走り回った結果、2階層で出現するようになった敵性モブの種類は凡そ理解した。
1つ目は、三色道化。
道化三兄弟が合体し、お得になった道化師系モブ。
2つ目に、キッズスケルトン。
倒されると同時、大体30メートル範囲内の同種を近くにテレポートさせる困ったアンデッド系モブ。
そして最後に、
『キャキャキャ!?』
「はい、終わりぃーッ!」
私の
キッズゴーストだ。
キッズスケルトンと同じアンデッド系ではあるものの、実体がなく、実体のある攻撃が効かない困った特性持ちであり。
その特殊能力として、触れた相手に対し『驚愕』というデバフを付与するサポート型だ。
……『驚愕』は初見だけど、中々に厄介だなぁ。
攻撃能力は皆無に等しく、遭遇したらほぼ確実に狩る事が出来る程度には弱い。
実体がなければ何でも攻撃が通る分、私にとってはボーナスのような敵性モブだ。
しかしながら、付与してくる『驚愕』が厄介だった。
「あと2分はこの状態かぁー!」
効果は単純。
付与されている間、身体から発する音が全て大音量になってしまうというもの。
普段ならば気にせず、適当に済ます程度のデバフだが……この【四道化の地下室】では出来るだけ食らいたくはないデバフとなっている。
その理由として、
「集まってきたぁー!!」
『カカッ!』
『ギッギッギィ!』
音を聞きつけて、周りから他の敵性モブ達が集まってくる為だ。
それに加え、『驚愕』状態では【隠蔽工作】が発動出来ず……隠れてやり過ごす、なんて事は出来なくなってしまう。
普段ならば気にしないであろう衣擦れの音すらも、普段の大声以上の音量を伴ってしまう為に、延々戦い続けねばならないのだ。
……階段は見つけてるのになぁ!面倒臭い!
既に下の階層へと降りる階段自体は発見している。
だが、降りようとした所で先程のキッズゴーストに触れられてしまったのだ。
「【猿叫】とか取ってくれば良かったぁー!」
虚空からこちらの背後へと迫ってきた三色道化を、背中の腕と武具によって迎撃し。
正面から馬鹿正直に迫ってくるキッズスケルトンを手斧を投擲する事によって打ち砕く。
倒す事自体は問題無いのが面倒臭さに拍車を掛けているのも問題だ。
これで苦労していたならば、一度マイスペースへと戻り、色々と準備してから……なんて考えも浮かんだものの、なまじ集中力を割かなくても倒せてしまうのが悪い。
……無理矢理突っ込んだら……どうなるかなぁ。
ここまで来たら、全力で階段へと駆け抜けるのも手だが……その後どうなるのかが分からない為に行動出来ていないというのが今だ。
「……行くかぁ!」
小声で言ったつもりが、叫びの形になりながら。
インベントリ内から新たにマノレコの昇華煙を取り出し軽く吸う。
そうして発生した紫煙を両足へと集めつつ、一度周囲に集まってきた敵性モブ達の群れを酒気によって弾き飛ばした。
「全力全開、全力疾走!」
行って、征く。
人狼へと変じた両足が石床を力強く蹴り砕きながらも、少し離れた位置に見えている階段へと向かって凄まじい速度で私の身体を運んでいった。
当然、道中には三色道化やキッズスケルトン、キッズゴースト達が居るものの。
「邪魔!」
自身の両腕、【擬似腕】、背中の腕を全力で動かす事で進路上から排除して、前へと進む。
当然ダメージ自体も受けてしまう事があるものの、死ななきゃ安い。
死んだら元も子もないが、死ななければ幾らでも回復するチャンスはあるのだから、今は足を動かす事を優先した。
そうして辿り着いた階段の前。
背後からは主にキッズスケルトンが迫ってきているものの、
「ひゃっほぉーう!」
私は階段を飛び降りていった。
視界が黒く染まっていく中、少しの灯りが見え。
少しして、私の身体は床へと叩きつけられた。
--【四道化の地下室Hard】3層
「ぐぇ」
見れば、そこはセーフティエリアのような部屋ではあるものの……特にそのようなログは流れていない。
背後の階段からは何かが途中まで降りてきては引き返していくような音が聞こえていた。
……これは……多分そういう階層かな?
脳裏に浮かぶのは、【酒気帯びる回廊】の同じく3階層。
中ボスとの一騎討ちを強制的に行わされる階層であり、それ以外に探索する要素が一切ない場所。
「準備用のエリアがある分、こっちのが優しいな」
身体を起こしながら、私はHPを回復させる為に上薬草、そして紫煙草の具現煙を口へと咥え火を点ける。
無理をし過ぎたのか、【背水の陣】発動一歩手前まで減っていたHPが回復していくのを視界の隅で確認しつつ、私は杯形態の紫煙外装を取り出した。
現在【葡萄胚】は合計3個。探索中の戦闘でちょくちょく使っていた為に上限までは貯まっていない状態だ。
……どれくらいの強さかは分からないけど……出来る準備はしておくべきだよねぇ。
流石に中ボス、しかも上層に出てくる相手が『酒呑者』よりも強いとは思えないものの。
いざとなったら杯形態での紫煙駆動も視野に入れて戦った方が良い。
「えぇっと……ST自体は紫煙草のおかげで自動回復してるから……適当にお酒出すか」
杯に注ぐように、適当な酒を【酒精生成】により生成し口をつける。
煙草を吸い、酒を飲みと中々に居酒屋スタイルでの戦闘準備ではあるが……これが今の私のスタイルなのだから、一旦詳しく考えるのは止しておこう。