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Episode11 - D3


紫煙外装を杯形態で取り出すと共に、私は何本かの煙草を取り出し火を点け口に咥える。

流石に緊急事態だ。物資等を惜しんでいられる状況ではない。

……原因は……もうほぼ分かり切ってる。問題はこれを切り抜けた後かな。

罅が入ってしまった所に【酒精生成】によって作り出された赤ワインを流し込む事で、補強しつつ。

ドーム内に充満していく紫煙を操る事で、私の身体は大きく変化していく。


【注意!昇華煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】

【スキル【浄化】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】

【注意!具現煙の濃度が濃すぎる為、アバターに影響が残る可能性があります】

【スキル【鎮静】を使う事で影響を薄め、完全に消し去る事が可能です】


今回使ったのは、酒浸りの親衛者の昇華と、


「うぉ……凄いな。紫煙草ってこうなるのか」


ST回復薬の元となる草である、紫煙草だ。

元の特徴としては、白く、それでいて光合成時に酸素の代わりに紫煙を吐き出すという、環境に良いのか悪いのかよく分からない植物であり。

今回そんな植物を使ったが故か、身体の各所からは白い草木が生えると共に紫煙が噴き出すという、何とも異様な海賊姿の女になってしまっている。

だが、今回切り抜けるならば普段使っているマノレコや上薬草の組み合わせよりも相性が良いはずだ。

何故ならば、


「ST使いたい放題、紫煙、酒気も使いたい放題ッ!」


ドーム内に充満し始めた紫煙、酒気を大きく掻き回し……以前、『酒呑者』が私の武具の雨を防ぐのに使っていたように、高速で回転させ始める。

私を中心に、竜巻を作るように。

時折、杯から湧き出た酒を小さな刃物のように形を変え、その流れに流しながら私はドーム内に渦巻を作り出していく。

……そろそろ割れるな。

ある程度すれば、私が制御せずとも勢いを保ったまま竜巻は周りを巻き込みながら巨大になっていく。

それは当然、スケルトンから私を護っていたドームも例外ではなく……甲高い、ガラスの割れるような音と共に割れてしまう。

だが、問題はない。


『カカ?!』

『カッ!カカッ?!』

「焦ってる?もしかして焦ってるの?」


砕けたドームも、霧散させずに竜巻に取り込むと共に。

スケルトン達が竜巻へと巻き込まれ、部屋の天井へと打ち上げられ、そして傷だらけとなって消えていく。

時にはスケルトン同士で激突し、時に外れた骨の腕が他のスケルトンの頭を砕く。

小さな部屋の中に出来た、災害の再現。

耐久がないスケルトン達にとっては致命的な現象だったのか、その数を徐々に減らしながら……最終的にその全てが光の粒子となって消えていく。


「うわ、ログすご……縁結晶も落ちてるし……次からコレで良いな」


恐らく、スケルトンの能力は仲間を呼び寄せる系統のモノだろう。

それも、範囲内の同種族を瞬間移動させてまで招集する類のモノ。

上限は決まっているのだろうが、それだからこそ今大量に倒したのにも関わらず……部屋の外から入ってくるスケルトンの数は先程の比ではない程に少ない。

それらもすぐに天井へと打ち上げられ消えていくのだから……すぐにこの階層に居るスケルトンは全て光の粒子となる事だろう。

スポーンがどれくらいの時間で行われているかは分からないものの、それなりの量だ。

全てが全て、同時に湧き直すなんて事はない……と信じたい。


「ふぅー……2階層はこんな所なのかな?他にも何かしら居そうだけど。……ちょっと駆け抜けたい所ではあるなぁ」


過剰供給を解きつつ、私は竜巻を解除する。

それと共に、私の背中から生えるように、紫煙、酒気の腕を合計6本程度作り出し、適当な武器も同時に形成した。

スケルトンが居なくなっただけで、この階層にはまだ三色道化が居るはずだ。

それ以外にも新たな敵性モブが居ないとも限らない。

……【隠蔽工作】切れちゃったし……階段見つけるまではこれでいくかぁ。

背中の腕が全て干渉する事なく動かせるのを確認した後、私は通路へと出て、


『ギィ?!』

「観えてる観えてる」


しれっと壁に紛れていた三色道化を全ての腕で攻撃する事で、すぐに光の粒子へと還らせる。

流石に影道化の能力や狩道化の能力を使うならば兎も角、壁道化の能力を使われた所で私に対しては意味が全く無い。

それどころか、動かないでいてくれる為に攻撃の狙いを付けやすい為に有難いとも言える。


「よっし。久々に走り回ろう。……こういう時、1人でやってると楽だよね。MPKとか言われないし」


道中、出てくる敵性モブは出来る限りスルーして。

私の進行方向上に居る相手だけを、背中の腕と武器で倒していく。

ダンジョン内を駆け抜けるなど、ここ最近は全くしていなかった事だ。

そもそも空を飛び跳ねる、というのも普通はしないのかもしれないが……ダンジョン内マラソンも中々しないだろう。

何せ、普通のダンジョンならば罠がある。

当然、私は掛かった事がないだけでしっかりこのゲームにも罠の類は存在している。

……掲示板を見る限りは、ハードモードからその手のは増えるらしい……んだけど。

そもそも、ダメージを与える系の罠に引っ掛かった所で、上薬草の具現煙を常用している私にとっては軽微な出費。

拘束系に引っ掛かったら面倒だろうが……解けるまでの間は、先程スケルトン達に行ったように耐久すれば良いだけの事。

問題となるのは……状態異常系付与の罠だろうか。


「ま、そういうのも掛かってみたい所ではあるねぇ。……今回は攻略が最優先だけど」


一度3階層まで降りてしまえば、次からはこの階層を探索せずとも済む。

ならば、その手の好奇心による行動は出来る限り……本当に出来る限りで止めておこう。


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