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Episode15 - R1


--紫煙駆動都市エデン・娯楽区


「へぇ、そっち側はそうなってたんだ」

「え、えぇ。貴女が抜けた後は大体そんな感じよ」


娯楽区の、適当な喫茶店。

その中で、疲れ切った表情を浮かべる患猫に対し、私は少しばかり苦笑しつつも紅茶に口をつけた。

……大変だったのは可哀想だけど、まぁ仕方ないよねぇ。こっちもこっちで大変だったし。

私が部屋の奥……【世界屈折空間】の亜種のような場所へと辿り着くまでに、患猫達は遺跡から脱出する為、追ってくるスケルトン達を蹴散らしながらも進んでいたようだが……如何せん数が多く。

私をしきりに心配する音桜や、何処か集中出来ていないメウラなど、私が居た時よりもパフォーマンスが落ちた2人と共に行く道中は中々に苦労したらしい。


「で、でも貴女も貴女で……その、大変だったようね?」

「あは、大変か大変じゃないかで言えば……大変だったねぇ……」


『【死骨王者 グレートヒェン】』。

まともな準備をするわけでもなく、相手がどのようなボスかという情報もない状態で挑み勝利したものの……今でも相手との相性が良かっただけに思えてしまう。

第一形態とでも言うべき人間形態では、単純に私の新しい戦い方がハマってくれただけではあるし、何なら相手のフィジカルもそこまで強くはなかった。

紫煙と酒気によって拘束が出来る程度の相手だ。他のボス達……それこそ『信奉者』辺りよりも膂力は弱いだろう。


そしてその後の鎧形態。

あちらもあちらで、対空攻撃手段はもっていたものの……私が持つスキルや、『酒霊』といったちょっとした小技によって完封出来る程度のモノでしかなく。

紫煙駆動の一撃を軽々と耐えきられたのは驚いたものの、それも攻撃を与える事で延々と強くなる『想真刀』との噛み合いによって餌になってもらった程度の印象だ。

……結果論だけどね。

当然ながら、私はこれを楽勝だったと言うつもりはない。なんせ、全てが全て賭けのような戦いだったからだ。

相手が索敵系のスキルを持っていたならば、私の新しい戦い方は通用しなかっただろう。

対空手段がもう少しばかり勢いがあれば、空中に居る私の周辺に大量のスケルトンが展開されていた事だろう。

『想真刀』の能力吸収があったとしても、鎧の耐久性を抜けなかった可能性だってある。

全てが奇跡的に噛み合ってくれたからこそ、勝てた。それだけなのだ。


「あ、そういえば他の所の遺跡探索とかはどうなったの?私そっちは聞いてないんだよね」

「な、なんとか色々終わったそうよ?目星をつけてたのか、リーダーの所には遺跡を作り出した張本人が居たらしいわね」

「……ボスだよね?」

「そ、そうね。リーダー達がそのボスを倒すと同時に、他の遺跡含めて全て消失。バックストーリーみたいな情報や、紫煙外装の強化に使えそうな情報なんかもあったみたいだけど、スクショをとった人が流してくれたくらいしか今は残ってないわ」

「へぇ、強化ねぇ」


紫煙外装の強化。

以前強化されてから、手斧の分裂能力はあまり使えていないものの……紫電は取り敢えずと言った風に使う事が多い。

それに、紫煙外装が強化されれば現状で苦戦している相手も楽々とは言わないものの……善戦くらいは出来るようになるのではないだろうか。


「た、ただ……その強化の元、というのが問題でね」

「ん?外界のボスを倒しまくって、確率でドロップするアイテムを使うとか?」

「い、いえ、そういうのじゃなくて。ストーリーを読み解くのが得意なプレイヤー曰く、『過去存在した怪物を討ち倒せ』なんて事が書かれていたらしいのよ」

「へ、へぇー……」


身に覚えがある、なんてものではない。

グレートヒェンに挑む直前、私のログに流れた文章が脳裏に過った。

確かアレは……【過去事変】、なんて名称が付いていなかっただろうか?


「でも、過去に居た怪物を倒せなんて……出来ないよね?」

「え、えぇ。普通ならね。……貴女、分かってるわよね?」

「……いやぁ。私だってどう行くのか分からないんだよぉー……なんか知らないけど、【世界屈折空間】に新しい門が出来てたし、何なら音桜ちゃん達はそれが見えないって言うしさぁー」


こうして今回の顛末を報告し合う前、音桜とメウラを連れて【世界屈折空間】へと移動し確認を行っている。

もしかしたら私も、そして2人も知らない間にあの空間へと繋がる門か何かが出来ていたのかもしれない。

そう考えるのは道理だろう。

しかしながら予想に反して、そこにあったのは私だけが見えている濡れ羽色の門だった。

……アレはちょっと怖かったなぁ。

当たり判定すらも私と2人では違うのか、見えていない側の2人は門をすり抜けるのに対し、私はそんな事は出来なかった。

当然、私があの空間へと移動すると、2人からは突然消えたようにしか見えないらしく……少しだけパニックになっているのは面白かったが。


「他の人を連れていきたくても連れていけないんじゃ、流石に掲示板とかに書き込むわけにはいかないじゃん?厄介な人とか近づいてきそうだし」

「そ、それは……そうね。否定できないわ」

「あと、私があそこに行けた原因って、大本は1YOUくん達が倒したボスでしょ?だったら1YOUくん辺りは私と同じように行けるようになってる可能性あるよ?」

「……つ、伝えておくわ」


無論、私だけで独占したいわけではない。

正直こんな重要そうな情報を1人で握っている現状は、ちょっと私には荷が重いのだ。

だからこそ患猫に話すし、患猫から1YOUという良くも悪くも注目されるプレイヤーへと情報が流れてくれればそれで良い。

……恰好で目立つのは良いけど、違う意味で目立つのは本意じゃないしね。

その後、私達は他愛のない……怨念関係に纏わる話をした後に解散した。

彼女は早速報告に、そして私はと言えば、


「……確認しておくかぁー」


今回、グレートヒェンから得た討伐報酬の確認をするためにマイスペースへと足を向けた。

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