いが普段と同じな為、それなりに目立ってしまうのが欠点といえば欠点だろうか。
それに対して、音桜は極力肌を出さない白色のワンピース型の水着を着けている。
こちらも私の知らない間に1人で倒してきたらしいメアリー=シンドロームの素材を使い、『隠矢小娘』のセット効果を乗せている為、見た目以上に戦闘能力は高い。
そして最後に、
「ルプス、そんなに周り警戒してても仕方ないよ。私達も居るし……何なら紫煙も大量にあるんだから」
「慣れないもので……つい」
今回から私達に同行している、『紫煙人形』に意識が入ったルプスだ。
彼女が着ているのは音桜に近い造形ではあるものの、所謂セパレート型の水着。
黒を基調としており、所々に従者だからなのかメイド服の意匠のようなものが付けられているのが特徴だろうか。
……うん、眼福眼福。良いね、男ばっかり見る事になる現実よりも視界が満足してるよ。
他にも、ゲーム内だからこそ美男美女の水着姿が周りには溢れており、そのどれもが片手に煙草を持っているのだから……中々に異様な光景だ。
「で、改めて。今回のイベントで私達がする事ってなんだっけ?音桜ちゃん」
「はい。今回の紫煙奇譚では、主に2種類ほどやる事があります」
音桜はまず1本の指を立て、
「まず1つ目に、今居る外周部にて異常が起きていないかの確認及び、外界から迫ってくる敵性モブとの戦闘ですね」
「……私達必要?それ」
「先程から見ていますが……とても必要そうには見えないかと」
「ふふ、まぁ何処かのタイミングで必要にはなるのでしょう。実際、このルルイエの防衛施設は凄いですし」
事実、ルルイエの防衛設備はかなり整っている。
今も中心部の方から放たれた、無数の紫煙の魚達がこちらへと近寄ってきていた外界の敵性モブ達を食い散らかし、光の粒子へと変えていくのが視界の隅に映っているのだから。
……魚なのは……まぁ、場所の名前的にって感じなんだろうなぁ。
様々な魚が空を飛んでいる姿は中々にシュールだが、これはこれで面白い。
「そして2つ目。主に私達がやる事になりそうなのはこっちですね」
「と、言うと?」
「このルルイエに招待されたプレイヤーにはある手紙が配られています。その手紙には『海中にある、失われた宝を探せ』と書かれていました。つまり――」
そう、今回の私達の目的は戦闘ではない。
否、戦闘は道中で行う事になるかもしれないが、それがメインになる事はない。
「――宝探し。それも、水中のです」
「いいじゃんいいじゃん。私やってみたかったんだよ、ダイビングとか!」
どうやって水中に潜り続けるのかは一旦置いておくとして。
流石に今回は
何せ宝探しが目的なのだ。好奇心旺盛でないとやってられないし見つけられない。
「……あの、私は兎も角としてご主人様は潜水系のスキルを持っていませんよね?」
「持ってないねぇ」
「どうするので?」
「あは、まぁやってみてダメだったらラーニングすれば良いだけだよ。何事も挑戦だし……何より。ここの運営が、そんなスキル必須にするような要素を大型イベントで用意するとは思えないしね」
工夫は必要かもしれないが、凡その目途自体はついている。
問題はそれが上手くいくかにはなってしまうが……まぁ、それに関してはやってみない事には分からないだろう。