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Episode15 - D7


--【四道化の地下室Hard】4層


あの後、一応3階層を隅々まで探索したものの……あの階層には私が始めに降りてきた部屋と、名無の道化師が居た場しか存在はしていなかった。

変なものが隠されていたり、無駄に広い探索パートが挟まったりするわけでもなく、ただただあの場は名無の道化師と戦う為に作られたものだったのだろう。


「……で、今度はどういう事なのこれは」


そうして、進んだ先。4階層。

そこには今までのようにダンジョン然とした通路は広がっていなかった。

代わりに広がっていたのは、


「何で街が広がってるんだ……?」


【墓荒らしの愛した都市】のような、外国の街並みが広がっていたのだ。

時間帯は夜であり、当然ながら人が歩いているような事はない。

代わりに敵性モブらしき姿も全く見えないが。

……街灯は……流石にそこまで【墓荒らし】みたいな事にはなってないか。

淡い光を放っている街灯の数々に対して視線を向けるものの、特にHPバーが表示される事もなく、ただの灯りである事が分かる。

だが、だからこそ不気味だった。静かすぎるのだ。

キッズスケルトンやキッズゴーストのような存在が新規で出てきた2階層までと比べると、私が発する音以外に何も聞こえてこないこの街は少しばかり異様が過ぎる。


「……進むか」


迷っていても仕方ないと、私は一歩前へと踏み出し探索を開始した。

出来れば、面倒な事がなければ良いと……そう考えながら。




「ふぅーむ……理解はした、かな」


探索する事暫し。

この4階層に関して凡その事は理解出来た、と言うよりも。

理解するしかなかったというべきだろう。

……この階層は、本当に何も無いハリボテの街。

敵性モブすらも存在していない、巨大なセーフティエリアとでもいうべきだろうか。

何も取れず、何とも相対せず。

だが、進むべき場所だけは明確に存在している。

それは、


「……サーカス」


移動式のサーカス。その巨大なテントだ。

今では物語の中で見ることのほうが多くなったそれは、今このハリボテの街へと訪れており……丁度今から公演をするらしい。

らしい、というのは確証もなければ、それを確かめる相手も居ないためだ。


「ま、『四重者』の事を考えれば……そこがボスエリアだよねぇ」


元よりこのダンジョンのボスは巨大なピエロ。

そんな相手がサーカステントの中に居ないわけがない。

そう考え……私は所持品などを確認してサーカスへと足を向ける。

……まるで観客みたいじゃんね。

先程名無の道化師と戦ったというのに、既に少しだけこの後が楽しみになっているのは……私は戦闘狂の気があるのだろうか?

否……これはどうせ、好奇心が元になっているだけだ。

この先に、どのような変化を遂げた『四重者』が居るのかと気になっているだけに過ぎないのだろう。

だからこそ、少しだけ不安に思う気持ちを心の深い所に仕舞いこみながら、私は進んでいく。


「ノーマルと同じなら……具現煙は上薬草の方が都合良いか。昇華は……今回は海賊で」


歩きながら、2種類の煙草に火を点け煙を吸う。

身体の変化を感じつつ、過剰供給を何時でも出来るよう周囲に紫煙を漂わせていると、それは在った。

巨大な、移動式のサーカステント。

今まで見かけなかった人らしき影が大量に群がっており、その近くでは団員らしき影がそれらを中へと案内しているのが見える。

だが、私にはそれ以外も観えていた。

……怨念、濃いなぁ。

外部からサーカステントに向かって流れ込む、非常に濃い怨念。

観れば、3階層に繋がる階段の方から流れてきているのが分かった。

恐らくは、キッズスケルトンやキッズゴーストの元となった存在が今も尚、このサーカスの座長へと怨念を送り続けているのだろう。


「ま、呼び方がキラークラウンの時点で元ネタが元ネタだしねぇ……よし」


怨念がある、というのは私にとっては有利に働く要素の1つだ。

『想真刀』を近接戦のメインで使う以上、切っても切れないものであるし……何より、私に対して怨念系の攻撃は効果が薄くなっている。

対策装備をしっかりと着けているのだ。当然だろう。


サーカスに並ぶ人影達を無視して、前へと進み。

その入り口の前へと立てば、私の前にはウィンドウが出現した。


【サーカスへと入場するには鍵が必要です】

【消費アイテム:名無の鍵】

【入場するとボス戦へと移行します】

【入場しますか?】


『酒呑者』の時のような、是非を問うそれを見て。

薄く笑いつつ、私は了承した。

視界が一変する。


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