目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
Episode1 - Prologue


--紫煙駆動エデン・娯楽区


暑い。最近はカフェの方の仕事もしなくて済んでいる為か、外にめっきり出ることも減った。

その為、基本的に外気というのに触れる機会も少なくなっていたのだが、


「まさかゲーム内で四季を感じるだなんて……」


紫煙駆動都市エデン。

Smoker's Gardenという、煙草をメインにおいたゲームにおいて、プレイヤー達がメインに活動するこの移動都市は今夏を迎えていた。

と言っても、気分だけが夏になるようにお得意の不思議テクノロジーである紫煙技術による気温操作や湿度操作によるもので、外界に出ればこれまた様々な気候が味わえる。

そんな都市の、娯楽が集まった区画。

静かなカフェのテラス席で、アイスコーヒーをちびちびと飲みながら、私は人を待っていた。


「……【酒気展開】の所為で、ちょっとアルコール入った感じになるなぁこれ」


『酩酊』まではしない、というよりも。

『酩酊』が今の所全て【葡萄胚】へと変換されているが故に、ステータスに異常が出ていないと言った方が正しいだろう。

それを少しだけ残念に思いつつ、氷を音を立てながら口で砕いていると、


「おう、行儀わりぃな」

「あは。ちょっとしたかき氷気分だよ。色々終わった?」


1人の男性プレイヤーが話しかけてきた。

全体的にいつもよりも軽装ではあるものの、腰には何本かの金槌を、首からは無骨なガスマスクを下げた作業着風の装備を身につけた、私のパーティメンバー。

メウラだ。


「終わった終わった。ちと面倒だったけどな。デザインも変わったが……良いんだろ?」

「まぁね。音桜ちゃんにデザインは任せたし、何なら最近の私は結構そうやって呼ばれることの方が多かったからねぇ」


彼に任せていた作業はただ1つ。

私の装備のアップグレードだ。

つい最近も、イベントにて戦った『黒血の守狐』の素材を用いてアップグレードしていたものの……あれはどちらかと言えばマイナーチェンジ。

今回は素材などを一新した上で強化した、正しくアップグレード版だ。


「じゃあ渡していくぞ。元々着てる装備はどうする?」

「んー……こっちはとっておくことにするよ。一応何かに使えるかもしれないしね」

「了解。気が変わったら言ってくれ。こっちで分解して素材に戻す事も出来るから」

「あいよー」


言って、彼から送られてくる装備に目を軽く通した後、それらを身に付ける。

今までは正しく赤ずきんのような姿をしていた私だったものの、今回からは少しだけその様相から変化した。


基本的には元の装備と同じ様に、上はボディス、下にドレススカートを。

手にグローブを付け、足には狼と葡萄の衣裳がされた革のロングブーツが装備された。

そしてここからが変わった所で……外套には以前のようにフードが付けられていない。代わりに、


【変換機構が装着されました】

【アバターのSTを一部、外套内蔵のタンクへと移動させます……完了】


紫煙で出来たフードがふわりと出現し、頭部を隠す。

紫煙技術を扱うのに慣れてきたメウラが、試しに付けた内蔵されたSTを消費する事でフードを出現させる機構だ。

見た目以上の意味はないものの、これで私も自分の通り名である『紫煙頭巾』そのものとなった所だろう。


「うん、ちゃんと機能してるね。どうよ作成者くん」

「まだ甘いな。紫煙技術の練度が足りてねぇのか、機構の組み方が甘いのかたまにブレてやがる。もう少し磨いたら調整すっから今はそれで我慢してくれ」

「あいよっと。まぁ【魔煙操作】の練習用程度に考えとくよ」


無論、これは見た目用の機構ではあるものの。

私が使えば、途端に武器へと変える事も出来る。

将来的には全身の装備に似た様なSTを溜め込み放出する機構を付けておきたい所だが……それはもう少し後になる事だろう。


「詳細送っとくぞ。どうせこの後行くんだろ?」

「ありがと。まぁね。そろそろリベンジには丁度良いしねぇ……せめてイベント前には終わらせておきたいし?」


メウラからそれぞれの装備の詳細情報をスクショしたものを受け取りながら、私は席を立つ。

ついこの間、公式から出た次回大型イベントの告知。

約2週間後に開始されるそれまでに、私はやるべき事がある。

……あの時とは色々変わったし……やるなら今しかないよねぇ。

紫煙外装が強化され、装備が変わり、そしてスキルが整理された今……私がやる事など1つしかない。


「お土産はお酒で良いかな?」

「鬼の首でいいぞ。勝ってこい」

「あは、言うねぇ。……負けるつもりは甚だ無いけどね」


【酒気帯びる回廊】、そのボスである『酒呑者』へのリベンジだ。

私の代わりに席へと座り、適当な物を頼み始めたメウラに軽く手を振って、私は中央区へと足を向ける。

……ま、気楽にやっていこう。死ぬわけじゃあないんだから。

まずは、準備運動も兼ねて……あのアマゾネスから打倒していくことにしよう。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?