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Episode22 - B2


「……ふぅ……やっと見えてきた」


やがて周囲の景色がぼやけつつも見えるようになってくる。

私から離れた位置、そこにはこちらへとボウガンを向けたメアリー=シンドロームが居た。

彼女は何処か焦ったような表情を浮かべつつ、その引き金を連続して引いていく。

……風切り音もブラフじゃなかったわけだ。

そうして放たれたのは、凡そ2種類の矢。

1つは、風切り音を出している木製のボウガンの矢。

そしてもう1つは、何を素材にしているのか白い陶器のようなものを使って作られているのであろう、音のしない矢だ。


手斧を持ち、どちらの矢に対しても自身から離れた位置で紫煙の壁を作り出す事で防げるかどうかを試してみる。

すると、音のしない白い矢は壁で防げたものの……一見すると普通に見える木製の矢が壁を通り抜ける形でこちらへと向かってきているのが観えた。

……そういう仕組みね。

恐らく私が被弾した時も同じような事が起きていたのだろう。

防げたと思ったら防げておらず、聞こえていないものだけを防ぐことが出来ていた。

こちらへと飛んできた矢を手斧で払っていくと、


「嫌な予感しかしないなぁ」


突如、甲高い金属音が聞こえだした。

いつの間にかメアリー=シンドロームの姿は何処にも居らず、匂いも無くなっている。

何が始まるのかと警戒していると、再度ディスプレイに顔文字が映し出される。


『(#^^)』

「感情表現が独特だねぇ……」


怒っているつもりなのだろう。表情よりや雰囲気よりも、こうして文字の方が感情豊かであるのは中々に面白い。

先程と同じ様に『暗闇』が付与されないように警戒していると……金属音が鳴り止み、少女が再度この場に現れる。

虚空から現れた彼女は、両手に複数のパーツを持っており……一見すればそれらは武器のようには見えない。


「ッ、おいおい何持ち出してきてるんだ君?!」


だが、私にとってそれは既知のパーツでもあった。

先程見たムービー内で同じパーツが使われた武器があったのだ。

それらを使って彼女が作り上げていたのは、こうして個人相手に向けるべきではない兵器である、


「バリスタなんて造るな、こんな所で……!」

『(^^)ノシ』


彼女がパーツを組み立てるのを止める為、距離を詰めようと走りだす。

しかしながら、複数のパーツは彼女の手の内で光を放ったかと思えば……次の瞬間。

小型ではあるものの、木や金属、白い何かによって造られたバリスタがそこには在った。

……くっそ、武装製作もこの場でやってくるのか……!

相手がそういう行為に長けているのは知っている。だが、それを実際に戦闘中やってくるとは思っていなかったのだ。


「いけ、『酒霊』!」


走りつつ、私は赤い大蛇を2匹程作り出しメアリー=シンドロームの元へと向かわせる。

バリスタはその威力こそ高いものの、連射が効くような兵器ではない。……そういうものもあるにはあるが、今回造り出されたものはそのような機構は無いように観える。

だからこそ、単純に相手が対処しなければならない頭数を増やす。

極論、私だけ狙われてもそれはそれで良い。それは逆に『酒霊』がそのスペックを最大限活かせるという事なのだから。

……何アレ?

そうして『酒霊』が向かっていく中、彼女が虚空から取り出したバリスタの矢は少しばかり……否。

中々に異彩を放っていた。大量の御札のようなものが巻き付けられていたのだ。

悠々と、自身に迫ってくる酒の大蛇達を気にせずにそれを装填し放たれる。


「何ソレ!?」


ガガガと、矢が通常出さないような音を立てつつ回転しながらこちらへと飛んできているのが観えた。

非常に遅い。何なら普通に私が歩いても追い越せる程度には遅い弾速だ。

だが、その異様な姿に警戒せざる得ない。

一度処理した方が良いだろうと、『酒霊』の内の1体を矢へと近づけさせながら、満足げに息を吐いているメアリー=シンドロームへと向かって手斧を軽く投擲した。

腰も入っていない、手首のスナップだけで放たれたそれは簡単に彼女へと命中し……HPの1割程度を吹き飛ばす。

……脆い。純後衛の中でも、本当に防御面に振ってない人みたいな脆さだね。

ボスにしてはHPが少なすぎると感じるものの……そもそもが正面から戦う類のボスではないのだろう。

そんな事を考えていると、怒ったように身振り手振りをしているメアリー=シンドロームの手前……『酒霊』が矢と接触し、


「は?」

『Σ(・・;)』


白い爆炎を発しながら爆発した。

酒の塊でもある『酒霊』との相性が良すぎたのか……そのまま、爆発は広がっていく。

咄嗟に紫煙を使って空中へと駆け上がる私に対し、メアリー=シンドロームは逃げる術を持ってはいないのか……否。

その爆発の中へと自ら飛び込んでいく。

当然HPが削れていくものの……凡そ、全体の3割程度が減った所で減少が止まる。

それと共に、


『ATTENTION!ATTENTION!侵入者確認!ATTENTION!ATTENTION!』

「今度は一体何……?」


けたたましい警告音と共に、周囲から機械音声が流れ始めた。

インベントリ内からST回復用に煙草を取り出し、火を点け咥えつつ周囲を警戒していると、


『メアリー様の身に危険が生じています。排除対象確認。――排除開始』

「……ッ、そんなのムービー内で造ってなかったじゃん君!?」


虚空からメアリー=シンドロームを護るかのように、3機のドローンが出現する。

大きさはそこまでではないものの……それぞれが攻撃用の武装としてなのか、ボウガンを乗せている。

HPバーが出現したのが観えた為、破壊は出来るだろう。

しかし、私の耳には警告音以外にも先程聞いた金属音が聞こえていた。

……次はなんだ……?

こちらへと複数の矢を撃ってくるドローンの相手を程々に紫煙だけで行いつつ、私は周囲を見渡していく。

メアリー=シンドローム自身の攻撃手段はこれで3つ、次で4つ目だ。

ボウガン、バリスタ、目潰し中に私へと迫ってきていたような音が聞こえている為に、近接系の攻撃手段も持ち合わせている。

全体的に遠距離寄りではあるものの……次もそうであるとは限らない。

そう考えていると、


「あッ……ぶなぁ!?」


突如、私の頬を掠めるような形で何かが飛んできた。

気が付けば金属音は既に消えており……私を見上げるようにして、何かを投げたような姿をしたメアリー=シンドロームがそこに居た。

投擲系の武器。その詳細は観えていない為分かっていないものの、ここに来て再度遠距離系。

ならば、と私は片手に手斧を呼び戻し、もう片手で耳飾りへと触れる。


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