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Episode13 - D5


「よし、準備完了。……ちょっと『酩酊』が余計に貯まったけど、許容範囲って事で」


右手には手斧を。

もう片手はフリーにしつつ、相手がどのような戦闘行動をとるかによって、すぐにでも『想真刀』を呼び出せるようにはしておく。

昇華煙は2階層からの続きでマノレコのモノを使い、過剰供給に関しては『想真刀』と同じように相手を見てから考える。

私の周囲には紫煙、そして酒気が霧のような濃さで漂っているものの、それらを何かに整形する事はしていない。

……目くらましにも使えるしね、コレ。

私の視界上では少しばかり輝いているように見えるものの、相手から見ればただの白い煙のようなもの。

強い風などですぐに吹き飛ばされてしまうが、そこに関しては操作系スキル2種のおかげで抗う事も出来る。

今までは武器や手数を増やす事ばかりに使ってきていたものの、本質的には相手の目くらまし等に使う方が主な筈なのだ。


「ま、使えるものをどんな形で使っても私の自由だしね……行こう」


外へと繋がる扉をゆっくりと開く。

そこには、薄暗いものの1本の通路が存在していた。

奥には何やら強烈な光を放つ出口のようなものが見えている。


「……」


私は無言でその通路全体に対し、紫煙と酒気による制圧射撃を放った。

罠が無いかの確認と、万が一【観察】や【心眼】で観えない敵性モブが居た場合に備えてだ。

……おっと、壊れてない。結構本気で射出させたんだけどな。

これまでの階層ならば、どこかしらに破壊の跡が残ってもおかしくはない威力で射出されたそれらは、通路に対し一切の傷をつける事が出来なかった。

ゲームシステム的に保護されていると考えるか、それとも何かしら別の理由があるのかもしれないが……罠などもそれらによって守られているとは思えない為に、流石に前へと進む事にした。

そうして進んでいった先、出口へと辿り着くと、


「まぁたサーカス……って訳じゃなさそう?」


そこは、『四重者』との戦闘で用いられたサーカス場によく似ているものの、何処か和のテイストを加えられた広場のような場所だった。

所々に置かれている能面等がサーカスの雰囲気とは合わず、絶妙に安いホラー物の作品を脳裏に過らせる。

だが警戒は怠らない。

既に私の周囲からは足音が聞こえてきている為だ。

……複数、って訳じゃないな。コレ1人の足音が別々の場所から同時に聞こえてるだけみたい。

やがて足音が止まり……周囲の照明が消え、一切の光がない暗闇が訪れる。


『――ンンッ!ようこそ、レディー!ボクのワンマンショーへと来て頂き誠に感謝するヨ!』


聞こえてきたのは、何処か若く感じる男のような声。

発している位置が特定されない為なのか、先程の足音と同じ様に複数個所から同時に流れるその音声は、楽しそうにまだ続く。


『これより始まるは、君の身体を開いて壊して愉しむ殺人遊戯!……ン?またそれかって?いやいや、やっぱり僕らピエロは最終的には此処に落ち着くのサ!でも安心して?』


紫煙、そして酒気を身の周りに集め、【疑似腕】も発動し。

私はいつ、どこに何が来ても良いように集中力を高めていく。

暗闇であるが故に、【過集中】が発動しているのかいまいち分からないものの……これで準備は完了だ。

そう思った瞬間だった。


『僕は、上に居たピエロとは違うからネ』

「ッ!?」


突如、私の耳元で聞こえてきた声に対し、思いっきり手斧を振るう事で反応する。

気配も、音も、匂いもなく触れられる距離にまで近寄られた。

その事実だけで、警戒度は一気に跳ね上がった。


『ではでは始めていこうじゃあないカ!』


照明が再び点灯する。

私から少し離れた正面の位置には、先程は居なかった1人のピエロが立っていた。

瞬間、私はピエロに対し手斧を手首のスナップだけで投擲する。

容赦する必要はない。敵性モブである証に、HPバーが表示されているのだ。

強化されているステータス、そしてスキルの兼ね合いから、軽い動作であるのにも関わらずそれなりの勢いをもって飛んでいく手斧は、次の瞬間にはピエロへと直撃していた。


『おぉっと!』


しかしながら、直撃したのにも関わらず。

ピエロは大げさに転がっただけでHPバーが一切削れてはいなかった。

……ギミック型か、遠距離耐性持ちか?

あくまでもコメディ調に立ち上がり、埃を落としているその姿を観つつ。

私は酒気を使い、背中から複数本の腕を生やす。


『危ない危ない。ショーはこれからだヨ?レディー』

「付き合う必要はないと思ってるんだよね、ごめんよ」

『おぉぅ、それは残念ダ。……ちょっとそこで待ってておくれ!君が楽しめるようなものを探してみるよ!』


地面を蹴り、次は近距離での戦闘をしてみようとピエロへと接近しようとしてみれば。

ピエロは突如、パントマイムのように手を動かし私との間に壁があるかのように表現し始める。

関係ないと駆け抜けていけば、


「ッ!」

『激突注意!壁があるのにわき見運転は危ないヨ、レディー』


透明な壁が、実際に私とピエロの間に出現していた。

……完全に相手のペースだな、コレ!

どのような仕組みか、どのような能力かは分かっていない。

だが、このままでは何も分からないままに倒されてしまう、そんな確信があった。


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