目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode9 - D1


--【四道化の地下室 Hard】1層


【ダンジョンへと侵入しました:プレイヤー数1】

【PvEモードが起動中です】

【どうやらここはセーフティエリアのようだ……】


「さぁーてやっていこう」


セーフティエリアも、そこから出た通路の造りもノーマルモードと何ら変わらない。

薄暗いダンジョン内を、松明が淡い光で照らしている。

そんな通路を、私は酒気を全力で展開した状態で歩いていた。

【酒精操作】に意識を割くのに疲れたわけではない。これも1つの私の攻撃だ。

……生物系にはこれがいっちゃん効くからねぇ。

【酒気帯びる回廊】では、基本的に出現する相手が既に酔っているか、異常に酔いに強いかの二択だった。

その為、普段ならば周囲に『酩酊』を付与する【酒気展開】の意味が薄かったものの……ここでは違う。


「どうせなら手斧も出しておこうか」


『酩酊』を付与する手段はそれだけではない。

等級が上がった事によって、私の紫煙外装にもその手の能力が付いている。

その為、今私の近くで戦おうとすれば……2つの『酩酊』付与手段によって、どんどん酔いが回っていく。

……我ながら、こんな相手とは近くで戦いたくはないって思うよ。しかも距離取ろうものなら斧が飛んでくるし。

近距離では『想真刀』が、酒気を帯びて襲い掛かり。

遠距離では紫煙外装が、紫煙を率いて襲い掛かってくる。

そしてそのどちらでも、攻撃の密度を上げられるのだから……これから私と戦う相手はそれらを対処していかねばならない。

あまり実感は湧かないものの、成長しているのだなぁと改めて思う。


「で、だ。……もう観えてるんだよなぁ」


【心眼】、及び【観察】による視界内の必要情報の取得により……壁にしか見えない場所にHPバーが表示されている。

どう考えてもこのダンジョンに出現する敵性モブの1体である壁道化だろう。

元々こうして通路に自身の持つ壁を張る事で、プレイヤーを他の敵性モブの元へと誘導する支援型のモブであり、その戦闘能力自体は低かった。

一応、存在している周囲の景色をゲーム調に変えていくという能力も持っているが……ほぼほぼフレーバー的要素でしかない為、それ自体はそこまで重要ではない。

……一旦、確かめるのも大事だよね。

ノーマルモードならば、適当に蹴りをいれたりなんだかんだをして戦闘を開始していたものの。

ここはハードモード。あのマノレコでさえ空を飛ぶ世界だ。

慎重に行って損をする事は無いだろう。


無造作に展開していた酒気を一度私の近くに集め、手斧の形に圧縮し。

私はHPバーが表示されている壁へと向かって投げつけた。

瞬間、


『グゥウ?!』

「おぉー耐えた。耐久面で強化された感じか、な……?」


壁が砕かれ、その向こうに居た道化師へと手斧が直撃し後方へと吹っ飛んでいく。

しかしながら、それで倒し切ることは出来ずHPバーの半分程度を削るまでに留まった。

……なんだあの衣装。

元々、壁道化は土色の衣装に身を包んだ道化師のようなモブだったはずだ。

しかしながら、今現在私の目の前に居る壁道化らしき敵性モブは全体的に土色が多いものの、黒や赤の2色も追加されている衣装を身に着けていた。


『ギャッ、フェッフェッフェッ……』

「ッ!おいおいそういう方向性の強化?!」


どういう敵性モブだ?と私が追撃せず【観察】していると。

推定壁道化は、倒れたままに鳴き声を放ち……衣装の色合いが土色が多いものから黒色が多いものへと変化し、少なくとも5体以上に分身していくのが見えた。


「性質の切り替えってよりは……3種合成とかそっちの類か、なッ!」


言いながら、手に握った手斧を自身の背後へと振るう。

すると、先程まで何も居なかったはずの場所から金属同士がぶつかり合う音が聞こえ、衣装の配色を赤へと寄せた道化師が虚空から出現した。

神出鬼没に出現する狩道化の能力だ。

得物を弾かれた道化師は笑いながらも、再度虚空へと溶けていく。

……結構不味いか、コレ。

壁道化のような耐久を持ち、狩道化のように一撃離脱が可能で、影道化と同じく増えていく。

これが【酒気帯びる回廊】の海賊やアマゾネスのように中ボス的立ち位置で出てきていないのが一番不味い。

下手に長引かせれば、周囲からコレが集まってくる可能性があるのだから。


「あぁもう!ただ指輪が欲しいだけなのに!」


私は周囲の酒気、そして僅かに漂う紫煙を様々な武具の形へと変え、自身すらも巻き込むようにして通路全体へと射出する。

それと共に、壁や床、天井へと激突したものに関してはそこから更に弾けさせる事で2段階の範囲攻撃を放った。

私自身は問題ない。死ななければ具現煙によって回復が行われるからだ。

だが、道化師にそのような能力はない。


『ギッ!?ギギィッ!!』

「釣れたねぇ!?」

『ギャッ!?』


そんな状況に晒された相手はほぼ確実に逃げるか、私本体へと向かって攻撃を仕掛けてくるかの2択を選ぶ。

今回の道化師は、その全身に傷を負いつつも私の背後へと再度出現し……それを待っていた私によって、顔面を手斧で割られ光の粒子となって消えていった。


【三色道化を討伐しました】

【ドロップ:意識の欠片×1】


戦闘終了だ。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?